トンネルを抜けたら、そこは雪国でした。
なんて言う、名文句は昔からあったけれど。
落とし穴に落ちたら、そこは断崖絶壁でした。
なんて。
ある意味、お笑いでしかないんじゃないんでしょうか。
まあ、そういう理由で。
「ここは…何処だ…!!」
私は今、ありえないくらい高い崖の上にいます。
―STAGE1
「じゃあね、、真菜、バイバーイ!」
「おう、また明日ー!」
「じゃあねー」
学校からの帰り道。
いつも通りの授業を受けて、帰りの時間もいつも通りで。
その日も親友の真菜と、いつも通り他愛のない話をしながら、下校したのはたった数時間前のこと。
そんないつもと変わらないありふれた日常の中で、只一つだけ違ったのは。
―「あれ? こんなところに道なんてあったっけ?」
―「えー…。なに?」
―「ほら、ここ…路地裏?」
友人の言葉に何気なしに見てみると、いつもなら只通り過ぎるだけの通学路に、確かに今まで気がつかなかった道が
出来ていた。
―「…あ、本当だ。何でいままで気付かなかったんだろう。何処に繋がってんのかなー?」
…今思えば、好奇心旺盛な真菜が発端だった気がしなくもない。
くそう、あいつめ余計なことをしやがって。
まあ、面白がって真っ先に進んだのは私だけれども。
そんなわけで、通学路の途中で本当に少しだけ寄り道をした私とその親友殿は。
そのまま歩いて数歩で「落とし穴に落ちた」わけです。
好奇心は猫をも殺すって言葉があったけれど、まさにこういうことだったんだなぁ。
と、遠い目をしてみたり。
この年になって落とし穴に落ちるなんて…と打ちひしがれてみたり。
暫くはこのとんでもない現実を直視したくなくて、現実逃避をしてみていた私ですが、
ここにきて30分が経過した今、そろそろそんなことも言っていられないようです。
というか。
どうやったら、落とし穴の先がこんな大自然万歳な空間に繋がるのか
ま っ た く判らないんですけど!
あの落とし穴らしきものに落ちた瞬間、嫌な浮遊感に思わず目を瞑って。それからは数秒も経っていないはずなのに。
なのに、恐る恐る目を開けた私の視界に飛び込んできたのは、素敵に見晴らしの良い(良すぎる)景色って。
どうすれば。
こういうときには一体どういうリアクションをとればいいのか、まだ人生経験の少ない私ではよく判りません。
探索を兼ねてこの周辺を回ってみたところ、どうやらここはとんでもなく高い崖の上にあるらしい。
そのうえ、下に降りる道も見当たらない。
さっき試しに下に向かって小石を蹴り落としてみたら、暗い空間に吸い込まれるようにして落ちていきましたよ。
どんだけ高いんだ、ここ。
他に誰か人がいないかと探索してはみたけど、人っ子ひとり見当たらず。
寂しい…。
何よりも状況から考えて、一緒にいたはずの友人は一体何処に行ってしまったんだろうか。
まさか、そのまま谷底ダイブ。なんてことはないだろうが…。
あーもう、どこいっちゃったんだよー真菜!
あまりの急展開にパニックになっていたが、改めて考えると段々不安になってくる。
もし、一緒に来てしまったんだとしたら、早くみつけなくちゃ!
実はここに至るまでに周辺に何かないかと少しだけ探索したかいがあって、まあ、崖以外のものは見つかったわけですが。
というか、それしかなかったというか。
孤立無援の崖の上、林の真ん中にぽつんと、というかドドンと建っている黒い建物。
しかし、この建物、外見がどうみても悪のヒミツ組織です。
「も、もしも〜〜し…どなたかいらっしゃいませんかーー……」
数十分後。
結局、あの後、ずっとうろうろしていても仕方ないと、意を決して建物に向かって声を掛けてはみたものの。
依然、反応はまったくなし。
る…留守…? それとも声が小さいとか。
新聞勧誘と間違えられているとか。
そんなこんな大きな建物にいて、居留守とは小心者な…!
何処かに呼び鈴らしいものは無いかと無駄にうろうろしてはみたものの、結局判ったことといえば、異様に門が悪趣味だなぁ
というくらいでしょうか。
どう見ても迫力のある顔っぽいものが彫られているそれは、薄暗い今の状況で見るとどうにも不気味だ。
例えば、ここで記念写真なんて撮ろうもんなら確実に心霊写真特集行きである。
こ、この門が人の顔に見えるんです…! とかなんとか、いや、そんなことは本気でどうでもいい。
ああ駄目だ、人間一人だけになると要らない独り言ばかりが増えるよ!
