※注意! いつもに増して模造度が凄いです。しかも微妙にシリアス気味です。考えようによってはもしかしてバッド気味…?





今日も今日とて元気に迷子。
あ、大丈夫です。一応、教団内の何処かの廊下ということは判っています。

………。


流石に自分でもこの最低の方向感覚を何とかした方がいいと思う今日この頃ですが、
皆様いかがお過ごしでしょうか。





―Episode IF  I want to return to the house for which the family is waiting.







ドン!


「…あ、すまない」

「あ、いえ、こちらこそ。すみません不注意で…」


つい余所見をしていたら、人にぶつかってしまった。あたた、顔打った…。
謝りつつ顔を押さえながら上を見上げると、そこにいたのは見知らぬ人。
黒髪でゆるい感じのオールバックの…ぱっと見た印象はサラリーマンといった感じの男の人だ。
短く謝罪の言葉を口にしながらも、何処か苛立ったように早足で歩いていく。

えーと、謝ってくれたはずなのに、何故かギスギスした空気を感じるなぁ。
そんなに強くぶつかっちゃったかな…?
ああしまった、再度ちゃんと謝ろうにもタイミングを逃してしまった。

あれこれ考えながら仕方無しにその小さくなっていく背を見つめていたら、談話室の入り口から声が掛けられた。

「あれ? 

声のする方を見れば、ビン底眼鏡に白衣を着た男の人が手を振っていて。

「あ、ジョニーさん、お疲れ様です。休憩ですか?」

リーバーさんと一緒にいることが多い科学班のジョニーさんとは以前にも数回話をしたことがあった。
ここでの数少ない私の知り合いの一人だ。

「うん、研究が煮詰まっちゃってね、気分転換ってとこ。はこれから食事?」

「いえ、迷子です」

包み隠さず言うと、あ、そう…と戸惑うような返事が返ってくる。
うん、慣れてますよ、そういう反応。(末期)

「はは…歩き疲れちゃってさっきもぼーっとしてたら人にぶつかっちゃって…怒らせちゃったかも」

「気をつけろよ〜、? まあでも、ちゃんと謝ったんだんだったら大丈夫なんじゃないか。
 いくらなんでもそんなんじゃ怒らないって」

「いやー、それが何かちょっと不機嫌にさせちゃった感じで…」

元はと言えば私の不注意が原因だし、やっぱり後でちゃんと謝らないとなぁ。
しかし、探そうにもあの人の名前も知らないし…
って、あ、そうだ!

「ジョニーさん誰だか判りますか? その人、なんかオールバックの男の人で…
 多分この辺から歩いてきたんだと思うんですけど」

「オールバ…? って、あ。それスーマンだ、きっと! 機嫌悪かったろ?」

「そりゃあもうすこぶる悪そうでしたが。ここで何かあったんですか?」

「あー、コレコレ」

そういってジョニーさんが指し示したのは…

「チェス盤?」

訳がわからないまま思わず言うと、「そうそう」と笑いをこらえきれない様子で

「オレここでたまにそのスーマンとこいつで対戦してるんだけど。
 あいつ、あー見えて勝負事、弱くってさ」

「へー、なんか意外ですね。見た目の印象は何かそういうの強そうに見えましたけど」

「見掛け倒しってヤツ? あ、コレ本人に言ったら怒られるからココだけの話ね。
 で、それでいて毎回アイツから勝負したがるんだけど。負けるといっつも機嫌悪いんだ」

「てことは…。
…わー…大人げねェー

あ、つい言ってしまった。
つまりさっきの不機嫌な様子の原因は、チェスで負けてイライラしていた、と。
でも、真相を知っちゃうとあの不機嫌な様子も途端に可愛く思えてくるな。
なんつーの? ギャップ萌え?(もっと良い言葉は無かったのか)

