こんばんは。教団のサンタクロースこと、 です。

今、私が何をやってるのかというと…えっと、壁登り…?
より正確に言えば、上から垂らしたロープを伝って壁伝いに下りてます。
アレンの部屋の上の階の人に頼み込んで実現したこの計画。
だって、クリスマスだっていうのに、この教団には煙突が無いし。
かといって、普通にドアから入っていったんじゃ面白みもないし。
だったら窓から入るしかないじゃないですか。

「……そ、それに…しても…良かった…アレンの部屋、高い場所、じゃ…なくて!」

それでも怖いものは怖いんだけど。
あ、今うっかり下見ちゃった。
落ちたらメリークリスマスどころの騒ぎじゃないな、これ。

あーそれにしても寒い!






―Episode IF  #03   Merry Christmas!& Happy birthday!






アレンの部屋の前についてゆっくり窓を押すと、ギィと窓枠が軋む音が聞こえて思いのほか簡単に開いた。

無用心だよアレン。部屋の窓の鍵はしっかり閉めとかないと。
この時代、いつ何処から何が来るのか判らないんだから。突然変な人が侵入してきたらどうするの。
今の私みたいにな!

……すみません。いつもはもうちょっと考えて行動してるつもりなんです。
今日はほら仕方ないんです、クリスマスだから。街中が浮かれてしまうクリスマスだから。
イベントの力って怖いね。


「……ふふふ……メリー…クリスマース…」


月明かりが差し込む暗い部屋の中。
そのまま不審人物極まりない動きでそろっとベッドの近くへ移動する。

入っちゃった。本当に入っちゃったよ…!

だ、だって、考えてみたら今は夜中の3時。
さすがにアレンだって寝てるはず。
今から枕元にこのプレゼントを置くわけだけど、その時にもし! もしまかり間違って寝顔とか見ちゃったら…!
うわ、やばい。正直言って私、欲望を抑えられるか判りません。
ダメよ、私! しっかり私!
そう、ここはせめて紳士的に携帯で撮るくらいにしておこう。

気付かれちゃったら大変。こういうのは名乗らず去るのがお約束ってもんだよ。
ふふふ、そう人知れず子供に夢を与えるのが、私達、世界中のサンタクロースの仕事。

その後の計画を頭の中で立てていると、フイに背後でカチリと音がした。
あれ? 電気点いた…?
驚いて振り向くとそこに居たのは…

「え。あれ? ? 何してるんですか?」

早速バレたーー!

え。てか

「アレン…!? お、おはよう! 相変わらず朝早いね、なんか早起きのおじいちゃんみたいだね!

「あ、おはようございます、。…言うに事欠いて、おじいちゃんってなんですか

遅くまで待ったのに…この時間でもダメなのか。
アレンって一体、いつも何時くらいに寝てるんだろう。








結局、部屋から出る機会を失くした私は、そのままアレンの部屋に居座ることになった。
最初の目的は隠したまま。
だって今更、メリークリスマース! とか言い出すのもおかしいし。
ああ、最初に会ったときに言ってしまえば…。

で、今私が何をやっているのかっていうと、部屋の中に正座してアレンの大道芸の見物。

おかしい。
なんでこんな流れに…。


アレンもアレンだよ。
こんな夜中に起きてるからてっきり訓練でもしてるのかと思えば、訓練は訓練でも何で大道芸の練習?
なんだ。今から年末の忘年会に向けて準備中なのか。
…教団内でも年末の出し物とか必要なのかな。っていうか忘年会があるのかな。


でも…さっきから見てるけど、さすがに凄いなあ。
次から次へと繰り出される芸に、私は最初の目的も忘れてすっかり魅入っていた。
ひとつ。またひとつ。
ひとつ芸が終わるそのたびに思いっきり拍手をする。

何も無い空間から花束をパッと出し終えたアレンは、今度は懐からコインを取り出した。
それは普通のコインだったけど、手に乗せるとまるで生き物みたいに動き出す。
ええ? あ、あれ何!? どうなってんの?
ビックリして目を丸くする私の目の前で、ひょこっとアレンの首元からコインが覗く。

「え。凄い、凄い! アレンそれどうやってんの!?」

「これですか?」

我慢できずに思わず質問する私に向かって、アレンはちょっと考えてからにっこり笑った。

「秘密です」

「えー…ちょっとぐらい教えてくれても」

けちー。
私が素直に不満を訴えると、種明かしはこの業界では厳禁なんですよ。と苦笑した。
そういえば、アレンって昔は旅芸人の一座にいたんだっけ。
道理で手馴れているわけだ。

