拝啓、親友様。

お元気ですか?
私は今、黒の教団の地下にいます。

そして、ありえないことに何故か空に吊るされています。
ワイヤーアクションもびっくりです。


何コレ? 何の罰ゲーム?






―STAGE4 







わー…地面があんなに遠ーい。

コムイさんに呼ばれて、教団の地下に来て見れば。
どこからともなく唐突に現れた白い物に、アレよアレよと担ぎ出され、いつの間にかこんなおかしなことに。
目の前にいるのは、白い人…いや、人なのだろうか。
ともかく、私は今現在その人から出ているやっぱり白い触手のようなものに捕まれて、情けない感じに
ぶら下げられている状態です。
なんていうか、気分はとらわれの宇宙人。いや、UFOキャッチャーの景品のほうがより正確か。
ごめんね、景品、私、吊り下げられる側の気持ちなんて全然判っていなかった。(普通わかんないけどな!)
まさかこんなに心細い気持ちになるなんて。
慌てて散々もがいてみたけれども、只でさえ空中にいて自由の利かない私には、もうどうにも出来ないようで。

あーもーどうにでもなれー…。


「……イ…イノセンス…」

暴れ疲れた私が大人しくなったのを見計らってか、暫く止まっていたその白いものがまた動き出す。
って、
うおおぉぉお!!!!?
な、なんか、手の中に、な、なんか入ってきたーーーー!!!?
怖っ!? 怖ーー!!

「む、無理! 無理だから、コレ!!!」

「ははは。無理はしないほうがいいよ〜。ちゃん」

パニックになる私に向かって投げかけられる能天気な声。
下を見れば、アレンを羽交い絞めにしたままのコムイさんがニッコリと微笑んでいた。

「無理させてるのは誰ですかぁ!!」

「あ〜大丈夫。落ち着いて、リラックス、リラックス」

「出来るかぁぁぁぁ!!!」

この状態でリラックス出来る人間がいたら見てみたいわ!
なにそれ、世界リラックスチャンピオン?
こうしている間にも、何か体中がビキビキいってるしでなんだこれ!!
さては、コムイさん、私が最初にここに入ってきた時に嘘ついたことまだ根に持ってたんだろうか。
それとも、いつもこっそり「いくらなんでもあのシスコンはねぇだろ」とか思っているのバレた!?

ああ、そんなこと言ってる場合じゃ、ってーー怖ーーーー!!!

しかも、なんだか気持ち悪いーー。

うおぅわ!? い、今ぞわっときたーー!!


ああもう…って、そういえば!
私の中に凄い力とかあるんだったら、今こそその力を見せてみるべきなんじゃないの!?
なんで今まで気付かなかったんだろう、私の馬鹿ーー!
そうだよ! 確か、イノセンスの適合者には…こう…なんか凄い力があるって言ってたし!
睡眠学習(という名で勉強中に居眠りしてたともいう)で培ったエクソシストの力、思い知るがいい!!!



って、やり方判らないし。
役にたたねぇ能力だな、おい!

いやまてよ…きっと、こういうのって、アレだ!
なんかヒミツの呪文とか必要だと見たね!



!」

声が聞こえて下を見ると、こちらを見上げているアレンと目があった。
あ、抜け出せたんだ。
何かその横で煙を上げながら床に突っ伏しているコムイさんの安否も微妙に気になるけど、もしかして殴ったのか。
ひとまず、この場で唯一の味方だと思われるアレンに必死に助けを求める。

「アレン!」

、大丈夫ですから、どうか落ち


「呪文教えて!!」

「呪文!??

「そうだよ! 呪文だよ! イノセンスを発動させる素敵な僕らの合・言・葉!! って、
 ああなんか自分で言ってて何言ってんのか判らなくなってきたー!」」

「…? な、なんだかよく判りませんけど、呪文なんて特には…」

「いいから。お前も魔女っ子の端くれだったら何かヒミツの呪文の一つでもあるだろーがぁぁぁ!! 
四の五の言わずに教えなさい

魔女っこじゃありませんよ。…てか、呪文ってだから何!?」

私だって、わからないんだよ!
だから聞いているんだよ!(逆切れ)
しかし、私のわけのわからない質問はとりあえず置いておくことにしたのか、アレンは別の話題に切り替えた。

「とにかく、まずは落ち着いてください、!」

「ごめん、
やっぱ無理ー!