「だよねぇ。いい年してさー」

そのままゲラゲラ笑いだすジョニーさん。
念のために言っておくと、別にギャップ萌えに賛成してくれたわけではない。(当たり前)
今までの話を聞くに、その人とジョニーさんはきっと仲が良いんだろうな。
思わず私も釣られて吹き出してしまった。
笑っちゃってすみません、さっきの人。堪え切れませんでした。

ひとしきり笑い終わると、いつもつけているヘッドフォンの位置を直しながらジョニーさんが言った。

「で、。ものは相談なんだけど」

「何ですか? あ。…私で出来ることならいいですけど」

「大丈夫大丈夫。難しいことじゃないんだけど、多分オレじゃ、暫く口利いてもらえないだろうからさ」

「?」

「ちょっと頼まれてくれる?」








ジョニーさんにおつかいを頼まれた私は、結局その黒いコート姿を探してまた歩きまわることになった。

何で迷子の人間にわざわざお使いを頼むんだろうとか思ってはいけない。
いや、私もちょっと思ったけど。
ああみえて科学班は一分一秒を争う忙しい部署だから、少しの時間でも惜しいんだろうし(チェスやってたけど)
どうせ、今は私も暇だしね。

そういえば、あの人。
ジョニーさんの話を聞いたときにも思ったけど、やっぱり黒い団服を着ていたところを見るとエクソシストなのかな。
実は私もここに暫くいるけど、組織が大きすぎて未だに見かけたこともない人の方が多い。
流石に本部なだけあって、いろんな班が入り乱れているからなぁ。


と、あ。いたいた。

考え事をしながら歩いていたら、やっと目的の人物の後ろ姿が見えてきた。
それにしても。
こんな短時間で見つかるなんて、奇跡としかいいようがないね!

「………すみませー」

っと…あれ?
呼びかけるにも、あの人名前…なんだったっけ…?

えーっと…


あ! そうだそうだ!
確か名前は…

「リーマンさん!」

「スーマンだ」


あ、間違えた。
見た目の印象だけでうっかり口にしてしまった。
呼びかける声に反応してこちらを振り向いたスーマンさんは、
私の姿を一旦不思議そうに見た後暫く考えて、納得したように言った。

「ああ、君が最近ここに来たっていうエクソシストか」

「あ、はい。 といいます。宜しくお願いします」

「スーマン・ダークだ。宜しく」

左手ですまないが、とそう言ってからこちらに向かって手を差し出してくれた。
って、左手? 何で…
あ、そういえば、あの後ジョニーさんに聞いた話だとスーマンさんのイノセンスは寄生型って言ってたから、
もしかして右手がイノセンスとかなのかな?
だとしても別に気にすることじゃないと思うんだけど。真面目な人なのかも。
握手に応える私の手付きが毎度の事ながらぎこちない。
なかなか、慣れないなー。

「確か遠くから来たと聞いたが…出身は?」

しゅ、出身?
油断していたところに突然不意打ちの質問をされたので、一瞬止まってしまった。
いや、言っても駄目なことは勿論無いんだけど、色々とその後の説明が難しいというか。
ぶっちゃけとても面倒なことになりそうで(最低)

「あー…遠くには遠くというか。その辺は計り知れない色々が

なんだそれは。…まあいいか。色々と言いたくないこともあるだろう。気にしなくていい。ここは元々そういう人間だらけだ」

どう説明したものかと迷っていた私の気配を察して、良い感じに解釈してくれたらしい。
助かった…。
しかし、さっきから思ってたけど…
なんかこの人、妙に他の人と雰囲気違くないか。(気のせいです)(いろんな事情が絡んでます)
うーん、ジョニーさんとの一件があったからコミカルな人かと思いきや、本人は意外にシリアス?
って、

「あ、そうだ!」

「?」

「これ、ジョニーさんから渡すように頼まれてきたんですけど」

ポケットをゴソゴソやって目的の物を引っ張り出す。
ジョニーさんで思い出したけど、これを届けるために探してたんだった!
すっかり忘れるところだったよ。意味無いよ!