「まあ、教えて貰っても私には出来そうにないし…しょうがないか」

「そんなことありませんよ。慣れれば案外簡単なんです。でも、子供の頃はこれがなかなか出来なくて…」

そうやって何かを思い出したのか、ちょっと淋しそうな顔で笑った。
はい、おしまい。そうアレンが呟くと手の中のコインがペコリとお辞儀する。
タネがあるって分かってても凄いなー。本当に生きているみたいだ。
アレンから受けとったコインを裏返したりつついたりしている私を眺めながらぽつりとアレンが言った。

「誕生日プレゼントだったんです」

「誕生日…? え。もしかして、今日ってアレンの誕生日?」

「はい。あ、本当は違うかもしれないんですけどね。僕捨て子だったんで、正確な誕生日はわからなくて…」

「……あ。そうか。じゃ」

「義父に拾われたのが12月25日のクリスマスだったんで、その日が誕生日って事にしてます。無いと無いで結構不便なんで」

不便だからって…そんな理由で作っちゃっていいものなのか、誕生日って。
まあ有って困ることは無いだろうけど。

「ところで、さっきのプレゼントって…」

「ああ。子供の頃の話ですよ。毎年この時期に義父から貰ってたんです」

「…へぇ。いいね、誕生日兼クリスマスか」

「いつ頃からだったか忘れましたけど。『今日は新しい魔法を教えてやろう』そう言って毎年新しい芸をひとつずつ」

そういいながら、器用に部屋にあった装飾品をお手玉する。
おお、うまいうまい。
ところで、さっきから気になってるんだけど。その投げてるの…何? 何かの土産物のお面?
はっきり言って不気味だよそれ。多分呪いのアイテムか何かだよ。
私の内心はともかく、アレンは綺麗に全てをキャッチしてからこちらを向いた。

「こういうのとか、さっきみたいなやつとか。あと、突然雪の変わりに空から花が降ってくるなんてのもあったっけ」

「なるほど、それがプレゼント。いいなあ、夢があるっていうか」

「まあ今になって思えば、貧乏生活だったんで何も買えなかった代わりだったのかもしれませんけどね。
それでも嬉しかったですよ。小さかった自分にはホントの魔法みたいに見えました」

単純ですよね。とそういって笑う顔は本当に幸せそうで、私まで嬉しくなる。
いつも思うけど、アレンってお義父さんの事すごく尊敬してるんだなあ。

「それで今日は懐かしくなって、つい。あ、こんな夜中なのにつき合わせちゃってすみません!」

「いや、私は楽しかったし! むしろ見せてもらえてラッキーだったよ」

「良かった。そういってもらえて嬉しいです。ご清聴、ありがとうございました、

「はは、こちらこそ」

手を大きく振ってピエロみたいに大げさにお辞儀するアレンがおかしくて思わず笑ってしまった。

しかし。

しまった…。
そんな素敵イベントを聞かせて貰った後じゃ、益々今更プレゼントだよーなんて言い出し辛くなった…!
だって考えてもみてくださいよ。
かたや、プレゼントに魔法みたいな手品を披露してくれたお父さん。
かたや、プレゼントの為に壁伝いにあろうことか窓から不法侵入してきた女。
え。何コレ。ギャップがありすぎて泣けてきた。

「ところで今更なんですけど。……は一体何をしに?」

わあ!
タイミングよく、今されてはいけない質問が!
てか、先にそれを気づけよ。

「え。えーっと……散歩

。窓から入ってきて散歩は無いでしょ」

「……い、いや…ほら! 月! 今日、月が綺麗じゃない?」

「まあ、そうですね。確かにそれは……」

「うんだから、ちょっと外の空気が吸いたくなって…。そう。それで…気がついたら……窓の外で壁登りを

「それが本当だとしたら、今から一緒に救護班のトコに行こうか

うん。ちょっと自分でも苦しいなとは思った。
私のあまりのグダグダさにアレンの呆れたような視線が突き刺さる。
だめだ。私、顔に出るし。
これ以上は言い訳が続かない。
まあ、しかたない…か。

「いや、クリスマスだからね。……プレゼントを…」

「え? プレゼントって……僕に?」

「そうだよ。じゃなきゃ、わざわざアレンの部屋に不法侵入しないよ」

「あ、すみません、考えても居なかったんでビックリして…。って、今普通に不法侵入って言った?