コムイさんも同じことを言っていたけど、こればっかりはどうにも…。
そんな会話の最中にも、尚、白いものが体の中を探っている感覚がする。
あービキビキ、いってる、いってる。
そんな、半ばパニック状態の私にアレンは尚も続ける。

「聞いてください。その人はヘブラスカといって、別…に…」

と、そこで、突然。今まで真剣な表情だったアレンの顔色が何故か一瞬で赤く変わった。
おお、すごい。一気にトマト色っていうか。

って、なんだなんだ。

「え。『別に…』何!?」

「いや…えっと、」

「アレンー! なんか怖いとこで、話、区切んないでー!!

「…ご、ごめん…!」

答える声も、しどろもどろ。
…?
あ、今、心なしか目をそらしたな、おい。
なんだ、その見てはいけないものを見てしまった、みたいな空気は。

「ど、どうしたの!?」

「えっと、とりあえず、!」

「とりあえず?」

「足、閉じてください… ////」

「…足を?」

そう言いにくそうに言って、何故か赤い顔のまま私の方を見ようとしないアレン。
足を閉じるって、なんでだ?

そこで、改めて自分たちの位置関係を考えてみる。

            私   (上)
                  ↑ 


                  ↓
コムイ  アレン       (下)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|


ちなみに私は現在、学生服着用である。
つまり。
…ああ、なるほど!


そりゃあ、まあ。
見えるよね。
いろんなものが。




「み、見るなぁぁぁぁぁぁーー!!!」

「…み、見てませんよ!」

まったくこの期に及んでとんだハプニングですよ!!!
どんだけ恥ずかしい恥さらせば気が済むんだ、私は!




「いやあ、いい眺めだよね〜」

「変態ですか、あんたはぁぁぁ!!」

気付けばいつの間にか復活したのか、相変わらずの笑顔でこちらを見ているコムイさんにアレンの容赦ない制裁が入った。
ああ、アレン。
今動けない私の分もよろしく。

とりあえず、今日程スパッツを履いていて良かったと思ったことはない。








それから少しして。
暫くぎゃーぎゃーやっていたら、いつの間にか目的は終わっていたらしく、私はやっと解放された。
ああ、時間にしてそんなに経っていないはずなのに、久しぶりの地面が恋しい…。


「…おどかすつもりは無かった…」

白い人は私を下ろしながらそう言ったけど
それ絶対嘘ですよね。
無言であんなことされたら誰だってパニックになるって!
せめて、今から何をするのか言ってくれれば心の準備も出来たのに。

「私はただ…お前のイノセンスに触れ知ろうとしただけだ…」

「イノセンスを?」

「…そうだ…私はイノセンスの番人…イノセンスを知りその未来を感じることが出来る…」

なるほど、そういう目的があったんだ。
って、やっぱり先に言ってくれればよかったのに。
そう恨みを込めてコムイさんの方を睨むと、何故か彼はこちらに向かって親指を立ててグーサインをしていた。
なんだ、あのいい笑顔。くそう、めっちゃ殴りたい。

「で、どうだった? ヘブくん」

そんなことを思われているのを知ってか知らずか、
改めてコムイさんはヘブラスカの方に向き直すとそう問いかける。

「彼女のイノセンスはキミのお気に召したかな?」

「………よく…わからなかった……」

「わからなかったのかよ」

なんだそれ。
思わず素に戻って突っ込んじゃったじゃないか。

「なんだ、私、結局、怖がり損かー!!?」
「き、気持ちはわかるけど、抑えて、!」

「落ち着けるかぁぁ!」

今日だけでこの言葉を何回叫んだだろうか。
さっきからこればっかりだなぁ。
なんかもう、どっと疲れた…。

「……そのイノセンスは…未知数……」

一見格好良い風にも聞こえるけど、つまり要約すれば「やっぱわかんねぇ」ってこと何じゃないのかな、それ。

「へぇ〜…」

なんですか、コムイさんも。その面白いものをみるかのような目は。

しかし、なんか呈よく騙された気もしないでもないけど、ヘブラスカさんの預言はよく当たるらしいし…。
ともかく、発動してみないとわからないってことなのかな?
そういえば、私のイノセンスって一体どういう能力なんだろうか。
う〜ん。エクソシストっても、今のところその片鱗も見えないし、イマイチ実感が湧かないんだよなぁ。