あーもう、何でもいいから誰かー。
今は誰でもいいから人と会話がしたい…!
と、そのとき。
思ってもいなかった場所から、念願の人の声が聞こえた。
「一匹で来るとは、いー度胸じゃねぇか…」
「…!!?」
お、おおお…!!!!!?
人が、居た…!!!!
声が遠すぎて言っている内容はよく聞こえなかったけれども、明らかにさっきのは人間の声だったよね!?
慌てて勢い良く声のしたほうを見れば、遥か上空、門の上に人の影。
よく目を凝らさないと見えないくらい高い場所にいるその人は、黒い長髪を高い位置で結んでいて、
いわゆるポニーテールなのだろうか。
―ところで何でそんな高い場所に?
とは思わなくもないけど、
もうこの一人ボケ突っ込み地獄から逃れられるんだったら何でもいいよ!
兎は寂しいと死んじゃうのよ!(?)
と、こんなところで硬直している場合ではなかった。
まずは、会話、コミュニケーション!
第一印象は大切よ、!
「あ。すみません、私、怪しいものじゃなくて…」
って、自分で怪しいものって言っちゃったよ、バカか私は!
そんなヤツむしろ怪しいよ!?
慌てて、訂正を試みる。
「いえ、あの、ただ…えーっと、ちがくて」
久しぶりに人に会ったせいか、それともその相手の妙に高圧的なオーラに圧倒されてか、慌ててしまってうまく言葉が出てこない。
だ、駄目だ、私。
このままでは確実に変な人だ。変な人と書いて変人だ。
よし、深呼吸、深呼吸。
そして、そのあとは笑顔で再度コミュニケーション、ゴー、だ。
「こ、ここは…」
聞きたいことは 簡潔に、判りやすく!
「ここは、何処ですか?」
よし、簡潔!
「ごちゃごちゃうるせーんだよ」
「…え?」
「そっちがかかってこないならこっちから行くぜ」
て、ちょ、ちょっと待って!
何か。今の、会話の流れ的におかしくないか。
どう好意的に解釈しようとしても、友好的な雰囲気とは程遠いような気がするんですけど!
しかも、今までの私は必死で気付かなかったけど…
相手からものすごい殺気を感じるんですけれども!!?
えええ。な、なんか…これって。
と、はたから見れば冷や汗だらけだろう私に向かって、その彼が向けたものをみると…
刀ーーー!???
え。も、模造刀とかじゃなくて?
って、なんか光ってるし!
もしかして…じゃなくても確実に私、不法侵入者だと思われているー?
とにかく、今にも斬りかかってきそうな勢いのポニーテール青年――
――ああ、もう長いからとりあえず「ポニー」でいいや(いいのか)――
の誤解を解かないと。
ぶっちゃけ私は只の迷子なんだから、ちゃんと事情を話せば判ってくれるはず!
「ちょ、ちょっと、待って…! だから私怪しいもんじゃなくて! 話せば判る…」
「知るかよ」
説得、無理。
ひ、一言で切り捨てられた!
誤解をとくも何もあったもんじゃないよーー!?
駄目だよ、それじゃコミュニケーションも取れないじゃないかー!
人類みな兄弟だよ!?
「せ、せめて、人の話を聞いてか「それじゃおせーんだよ」
駄目だ、取り付くしまもない。
何かをいう時間さえも与えてくれないらしいよ、このせっかちさんめ…!
「中身を見ればわかることだ」
私の必死の努力もむなしく、そう言って、無駄に格好良いポーズで刀を構える、黒髪の青年。
って、中身って、やっぱりあれですよね。
人柄とかそういうんじゃないですよね。
一言で言ってしまえば、内臓系とか骨系とかですよね!?
「って、中身なんて見たら、そのままジ・エンドでしょうがーー!!」
なんだか妙に殺る気満々の青年を前にして、私の命はもはや風前の灯です。
ああ、もう、せめてもう ち ょ っ と だ け で も 穏やか系の人が出てきてくれれば…
なんとか話が通じそうなのにー!