「気のせいです」

思い切って打ち明けると、アレンはビックリしたような顔で自分を指差した。
って、アレン。本当に気がついてなかったんだ。
たまに天然だよね、アレンって。

「あ、ありがとう、。ごめん、僕、今は何も用意してな…」

「いやいやいや、私がしたくてしたことだし! 受け取ってもらえれば万々歳!」

私がバッと箱を取り出すと、それを照れくさそうに笑いながら受け取るアレン。
なんていうか…一言で言えば、萌え。
そう! これだ!
私はこの顔が見たくて壁に登ってたんだよ!

「…ありがとう」

「どういたしまして。自分で言うのもなんだけどきっとアレン喜ぶよー。ナイスプレゼント!

「(な、ナイス…?)そうですか。それは楽しみだなあ」

「美味しさはお墨付き! なんたって、私じゃなくてジェリーさんお手製だからね!」

「いや、。そこは普通、自分のお手製っていうもんじゃないの…?」

呆れたようなアレンの言葉はこの際聞かなかったことにする。
私だってそう思ったんだよ。そう思ったけど…
クリスマスに劇物をプレゼントすることになったら悲惨だと思ってさ。
いや、一応人並みには出来るつもりなんだけど…たまに突然変異で面白いものが出来るときが……。
折角ならより美味しいものをプレゼントして喜んでもらいたいじゃないか。

がさごそと包みを開ける音が部屋中に響く。

「ケーキ? わぁ、本当に美味しそうだ」

「うん。本当は好物が一番だと思ったんだけど、折角クリスマスだし」

プレゼントの箱を開けたらみたらし団子とか、ちょっと絵的にどうかと思ったし。
そんなの関係ナシにアレンは喜ぶだろうけど。

「とにかく、食べたらイチコロ! あまりの美味しさにもうそのまま昇天間違いなしだね!」

「昇天したら普通に困るよ……えっと、じゃ、いただきます」

そのままアレンは私の期待を込めた視線の前で、フォークでケーキを掬って食べた。
え。ちょっとまって、アレン。そのフォーク何処から出した。
…マイフォーク? 持ち歩いてるの?

「…うん、美味しいです。あ、も食べます?」

「え? いいの?」

「はい。さすがに自分ひとりじゃワンホールは…まあ、余裕ですけど」

「余裕なんだ」

まあアレンなら同じものがあと2、3個あってもペロリだろうけどさ。

「折角のケーキだし、こういうのは一緒に食べる人がいたほうが何倍も美味しいですよ」

プレゼントした当人が食べるのも変だとは思うんだけど。
折角アレンもこう言ってくれていることだし。ちょっとくらいなら…いいよね?
……実はちょっと狙ってたとか思ってたことがばれてたらどうしよう。
だって、ジェリーさんお手製だよ!?
ぜったい美味しいよ。

「じゃあ、お言葉に甘えて……いただきまーす」

「どうぞ」

一口貰って口に運ぶ。
ああ…やっぱりすっごい美味しい!!

なんだろう…こう、しつこくもなくそれでいて程よい甘みのスポンジにこれまた口解けのよい滑らかなクリームが運命の出会いを果たしたその瞬間がまさにこの世の…

しまった。あまりの美味しさに変なスイッチが入ってしまった。









「っと。もうこんな時間だ。私、そろそろ帰るね」

ふと、長い時間部屋に居座ってしまったことに今更気がついた。
目的も達成したことだし明日はお互い休日ってワケでもないし、あんまり長居するのも悪いよね。今更だけどな。
…勿論、帰りは普通にドアから出よう。

「……………」

「じゃ、おじゃましましたー…って、アレン?」

あれ? どうしたんだろう。
そういえば、さっきから黙ったままだ。
まさか、本当にあまりの美味しさに昇天しちゃった…とかそれはさすがに無いか。
それでも、突然動かなくなったアレンがさすがに心配になって声を掛けると、反応は薄いもののゆっくりと身じろぎした。
…? まあ時間も時間だしね、眠いよね。

「……帰っちゃうんですか?」

「え? そ、そりゃまあ……夜も遅いし」

って、今帰るっていったじゃないか。
うーん、これは本格的に眠いのか。

「まさか深夜に男性の部屋に無断で入ってきてそのまま何も無しに帰っちゃうなんて…ないですよね?」

「? …何もなしって……ケーキ持ってきたよ? これ以上何を出せと

「そういう意味じゃなくて。……ああ、判りました」

判ったって…何を?
アレンが何を言いたいのか判らなくてポカンとした私の手を取って、
そのままフッと意味深に笑った。

「誘ってるんですね? 