「………、お前に、神の加護があらんことを…」















「食堂…どこだっけ?」

あのドッキリカメラ的出来事から暫くして。
私は、別の用事があるからと先に出て行った二人を見送った後、一人、教団の中をうろうろしていた。

只でさえまだ教団内に知り合いの少ない私。行ける場所も必然と限られてくる。
どこに行こうか迷ったけれども、実は思いっきり暴れた所為でお腹がね…ちょっと空いたっていうか。
何より、叫び続けてノドが乾いたし。
そんなわけで、食堂を目指すことにしたんだけど…。

参った、道がわからない。(方向音痴)

そういえば、一人で食堂に行くとアレンに告げた時、心配そうに何度も大丈夫ですかと声をかけてくる様子に
「なんだ、ちょっと心配しすぎじゃない? ふふ。私に惚れるとヤケドするぜ?」とかかなり馬鹿っぽい調子で思ってたわけですが、
そうですか、これを心配してくれてたんだな、こんちくしょう。
二人で教団内で迷った思い出は、記憶に新しい。てか、つい数時間前なわけで。
迷子2度目なわけで。


過去の経験から、こういうときには闇雲に動かず人に聞くのが一番だというのが判っているけど。
そういうときに限って誰も通らないのね…。
まあ、世の中そんなもんだ。

そう世の中の不条理を嘆きながらとりあえず前に進んでいたら、正面の曲がり角に人影が見えた。
おお! 人、はっけーん!!

「すみませーーーん! ちょっと道がわからなくて、食堂まで…」
「あ゛?」

わあーーーー……。
よりによって一番、道を尋ねるのに適さない人が…!


「……道を教えてくれると嬉しいなーとか」

「馬鹿かお前は。こんな建物の中で道に迷ったとか言ってんじゃねえよ」

番長…いや、違う、神田…さん?だったよね確か。(もう何かポニーさんで定着してしまったが。)
まあ、この冷たすぎる言葉で大体お察しのとおり、その人影は神田だったわけで。
そういえば、考えてみれば直接話すのは最初の出会い以来だ。

「だ、駄目…?」

「諦めるんだな」

神田はそう言うと、私に背を向けてまた歩き出した。
やっぱりね。そううまくいくはずはないと思ってた、思ってたよ…。
で、でも、これを逃したらもう次に人に逢える確率は…!(どんな遭難者)
しかし、今の反応を見るに、もう一度頼んでもきっと無理だろうなというのはよく判る。
こうなったら…これはあんまり使いたくなかったけど…もう…最終手段しか。

「…アレンなら」

ちらっと様子を見ると、後ろからでもピクッとしたのが判った。い、いける…!?

「…アレンなら、きっと優しくエスコートしてくれるのになぁ…」



ど、どうだ…!?
理由はわからないけど、アレンに妙な対抗意識を持っている神田の事。
この言葉を聞けば、きっと反応を返してくれることは確実だ。ふふふ。無視はできまい。
 1、怒りの形相で斬り捨てられる。
 2、無言で斬り捨てられる。
さあ、どっち!?
って、どっち選んでも私、命無くない、コレ!?


「チッ…」

舌打ちが聞こえたと同時に歩き出す気配。
あー…斬り捨てられはしなかったけど、やっぱり駄目だったか。
こうなったら、なんとか自力で戻るしか…。
そう思っていると、突然足音が止まった。
不思議に思って顔を上げると、神田が明らかにイラついた顔でこちらを見ている。

「着いてくんのか、来ないのか。はっきりしろ」

「あ。は、はい! 行きます、行きます! というか、是非、
着いて行かせて下さい、地の果てまでも

「食堂までだろ」

やったー。
神田、ゲットだぜ!(ポケ●ン)




神田の後をついて、静まり返った廊下を歩く。
聞こえるのは二人分の足音のみ。…本当の沈黙って耳が痛いよね。
だ、駄目だ。この沈黙に耐え切れない…。なんか話題を…

「ところでさぁ。神田…さん?」

「神田でいい。無理にさん付けで呼ぶな、キモイんだよ」

「(キ、キモ…?)じゃあ、神田」

「…なんだ」

ごめん、ただこの沈黙に耐え切れなくなっただけなんだ…
なんて言ったら間違いなく刻まれるだろうな! 例えばみじん切りとかに。
しかし、まあ、ここで会えたのも何かの縁だし。
この機会にすこしだけ、そう、ほんのちょっとだけでも仲良くしたいと思うじゃないか。