「待ってください。神田!」
と、私の願いが通じたのか、別の場所から念願の第三者の声が。
「…チッ。うるさいのがきやがった」
その声の方を向いて忌々しげに呟くポニーさん(仮)。
しかし、かろうじて構えは解いたものの、いまだ殺気が消えてない。
というかむしろ、殺気が増したような気がするのは私の気のせいでしょうか。
「その人はアクマじゃない。刀を引いてください」
そう言って、私の前に現れたのは白い髪の少年。
白髪だから一瞬お年寄りかと思ったけれども、顔や声をみれば多分私と変わらないくらいの年なんじゃないかとすぐに判った。
だ、誰だかわからないけどとにかく助かった…。
「甘いんだよ、お前は。アクマだろーが何だろうが、怪しいヤツは排除するのが常識だろうが」
「それにしたって」
「大体、あとから出てきてぐちぐち言うんじゃねぇよ、モヤシ」
「モヤシじゃありませんよ。話も聞かずに斬りかかるなんて、相変わらず短気なんですね」
「喧嘩売ってんのか」
「そう聞こえたのならすみません。コムイさんもなんで神田なんて向かわせたんだか…」
あああ。
事態を収めにきてくれたんじゃないんですか、あなた。
このままでは当事者を差し置いて新たなバトルが再開しかねない。
そうなる前にとなんとか、怖いけどとりあえず話しかけてみた。
「あーのー…」
「え?」
「…私はどうすれば…」
「あっ! すみません」
私が控えめに話しかけると、慌ててこちらを見てくれた。
良かった。このまま無視され続けたら、いじけるところだったよ。
しかし、どうやらこの人なら、話が通じそうだ。
内心でほっと胸を撫で下ろして、先ほどの記憶を辿って改めて話しかける。
うん、確か、さっきポニーさんがこの人をこう呼んで…
「えっと…モヤシさん…?」
「…アレンです」
ま、間違えた!!!?
そうか、さっきのは名前じゃなかったのか…
どうりで変わった名前だと思った(気づけよ)
「す、すみません!!」
「いえ、悪いのはそこにいる神田ですから」
慌てて土下座しかからんばかりの私に彼は笑顔でそう答えてくれたけど、こめかみがちょっと引きつっている。
あああ、本当ごめんなさい。
「人の所為にするんじゃねぇよ、モヤシ」
「モヤシじゃなくて、アレンです」
「うるせぇよ、モヤシ」
「知ってますか、そういうのバカの一つ覚えっていうんですよ」
あああ。また始まってしまった。
なんだかよく判らない事態になっているけど、
この二人の仲が恐ろしいくらい悪いっていうことだけはよく判ったよ。
ここまでくると仲悪い通り越して、ある意味、仲いいんじゃないのかってくらいだ。
あだ名で呼んでるしな!
くそう、また蚊帳の外か、私! 寂しくなんてないさ!
そんな光景を暫く呆然と見ていると、このままでは拉致が開かないと気付いたのか、後から現れた白い髪に赤い傷跡の少年がこちらを向いた。
「ええと、見たところ…アクマではないようですが」
「はい?」
「貴女は…? もしかして入団希望者ですか?」
そう少しだけ目を細めてこちらを見つつ、そう私に問いかけてくる。
…って
「入団者…?」
「はい。ここに来られたということは、エクソシストかなって…違うんですか?」
エクソシストって…あれか?
教会で悪魔とか祓っちゃったりする…?
しかし、ここで、
「いや、私、普通の学生ですが」
なんていえる雰囲気じゃないのは、私だってわかりますよ、ええ。
「えっと…やっぱり、あれですよね、ここって…」
慎重に言葉を選ぶ。
ああ、この短い間に、刀向けられたり命の危機的状況が妙にたくさんあったような気がするけど、
もしかして、多分今が一番の綱渡りの瞬間なんじゃなかろうか。
「入団者…? じゃないと簡単には入れませんよね…?」
「当たり前だ」
先ほどから黙ってこちらの様子を伺っていたらしい、ポニーさん(仮)が間髪いれずに答えてくれた。
「教団はお悩み相談所じゃねぇんだよ。そんなに部外者をひょいひょい入れられるか」
わあ、なんか普通に答えてくれているだけのはずなのに、なんだろう、このブリザード。
あからさまにイライラしてるけど、しかし意外に律儀に相槌を打ってくれるんだなポニーさん(仮)。
しかし、駄目だ。この様子では多分、このままとぼけ続けたら確実に斬られる。
こうなったら手段は…一つしかないんだけれども。
「…えっと…うんと…私は…エクソシストで」
だったらいいな。とか駄目ですか(駄目だろ)
いや、うん、思うだけならタダだ。
ただし…これは…
口に出してあからさまに嘘を言っちゃうのは、もしかして、じゃなくて確実に、経歴偽証というやつではないだろうか。
は、ははは。
…ごめんなさい。なんかもう誰に謝っているのかは判らないけどごめんなさい。
でもね、世界にはね、必要な嘘もあると思うんだ。
だって、見てくださいよ!?