思わず聞こえてきた言葉に言葉を失う。
えーっと。なんだ。今、アレンは何を言ったんだ。
さ、誘…?
誘いって…なんの誘いだよ。まさかアレンも一緒に壁登りしたかったとか…いやそれはない。
ってことは………ま、まさか…!

「………まさか、このサイトでこんな言葉が聞けるとは…!!」

すごいぜ、まるで普通のアレン中心ドリームサイトみたいじゃないかーー…!!!
そうか。こ、これがクリスマスマジック…!!
さすが聖なる夜だぜ……!!

「え。…サイト、ってなんですか?」

「……あ、気にしないでアレン。こっちの話」

不思議そうにこちらを見るアレンの瞳に私の顔が写っている。
やめてそんなキョトンとした顔でみないで。これ以上は私の理性が限界です。
だから、顔近いよ。ちょっと!

顔が近づいた所為か、ふとアレンから何かいつもと違う匂いがするのに気がついた。
……アルコール?
え。アレン、お酒なんて飲んだの…ってさすがにそれはないか。
思い当たるものといえばさっきのケーキしかない。
そういえば、よく考えれば、あれ食べてからだなおかしくなったのは。

え。でもまって。たしかにケーキに洋酒が少し入っているなーとは思ってたけど。
まさか…あんな少しで!?

「まあ、冗談はともかく。よし、ちょっと落ち着こうアレン!

「冗談なんかじゃありませんよ」

だから、やめて!
そんなムッとした顔で反論しないで、可愛いなオイ。食べちゃうぞオイ。

あ、ダメだ。混乱のあまり変な思考が混ざってきた。
だから冗談なんだよ! 頼むから冗談って事にしておいてください。
だって、そんな酔った勢いでどうのこうのって…美味しすぎる。
あーまた変な思考が!

…私も酔ってんのかなこれ。

「あれ? どうして逃げるんですか?」

「どうしてって…」

なんかアレンの笑顔が怖いからです。

なんとなく言ったら最後な気がして、後ろにじりじり下がる。
同時にアレンもこちらにじりじり近づいているもんだから、結局二人の距離は変わらない。
うわ。なんか目が据わってるし。

「あ、アレンこそ…なんで近づいてきてるの……かな?」

「そんなの決まってますよ。が逃げるからじゃないですか」

「あ、じゃあそしたら私が止まったら」

僕に捕まるだけですけどね

変わんないのかよ!

ちょっとちょっとアレンさん。
タチ悪くなってるよ!

「だってほら、そういえば、まだから貰ってないな…と思って」

「え。貰って…って。あ、ほら! プレゼントならさっき………」

「それはクリスマスプレゼントでしょう? 僕が言ってるのは誕生日プレゼントの方ですよ」

「え? あ、そ、そっかそっか! ごめん、後で何か…」

「今がいいです。ていうかがいいです。くれますよね?」

いや、そんな普通に当たり前ですよね的に言われても。


後ろに下がったら足の裏に何か硬いものが当たった。
あーもう後がな…

「おおおぉ…!?」

我ながらもっと女らしい声が出せないものか。
バランスを崩した拍子に、後ろに倒れこむ。
あぶなっ…ベッドがあってよかった…って、良くないから。更に状況が悪化してるから。

上を見れば、こちらを見下ろす銀灰色の瞳。
よく見ると目がいつもに比べて若干トロンとしている。

「ふふ。やっと捕まえました

「わあ。ついに捕まえられましたーーーー!?

キャラ違いますよ、ちょっと。
わー離してー!

「ああああアレン? も、もしかして…本当に酔ってる?」

「失礼な。酔ってなんてないですよ。……ああ。でも、もしかして」

「ほ、ほらやっぱり酔っ…」

「酔ってるとすれば、に、かな」

「なんだちくしょー! うまいこと言ったつもりかーー!!」

危なかった。
思わず「山田君、座布団1枚持ってきて」とか言っちゃうところだったよ。
やったねアレン、10枚獲得で豪華商品プレゼントだよ。でもあれ、基本的にいらないものばっかりなんだよね。
いや、そんな笑点談義なんてどうでもいいんだよ。
今はこの状況をどうするかが問題であって…

ふと上を見れば、綺麗に笑うアレンと目があった。
うーん。やっぱりカッコイイなあ。うん、綺麗なだけじゃなくて格好良い。
そのまま顔が近づいて…

え。なにやってんのこれ!