こういうのは…あれだ。好きな物の話題から入るのが一番だ。
そんなわけで、数少ないポニーさん知識を総合して一番無難だと思われる話題を出す。

「蕎麦、好きなの?」

ちょっと唐突過ぎたかもしんない。
思ったとおり、神田からも「何言ってんだこいつ」的、予想通りの反応が返ってきやがりましたよ。
し、失敗? いやいや、駄目だ、ここでめげたらせっかくの仲良し計画が。

「いやあ、なんとなく。この前、食堂で頼んでたの見かけたから。蕎麦、好きなの?」

「まあな」

「いいよね〜美味しいよね。夏はやっぱり冷たいやつとか最高だよね!」

「………まあな」

「あ、いや、寒くてもそれはそれで美味しいっていうか」

「…………」

「やっぱり神田は蕎麦派? それとも意外にうどんもいけるクチ?」

「おい」

「何?」

「さっきから横でごちゃごちゃうるせーんだよ。ちょっとは黙れ」


すみません、ちょっと調子にのりすぎました。


「って、私が黙ったら、ずっと沈黙しっぱなしだろうがー!」

「必要ないからな」

「会話はキャッチボールだよ! もっと言葉のキャッチボールを楽しもうよ! 
アーユーおっけーエンジョイ、キャッチボール!?

「なんだその胡散臭い言葉は! なんで俺がお前とキャッチボールしないといけねェんだよ」

えっとそれは…

「か、神の思し召し?」

適当に言ったら、睨まれた。
ああ、やめて、私をそんな可哀想な目でみないで。

「お前はさっきから何がしたいんだ」

「いいこといった! 今、神田、いいこと聞いたね!?」

「な、なんだ!!?」

「いいですか?
 はーい、これまでのあらすじーー! 「神田は蕎麦派?うどん派?」「蕎麦派だ」 以上ッ。宜しいですね?
 さて、この会話を踏まえて。
 …さん、ハイッ!


「だから、ハイッて何なんだよ。訳わかんねぇよ!

「察しろよ! ここは、『お前はどうなんだ?』とかって、質問し返す場面でしょうがーー!!」

「んな面倒なこと誰がするか!」

お前がだ!(無理だろ)
しかし、暫くじぃーーっと恨みがましい目つきで見れば、結局、私の期待を込めた眼差しに根負けしたのか(もしくは鬱陶しくなったのか)
はぁ、と大げさにため息をついた。

「…お前は?」(棒読み)

「私はどっちかっていうと『そうめん』が好きかな」

「だからさっきから何がしてぇんだよ、お前は」


「だから、会話のキャッチボールっていってんだろうがー!」

「キャッチボールが出来てないのは、むしろお前の方だろ! 人の所為にすんじゃねェよ」

「なっ…! 大体、神田、私の名前も覚えてないくせにーー!」

「思いっきり必要ねぇからな」

「ひどっ…!? 今のは普通に酷いよ!?」


「着いたぜ」

言われて気付いたら、確かに見覚えのある場所に出ていた。
おう、いつの間に。

「…アリガトウゴザイマス」



あー…結局、なんか仲良くなるどころか…穴が広がったような。
そうして、何事も無かったかのようにまた何処かに向かって歩き出す神田。
えー…もういっちゃうのかよー…
しかし、予想に反してその足は数歩歩いたところでぴたりと止まった。
そのまま一旦停止するとこちらをチラリと一瞥して一言。

「せめて、一人前にイノセンスが使えるようになったら、名前ぐらいは覚えてやるよ」

あ、今、鼻で笑った。
くっそー…。
でも、実際に自分のイノセンスがまだなんなのかも判らない私は何も言い返せないわけで。




うう。
とりあえずの目標は。
自分のイノセンスをなんとかせにゃならんらしいです。






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◇あとがき◇

急いでかいたのでちょっと文章が…
あ、あとでもう一回見直します。
しかし、見直せば見直すほどおかしい場所が出てくる不思議マジック。
そして、大変です。
折角、神田をだそうとしたのに、かたくなに名前を呼んでくれないせいで、後半部分は名前変換がありません。
お、おかしいなぁ。

…ちょこっと改訂しました。
いやあ、夜中にあげたから変な会話のオンパレードですみません。


(H19.6.22)(改訂:H19.6.22)