対して、スーマンさんの方はというと、流石に露骨な態度には出さなかったけど
ジョニーさんの名前を聞いた瞬間に苦い顔になったのに気付いてしまった。
もしかして、まだチェスの勝負を引き摺っているのか…はは。

「ああ、これか。すっかり忘れてたよ。ありがとう、助かる」

なんで忘れたかってのは追求しないほうが良さそうだなぁ、とか余計なことを思ってしまったのはともかく。
頼まれ物の小さな箱を渡すと、何か大事な品物だったのかそっとコートのポケットにしまった。

「わざわざすまなかったな。これの為にわざわざ追いかけてきてくれたのか」

「いえいえ、どう致しまして。そんな、すまなくなんて無いですよ。ついででしたし」

「そうか」

「……………」

「…………?」

「でもまあ、
そんなに言うのなら代わりといっては何ですけど

いや、特に何も言ってないが。なんだ?」

帰り道、教えてください…


「…………わかった」









「ここでいいか?」

「ありがとうございます。助かりました」

私の無茶苦茶なお願いを聞いてくれたスーマンさんに連れられて、やっと知っている場所に出られた私は、
その紳士的な対応に感動さえ覚えていた。
だってこの人、ここまで罵りの言葉一つなく案内してくれたんだよ!?

「いや、それは普通じゃないか?」

それが普通じゃない人がいるんですよ

あ、思わず遠い目をしてしまった。
普通じゃない人って、誰とはいいませんが、言わずと知れた蕎麦が好きなあの人のことですよ。
まあその神田の言ってることにも一理あるから何も言えないんだけど。(名前言ってるし)

「でも、酷いんですよ! 毎回毎回、遭遇するたびに容赦なく人の事を馬鹿だ阿呆だのと…!」

「(『毎回』って…そんなに迷うのもどうかと思う…)」

「この間なんて会って突然『テメェには考える頭もねぇのか、いい加減刻むぞ』(声真似)で、いきなり抜刀ですよ!?
 危うく文字通り首が飛ぶところでしたよ!

「それは確かに酷いな。というか、死ぬな

でも神田って、何でだか私が迷子になると良く遭遇するんだよなぁ。
そういう星の元に生まれてきたんだ、きっと。
あんまり良く会うのでこの前
『迷子係』に任命したところ、丁度アレンと一戦やらかして機嫌が最低だったらしい神田に
鬼のような形相で追いかけられたのも記憶に新しい
あれ? そう考えると、この前の件は私の自業自得?

先日の壮絶な鬼ごっこの記憶に思わずブルーになっていると、不意にぽんぽんと頭に手を乗せられた。
わーなんだか凄く小さい子になった気分だ。ってか

「あーのー…」

「あ、悪い、つい」

「いえ…?」

思わず声をかけるとスーマンさんの方も本当に無意識だったようで、逆に驚かれた。
いや、そんなびっくりされてもな。私の方がびっくりだよ。
しかし、今、私そんなに心細そうな顔していただろうか。
慌てて手を下ろしたスーマンさんは、不思議そうに見上げる私の視線に耐えかねてか若干焦ったように言う。

「いや…私には娘がいるんだが、あの子もキミくらい元気だったら、と」

えーっと…

「娘さん…お体の具合が…? あ、すみません!」

つい聞いちゃったけど、プライベートなことだもんね。
流石に会ってすぐに聞くのはちょっとどうかと…
そう思って言葉を濁したけど、スーマンさんは特に気にしてはいない様子で

「いや、気にしないでくれ。娘は小さな頃から体が弱くてね。
 もう何年も会っていないけど、ジェイミーも君くらい元気に…いや、もうちょっと大人しくてもいいか

どういう意味ですか、それ

口元に手を当て難しい顔で考え込まれたので、思わず突っ込んでしまった。
私、オチ担当ですか。
そんなん、真面目に言われれば言われただけ切ないよ。

「あー…でも、やっぱり元気な方が元気じゃないよりいいんじゃないか、とも思うし良いんじゃないかと」

「えっと、無理に褒めなくていいですから(…余計、切ないし)」

「…すまない」

ああ、黙ってしまった。
なんかこの人、口開くたびに墓穴を掘るタイプなのかもしれない。
そう思ったら何か妙な親近感が湧くなぁ。

しかし、まいったな、この空気をどうしよう。
そう思ってこっそり横目で伺うと、丁度相手もこちらを見ていたようで目があってしまった。
おお? なんだなんだ?
じっと見てくる目が何かを探っているようで、それはちょっと居心地が悪い。