前方にいる未だに刀から手を離さないポニーさんなんて、明らかに「エクソシストじゃなかったらやっぱり殺す」
みたいな目でこっち睨んでるじゃないですか!
もう、この状況で他のこと言い出せませんよ…!?
デッドオアアライブですよ!
こうなったら、もう、開き直るしかないんじゃないのか?
後のことなんて知るもんか!
そう腹をくくった私は、先ほどより幾分大きく声を出して宣言する。
「そう、私、エクソシスト(だったらいいな)なんです!」
「…本当かよ」
あからさまに信じていない様子のポニーさんに、同意はしないもののやはり困ったような様子の白髪の少年。
まあ、私がもし同じ立場でも、十中八九信じないし。
明らかに怪しいもんな!
「ということなんですけど。コムイさん。どうしますか?」
少年は少し悩んでから周りを飛んでいる金色の鳥のような生き物にそう話しかけた。
鳥…? いや、よく見ると目とかも無いし。な、なんだあれ。
どういう原理で動いてるんだろう。
『う〜ん。ちょっと怪しいけど…まあ、アレンくんがアクマじゃないって言うなら大丈夫かな』
おお、声が聞こえた…ということは、これが「コムイさん」…?
(どうみても生き物じゃないけど)
いや、何か機械を通したような声だったし、これはあれかな、通信機みたいなものなのかな。
というか、大丈夫なのかよ。
いや、大丈夫じゃないと困るのは私ですが。
私の様々な葛藤を尻目に、会話は進んでいく。
今はとにかく彼らに判断をゆだねるしかない。
『いいよ』
暫く少年と鳥?のやり取りが続いた後、そう声が聞こえた。
『ひとまず入場を許可します。えーっと…』
「あ、そうでした」
そうして何かに気がついたように、少年がこちらを向く。
何!?
な、何がどうなったの?
「申し遅れました。改めまして、僕はアレン・ウォーカーっていいます。君は…?」
そういってにこやかに挨拶してくれる少年。
って、何この爽やかさは!
くそう、今気付いたけど、というかさっきまではデットオアアライブな状況のせいで気付かなかったけど…
この人たち、なんか妙に美形ぞろいじゃないか!?
さっきのポニーさん(そういえばまだこっちを睨んでる)も、改めてみると凄く美人さんだ。
声の感じからしても男の人なんだろうとは思うけど、なんていうの、ヤマトナデシコ?
あ、すみません、ごめんなさい調子に乗りました、だからこっち睨まないで!(被害妄想)
と、そういえば、私まだ名乗ってもいないんだった。
そりゃ不審者扱いもされるってもんだよ、本当。
「あ、ご丁寧にどうも。 です」
名乗ってから気付いたけど、これって英国式に名乗ったほうが良かったんだろうか…?
「さんですね」
どうやら大丈夫だったらしい。
しかし、さっきの自己紹介といい、ここは一体…。
「改めまして、ようこそ黒の教団へ」
ゴゴゴゴゴ。
地響きのような音が聞こえて、巨大な門が大きく開いた。
開いた…なにかよく判らないけど。
ひとまず、命の危機的状況は乗り切った…!
なんとかぎりぎりの綱渡りは成功した模様です。
いや、本当の危機はむしろ、中に入ってからかもしれないけど…!
だって、めっちゃ嘘ついてるし。
「そういえば、この凄い顔のレリーフは」
やっと通れるようになって、ずっと気になっていたことを質問してみる。
最初に建物をチェックしたときにも思ってたんだけど、これはなんだろう、持ち主の趣味なんだろうか。
「ああ。本当はここ、アクマか人間かを見分けられる門番がいて、そこで害がない人間かどうか判別するんですが」
「するんですが?」
「ちょっと前に色々あって。今、へそ曲げちゃっててストライキ中なんです」
「スト中かよ。」(ストUじゃないよ)
というか、門がどうやってストを起こすんだろう。
???だらけの私に向かって、ひたすらすみませんと恐縮したアレンは困ったように頭を掻いた。
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◇あとがき◇
一話、長ーー!!!
そして、気付いたら名前変換部分がほとんど無いという悲劇に見舞われました。大変だ(人事の様に)
神田さんなんて出てきてはいるのですが、一回も呼んでくれませんでした。おのれ。
こんな感じでのらりくらりと進んでいきます。
折角のドリームなのにキャラクターが全然出てこなくてすみません。そして主人公がアホの子のようですみません。…つ、次は…。
では、こんな長い文章にお付き合い頂きまして、ありがとうございました!
(H19.6.20)(改訂:H19.6.21)