「……」
「………ちゃん」
誰かが私を呼んでいる気がする。
誰?
お母さん? お父さん?
それとも真菜…?
あーもう。なんだよー。
今いいところなのに…って、ああ、何かまぶしい光が…どうしてだろう、うまく考えが纏まらない。
いいところってなんだっけ?
うん、ああ、そうだ。
私は今、この目の前のネコに…パンを…あげようと…。
なのになんで逃げるのかな、こんちくしょうめ。
ここは学校の校舎裏。
目の前には明らかにおなかを空かせた様子の子猫が一匹。
怖くない、ほら、怖くない。と某姫様の真似をしてもうまくいってくれない。
どんなに優しく声をかけても、私の発するオーラが怖いのかなんなのか、ネコはなかなか近寄ってきてはくれないのだ。
そうこうしている間にも陽はどんどん傾いてきて、私は意味も無く焦ってくる。
「一匹で来るとは、いー度胸じゃねぇか」
背後から何処かで聞き覚えのある声が聞こえて、そちらを振り向くと。
先にはやはり何処かで見覚えのあるポニーテールの男が、竹刀を携えてこちらを睨んでいた。
一匹ってもしかして、このネコに向かって話しかけているのかな。
「お前…そのパンはなんだ?」
「え? …この猫の食べ物ですよ。私はこの学校の生徒です」
突然、話を振られるとは思わなかったので、とっさに間抜けな答えを返してしまった。
しかし、何処かで聞いたことのあるやり取りだな。
「ふん。まあ いい」
そうして、やっぱり記憶にあるとおりに竹刀を振りかざして、男はこう言った。
「中身を見ればわかることだ」
なんの中身?
いやいやいや、何かさっきから会話の流れがおかしくないか。
ていうか、何なのさ、その長ラン。
番長? 番長なの!?
呆然としている間にも、竹刀は私の目の前に振り下ろされる。
え? よく判らないけどピンチっぽいの? 私!?
どうしよう、このままじゃ、竹刀を持った番長にパン取られる。
え、なんで!?
「大体、ポニーテールに学ランってどうなのかって話だよ!!」
耐え切れず、そう自分で叫んだ声で。
私は唐突に目を覚ました。
―STAGE3
「……ちゃん?」
「あ…れ? …コムイさん…??」
「グッドモーニーング。よく眠れた?」
「ぐ、ぐっもーにー……ん」
目の前には私の謎の叫びに驚きつつも、朝の挨拶と共に手をひらひら振るコムイさんと、
対照的にため息をつくその部下のリーバーさん。
そんな私も、思わずコムイさんにつられて手をグーパーしてみちゃったりしたけれども。
なんていうか、もう本当に。
ごめんなさいとしか。
「大丈夫ですか? 。ちゃんと起きてる?」
「ういー。…だぁーいじょーぶだぁー…」
「凄く駄目なんですね」
その後、コムイさんの部屋から出てきて廊下をふらふらと歩いていたら、アレンに発見された。
「いや、ごめんごめん。ちょっと意識が遠くに飛んでた。…今、凄く、嘘から出た誠って言葉をかみ締めているところ」
あの後、あまりの空腹に…じゃなくて、立て続けに起きた珍事件にすっかり参ってしまってばったりと倒れた私は、
幸運にもアレンに支えてもらって。
どうやら、顔面ダイブは免れたらしい。(しつこい)
だって、いかんでしょ。乙女としては!
で。結論から言えば。
私はどうやら適合者っていうやつだったらしく(適当)
あの時、たまたまリナリーの回収してきたイノセンスに反応しちゃって、おめでとう!
今日からキミもエクソシストだ!(本当にコムイさんはこう言った)な展開になり。
おいおいおい、都合よすぎないか。少しは考えろよ、とリーバー班長が常識人らしい、反応を返し。
どうたらこうたら、和気藹々。
で、今に至る、と。
起きた後、またコムイさんに「イノセンス」や「適合者」や「アクマ」なんていろんな言葉の説明を改めて受けているわけなんだけど。
一気に説明されたおかげか、はたまた私の頭が限界なのか。
もう既に、訳がわかりません。
ああ、バカバカ、私のトリ頭ーー!