そのまま暫く何かをためらっている様子だったけど、意を決したように口を開いた。

「さっきも聞いた話だが。遠くから来たといっていたが…」

「…? あ、私の話ですね」

また黙り込む。
な、何? もしかして、何か駄目出し!?
…まあ、会って少ししか経ってないし、それは流石にない…といいなぁ。

内心、何を言われるかと不安で一杯のところに不意に低い声が響いた。


「…君は…故郷が恋しくなったりはしないのか?」


「え?」

ま、また唐突だな!

故郷?
この場合の故郷ってのは…多分、私にとっては元の世界のことをいうんだろうか。
……。

「うーん、まあ。恋しいというか…」

どうしよう。
なんて、言えば、いいんだろう。


「…やっぱり会えないのは…淋しい…ですかね…?」


思わず言葉を濁してしまった。
あんまり深く考えないようにしてたけど、改めて考えるとどうしても暗くなるし。
思い出そうとすると…うん、駄目だ。
そうだ、考えても仕方の無いことは深く考えないほうがいい。

そんな煮え切らない私の言葉を聞いたスーマンさんは、暫くじっと私の方を見てからため息をついた。

「強いんだな」

「やだなぁ、そんなことないですよ。私、強いか弱いかって聞かれたら、どっちかって言うと弱肉強食の底辺に位置する人間で

いや、そういう意味じゃなくて

だよね、うん。







「オレは…淋しいよ」

一瞬沈黙が落ちた後に、ポツリと呟いた声が聞こえて。
唐突に調子が変わった声色に驚いて思わず顔を見上げた。

「いい年した男が情けない話だけどね。いつだって家族に会いたくて堪らない」

「そんな、情けなくなんてないですよ。誰だって…」

「いや。少なくともここに来る人間は望んでここに来たか、既に何らかの覚悟を決めた者ばかりだよ。
 現にここの事をホームと呼ぶ人もいるけど…オレにはそうは思えないんだ。自分の家族は一つだし、帰るべき場所もひとつだと思ってる」

「…………」

「そしてそれはここじゃない。目を閉じても一番に浮かんでくるのは、もう望んでも会えない人たちの顔ばかりだ。
 それがどんなに意味の無いことだとわかっていてもね」

そう言って自嘲するように笑った。

『ここに来る人間は望んでここに来たか、既に何らかの覚悟を決めた者ばかりだ』

確かに。私の周りにいる人たちも、思い出せばそういう人達ばかりに思える。
アレンも、神田も、リナリーも。
直接聞いたことはないけれど、私の目には少なくともそう見えた。
見えるものが全部とは言わないけど。


でも、私は。


「さっき君に届けてもらった箱もね」

あ、いけないいけない。
思わず似合わない感傷に浸ってしまうところだった…!
スーマンさんはジョニーさんから受け取った箱を再度取り出すと、中を開けて見せてくれた。
あ、可愛いオルゴール。
中には色とりどりの宝石みたいな、可愛いキャンディーが沢山。

「綺麗なオルゴールですね」

「そろそろジェイミーの誕生日でね。毎年、この時期にプレゼントだけ届けてもらうんだ」

自分は不器用だから手先の器用なジョニーさんにプレゼントの作成を依頼したのだと、話す姿は何処か嬉しそうで。
この顔を見れば判るけど、スーマンさんもその家族もとても優しい人達なんだな、きっと。
でも。
その様子にほっとして、娘さんもきっと喜びますよ、と言おうとした私の言葉よりも早く