「……、なにか…甘い匂いがする……」

「あ、甘い匂いって何!? あ、きっとさっきのケー…ッ!! く、くすぐったい。ちょっとドコじゃなくくすぐったい…!」

熱い息が首に掛かるのと、アレンの白い髪が頬にかかって本当にくすぐったい。
わー髪の毛さらさらだー。
ちょうど顔を私の肩口にうずめるようにしているせいでアレンの表情は見えない。
だからその状態で話されると、すっごくくすぐったいんだって!
そんなこんなで思わず大声であはははと笑い出す寸前に。

首に湿ったような感触が。って。

え。

嘘。

いいいいいいま。な、ななななななな。
舐めやがったあああーーー!!???

「あああああ、アレンさんっ!? いいいいま何を………」


「……あれ? 真っ赤ですよ、

そりゃお前真っ赤にもなるわー! なにやっちゃってんの! 何やらかしちゃってんの? てか、なんでそんな余裕の笑みなの!」

「………、可愛い」

「かっ。かかかか…………かわ………ッ!?」

可愛いって何だ! 可愛いって!?
むしろ可愛いのはお前のほうだろが、こらァァァァ!
私の中で今年のベストオブビューティ受賞だコラァァァァ!!
受賞おめでとう!



そんな暴れ太鼓な私の心の中を知ってか知らずか、また近づいてくる顔。
手足は相変わらず拘束されて動かない。


どうしよう。
真面目にピンチだよ。

なんでこんなことに…。
一体何処で何をどう間違ったんだろう。
あ、最初からか。
壁を登りだした段階で間違いに気付くべきだったよ。

そんなことを悔やんでも、あれよあれよという間に大人の階段を凄い勢いで登り始めてしまった今じゃ、もう遅い。
そりゃもう2段抜かしとかじゃすまないレベルだよ。
ごめんなさい。深夜に不審な行動してごめんなさい。
アレンも災難だよね。
お酒ダメだって言ってたのに…きっと起きたら記憶が無いんだろうと判ってはいても…あ、なんか罪悪感。


―もうこれは、責任とってアレンをお嫁さんに貰うしか…!


そう覚悟を決めて思わず目をぎゅっと閉じた。








……待つこと数秒。


え。
何だ。何の間だ、これは。
動けないのは相変わらずだからアレンが退いてくれた…わけでは無いみたいだし。
そおっと目を開けてみると、ぎゅっとつぶった所為でぼやける視界の中見えたのはアレンの頭。

声をかけてみる。

「……………?」

「…………………………」

「………………アレン?」

「…………………くーー」



寝てるよ。



「大暴れするだけしておいて、やっぱりこういうオチかーー!」


判ってたけどね!
期待なんてしてないけどね!
嘘です。ちょっとだけ期待してましたすみません。

「って、起き上がれないしーー!!!? ちょ、ちょっとアレンそこ退いて!」

「くーーーーー」

「せめてもう一回起きてから寝て!」

「くーーーーーーーー」

「あーもう無駄に筋肉つけてからに! お陰で重いわーー!! いや、でも無駄じゃないよ、むしろ萌えだよ!
細いのに筋肉質、まさにギャップ萌え!

あーもう、自分で何を叫んでるのか判らなくなってきた。
朝まで…こうなのかな。



えーっと、とりあえず。
メリークリスマス。
来年は普通にプレゼント渡そう、うん。




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◇あとがき◇

メリークリスマス!

書いちゃってから言うのもなんですが、よく見たらアレンの部屋には窓はありません。(鉄格子みたいなのはありますが)
でもさすがに鉄格子を蹴破って入っていったらまずいだろうということで…仕方なしにこうなったので
どうかそこはスルーしていただけると…!
そのかわり、「壁登ってきたのにどうやってケーキの箱持ってたの」という疑問は受け付けます(受け付けるのか)
不思議だ…さすが、クリスマスマジック。

……イベントの力をかりて、トキメキだったり甘かったりする夢にチャレンジしたんですが、
ごめんなさい、無理でした。

拍手で頂いた「窓から侵入」という言葉にインスピレーションしたらこうなったという。
あ、あれ? おかしいな。頭の中ではもっとこう、素敵なしっとり系ストーリーになるつもりが…。
その節はありがとうございました! そして、むしろこんなんなっちゃってすみません! 愛してます!(どさくさで何言ってんだ)
恩をあだで返すのは大得意です。

こんな謎の文章にお付き合いいただきまして、ありがとうございました!


(H19.12.25)