…いやあね、うん。
なんか大変なことに巻き込まれてしまったっていうのだけは…よく判った。
しかし、その説明もなぁ。
明るいんだけど、ちょっと今までにない影が見え隠れしちゃったりして。
どれだけ深刻なのことなのかはちょっとは伝わってきたわけで。
だって、あの、コムイさんが真剣になっちゃうくらいだよ!?(ひどい認識)
前向きに考えれば、ここでお世話になる名目がたったって訳なんだけれども。
「ところで、。おなか空きませんか?」
「空いたー」
「僕、今から食堂に行くんですけど」
「え? 食堂あるの?」
「はい。もしよければ一緒にどうかなって」
「お供します!」
こんな笑顔で誘われて、断ったら女が廃るってもんだぜ!(何キャラ)
言われて見れば、こんな巨大な建物で食堂がないわけがないんだけど。
建物の外見があまりに浮世離れしているから、そういう日常に近い部分のことをさっぱり忘れていた。
そうだよね。食堂くらいあるよね。
だって、どう考えたって、この建物の周り、コンビニとかなさそうだし。
「おおお。広い…!」
「こっちですよ。」
食堂は凄く広くて、他の人が居ても大分席に余裕があるみたいだった。
ううん、それとも今は御飯時じゃないとか?
ところで、今って何時なんだろうか。
「は〜い。Bセット、おまちど〜ん!」
アレンに続いてカウンターらしき場所まで近づくと、元気のいい声が聞こえてきた。
…ていうか、私の見間違いでなければ。
何か…厨房に、妙にくねくねしたガタイのいい人がいるんですが。
あ、兄貴系?
「お次はなにかしら〜ってアラん!?」
「ど、どうも…」
「新入りさん? んまー これはまた、カワイイ子が入ったわねー!!」
うおおお。か、かわいい子って。
も、もしかして、私のことをいってくれちゃったりしちゃったりしてるんでしょうか…!?
周りをきょろきょろ見回しても、他に誰もいる気配もないし。
うん、いや、もう決定!
たとえ違っていても、そういうことにしておこう折角だし。
いやあ、この人、すんごくいい人ね!?(現金)
「、こちら料理長の」
「ジェリーよ! ヨロシクねv」
「あ、はじめまして、 です」
勢いに押されて慌てて挨拶。おおう。
そこの壁に貼ってある「愛情一発」の張り紙がやたらと似合う人だ。
「何食べる? 何でも作っちゃうわよ、アタシ!!」
「えーと…じゃあ…」
って、ここ、メニューはないのかな…
ときょろきょろしていたら。
視界の端に良く見知った人影を発見した。
「あ」
ポニーさん(仮)!!
と、同時にさっきコムイさんの執務室で見たよく判らない夢の番長が出てきて、微妙な気分に。
しかし、なんだったんだあの夢は…。
とりあえず、変な夢みてごめんなさい。
そんな私の謎の視線に気付くこともなく(もしくは気付いても無視して)カウンターに近づいたポニーさん(仮)は、
何の躊躇いもなくそのままの流れで注文を取り付けた。
「いつもの頼む」
すげぇ…!!!
私、実際に「いつもの」で注文する人、初めてみたよ!!!?
通だ、あの人は通だ…!!
そう、私が訳のわからない感動を味わっていると、自分の分の注文が終わったらしいアレンが近づいてきた。
「あの人…」
「神田がどうかしたんですか? もしかして、また何かやらかしました?」
「いや、やらかしてないってか、何でそんなに仲悪いのあんたら」
アレンはいつも通り笑顔で答えてくれているけど、どうも彼が絡むと人が変わるようである。
どうやらこれは、あんまり彼に関する話題は避けたほうがよさそうかな。
あれかな、ウマが会わないってやつ?
「…………」
「どうしたんですか? ? 食欲無いんですか?」
「いや、食欲ってか…」
私は目の前で繰り広げられる万国びっくりショーモドキのアレンの食べっぷりを呆然と見ているだけなんだけどね。
なんてか、アレン。食いすぎじゃね?
しかも、早いし…!?