「だけど」

その顔が不意に曇った。


「娘を喜ばせたいだなんて都合の良いことを言って。オレは結局、何処かで家族と繋がっていたいだけなんだ」

「もう随分前に、とっくに覚悟を決めて出てきたはずなのにな」





途中から何処か違う場所を見ながら話しているようだった。
ううん、何があったのかは分からないけど…
ついついこんな告白をしたくなる様な辛いことでもあったのだろうか。
私のような初対面の人間にまで思わずこぼしてしまうほどの…

「悪いな。つい愚痴ってしまった。忘れてくれ」

「いえ、」

いや、もしかしたら逆にずっと一緒だった仲間には、なかなか言えないことなのかもしれない。
多分。いや、おそらく。

まさか、単に私が何も考えていないように見えたから、ってのはない…と思いたいけど。


「…えっと」

とにかく、何かを言わないといけない気がして、内心焦りながら口を開いた。

「さっきの…会えないってなんで」

「ああ、誤解させたな。いや、大丈夫だ。娘も妻も生きているよ」

ただ会いにいけないだけなんだ。と小さく応える声はどんどん小さくなっていって…
って、ああ、私は馬鹿かー!
余計落ち込ませてどうするよ!?

何でもいい、とにかく、前向きになれるような方向に…

「い、生きているなら…!」

「……?」

「お互い生きているなら。だったら会うのだって…不可能なんてことはないですよ」

私の言葉を聞いたスーマンさんが黙り込む。
こんな勝手なこと言っちゃって、怒られるかな…。

「もう絶対会えないってのと、いつか会えるかもってのは全然違うと思います…し」

ああ、こんなときに何か気の利いたことが言えればいいのに。
それでもやっぱり他に言うことも思いつかなくて、
結局思ったことを思うがまま言うことにした。

だって、間違ったことは言っていない。
詳しい事情も知らない人間が言うことじゃないとも思うけど。
この世とかあの世とか、そういうどうしようも無い壁があるわけじゃなくて。
同じ世界にいるんなら、どんなに頑張っても逢えないわけじゃない。可能性が無いわけじゃない、んじゃないかな。
たとえ結果的に同じになってしまうんだとしても、希望がある分まだ救いがある。あってほしい。

だから。

「ずっとひとりで我慢して。希望を捨てることはないんじゃないかと、私は思います」

「…そうか。そうかも…しれないな」

「そうですよ。生きてさえいれば、またきっと会えます。うん、だから大丈夫」

何が大丈夫なのかは自分でも良くわからないけど。
スーマンさんも何か考えているようだったけど、
私が自分に言い聞かせるように言ったどう聞いても無責任に聞こえるその言葉に、
結局否定はしなかった。

あ、ってか、なんか、勢いで偉そうな事言ったような気が、今更ひしひしと…!

「なんて。…事情もわからず勝手言っちゃってすみません!」

「いや、こちらこそ、突然悪かったね」

慌てて謝るとやっと空気が元に戻った気がした。
やっぱ、慣れないことはするもんじゃないな、と。
自分で言うのもなんだけど、真面目な自分ってなんだか怖い。…っていうのも何かちょっとアレだけど。


それから、ありがとう。と言われた言葉が嬉しくて、ちょっと淋しくなる。
結局、何も解決はしてないんだけど…愚痴を聞いてもらっただけちょっとでも気が紛れてくれてればいいんだけどなぁ。






「…ー」

あれ?
何か聞こえる…。
スーマンさんの方を見ると、彼も気がついたみたいだ。
改めて耳を澄ましてみると…私を呼んでる?

「…ー? そっちにいるの?」

「あ、リナリー? こっちこっち」

向こうから聞こえてくる声に答えると、廊下の角から良く見知った顔が覗いた。
私を探していたのか、こちらを見てほっとした表情の後こちらに向かって走ってくる。

、よかったここにいたのね。あれ? スーマンと一緒だったの?」

私達ふたりが一緒にいることが余程予想外だったのか、目を丸くしながら言うリナリー。
うん、まあ、確かにほんの数時間前まで名前も知らない者同士だったしね。

まあ、色々あって。って、そういえばリナリー私のこと呼んでた? もしかして何か緊急の用事とか?」

「ううん、緊急とかじゃないんだけど…。そうそう! さっき、アレン君から通信があったんだけど、そろそろ戻ってくるらしいの」

「あ、任務うまくいったのかなー」

「最初にに通信がきたんだけどね、それでが何処にもいないから兄さんが探しに行ってくれって。何処に行ってたの?」

あーそれは…。
迷子になってました。
なんて正直にいったらヒンシュクを買いそうなので笑って誤魔化した。
なんか見透かされている気もするけど。

「オレもそろそろ次の任務が入っているはずだから、ここで失礼するよ」

「あ、そうなんですか?」

「うん、いってらっしゃい、スーマン。気をつけてね」

うーん、忙しいんだな、やっぱり。
リナリーの、いってらっしゃい、の声に軽く手をあげて応えたスーマンさんだったけど。
そのまま後ろを向いてもすぐには歩き出さず、ちょっと考え込むそぶりを見せた。

……?




…わ!?

呼びかけられて肩越しに突然投げられた物体に、わけもわからず両手でキャッチする。
あ、危な…! 落とすところだった…。
手を開けて見てみるとそれは、

キャンディ…?

「これ…?」

「口止め料だ」

そういってニヤリと笑った。

口止め料って…ああ。そうか。
改めて考えてみたら、お互い色々赤裸々トークしちゃったからね…!
でも、だとしたらお互い様なんだけど…。
これはもしかして「愚痴ってごめん」って事もなのかな?

まあ、そういうことなら。

「……りょーかいしましたー」

敬礼。
そう私が苦笑気味に答えると、同じように笑って。
今度こそ背を向けて歩き出した。


なんかなー。
青春って感じ?(違う)


ったら、いつの間にそんなにスーマンと仲良くなったの?」

「んー、それは…」

「それは?」

秘密

なにそれ

不思議そうに聞き返すリナリーにそう返したら、呆れたような声が返ってきた。
だって、口止め料貰っちゃったからね。
いくらリナリーでも教えるわけにはいかないんだ、うん。
と、そうだそうだ!

「さっきのアレン帰ってくるって、いつ頃?」

「う〜ん、はっきりとは言ってなかったけど…丁度、そろそろ帰ってくる頃じゃないかしら?」

「じゃー、ぼちぼちアレンのお迎えにでも行きましょうかねー」

「そうね。そういえば、アレン君も大分のこと心配してたみたいだし」

「心配って何で?」

それって普通、出掛けてる側がされるもんじゃないの?
もしかして、迷子になってるのとかバレバレ?
そう私が言うとリナリーは何かを企んだ様な表情になった。
あー、やっぱりそういう表情も可愛いなぁ。

「それは…」

「それは?」

と同じで、秘密

なんだそれ。

そう思わず呟いてしまってから。
私達は、お互いの態度が何処かおかしくて思わず顔を見合わせて笑った。






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◇あとがき◇

これ、誰夢?
もう、本当に申し訳ありません、としか…。
丁度、6巻を読んでいて、切ない曲ばかり聴いていたらいつの間にかこんな話になってました。

実は本編でまともに出てこないので、スーマンというよりもはや立派にオリジナルだよこの人。な上に、
もしかしてこれ、
良く考えなくても恐ろしいほどのバッドエンドフラグなんじゃないか。
ということに書きあがった後に気がついて、一人落ち込んだりしましたが。(気づけよ)

ちょっと、いや、大分迷ったのですが、折角なのでアップしてみました…。
うっかり読んでしまって微妙な気持ちになられた方、すみません!
まあ、タイトルの通り、もしかしたらあったかもしれない日常ってことで、勘弁してやって下さると助かります。

つ、次は普段どおりの本編ですので!
こんな長い文章にお付き合いいただきまして、ありがとうございました!


(H19.7.15)