こうしている間にも、ありえないスピードで完食済みの皿が積み重なっていく。
だめだぞー、よく噛んで食べないと。
牛乳だってよく噛んで飲めって先生によく言われたもんだ…そういえば、アレだな。
思えば、土曜日の体育の授業のあとの牛乳給食って、結構きつかったよね。
私が現実逃避している間にも、アレンの手は止まらず、ついに机一杯の料理を完食した。
「ご馳走さまでした」
「…凄い食べるんだねーアレン」
「はは。僕は寄生型なんで、たくさん食べないと持たないんですよ」
「ふーーんって…えええ!?」
何の気なしに、自分の分のカツ丼をつついていたが、唐突にあることに気付く。
ってことは…
「私も寄生型だから…コレくらい食べるようになるってことかー!?」
「う〜ん、個人差もあるみたいだから…どうだろう?」
「ちょっと流石に、食費凄いことになりそうってか」
男の子なら、食べ盛りー! ですみそうなもんだけど(それも軽く超えてるけど)
女の子として…これは…どうなんだろう。
確実にテレビチャンピ●ン行きなのは間違いないとしても。
「いや、待てよ。食べても食べても太らないってのは、ある意味魅力的なのかも…!?」
そう、真剣に呟いていると隣でアレンが吹き出す声が聞こえた。
な、何を笑っているのかー!?
私は今真剣に今後の自分の身の振り方をだね…!
「いやあ、もやっぱり女の子なんだなぁ、と」
なんですと!
「なんですか。もしかして、アレンには私が、女の子ってよりむしろガタイのいい番長に見えるとかそういう…?」
「いや、そこまで言ってませんよ」
おなかも満たされたところで、コムイさんに呼び出された私。
何でもアレンもちょっと前に別件で呼び出されたらしく、じゃあ一緒に行こうかという流れになった。
助かったー。まだ私、全然この建物の中が判らなくて…って、
そういえば、アレンもすっごい方向音痴じゃなかったっけ?
だ、大丈夫なのか…!?
ちょっと嫌な予感がしつつ、なんとか奇跡的に目的の場所に着いた時には、もう軽く1時間が超えていたような気がしないでもない。
いやあ、ちょっとした大冒険だったね!
目的の場所はエレベーターみたいな機械で下りた場所で…多分、通常の人が聞いたら 何でここに来るのに迷うの?
と思われるような場所だったけど。
ふふ、甘いな。
どうやったら迷うのか判らないような場所で迷う。
それが方向音痴の方向音痴たるゆえんである。(偉そう)
「…失礼しまーす」
「やあ、遅かったねぇって、あれ? アレンくんも来たの?」
「…! コムイさん、もしかして、これからヘブ…ッブフゥ!?」
コムイさんは、何かを言おうとしたアレンの口を容赦なく手で塞いだ。
素早いな!?
「しーっ! 言っちゃったらつまらないでしょ」
「△●@××$◆!!?」
…???
なおも何かを私に伝えようとしているらしいアレンだけど。
ごめん、さっぱりわからん。
そのとき。
何処からともなく、何かが私の視界に
「ど、わぁぁぁぁあ!!??」
慌てて横を向けば、白い視界の先に白いものが…って
なんかでかい人? がいるんですけど…!!?
なんだ、何コレーー!!
パニックになっている間にも触手のようなものが伸びてきていて、私の足はいつの間にか床から離れ、
結構な高さに持ち上げられていた。
さ、さっきアレンが訴えてたのって、もしやコレのことかーーー!!!
てか、触手が気持ち悪いよー。
白い人の顔、怖いよー。
「…イ…イ……イノ……」
?
白い人が何かを言おうとしている。
「イノ……」
「井の頭線?」
「…ちがう……」
あ、冷静に返された。
しかし、何か…こうして高い場所に持ち上げられて、触手らしき物体の上にいると…
「その者、あおき衣を纏いて金色の野に降り立つ」的ななにかを思い出すような…
て、あ、私、こう見えても結構パニックしているんですよ。一応。
あれなんです、打てば打つほど響くタイプです。(?)
ああ、私が青い服だったなら…
って、いつまでこうしていればいいのー!! 誰かー? 助けてー
「…つ…つづきは…次回……」
なんだそれ。
え?てか、
こ、ここで区切るの!!?
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◇あとがき◇
凄い場所で区切ってしまった…
いや、だって長くなりそうだったから…!!!
そういえば、もう3話目になるのに、一向に神田さんが話しかけてくれません。
名字変換はある意味、彼専用だったというのに。どうすれば…。
(H19.6.21)(改訂:H19.6.21)