「ちょ、ちょっと待ってーー!!! す、ストップ!」
「ごちゃごちゃうるせぇよ!」
「! 急いで!!」
「いや、絶対、無理だってコレ!! 」
こんにちは、 です。
最近、うっかりイノセンスに適合してしまったばかりに、今では新米もいいところの下っ端エクソシストやってます。
そんな私ですが、何故か今は汽車の上で全力疾走中です。
なんでこんなことになってるのかというと。
なんでだろう。
―STAGE5
「…ー。いる?」
「あ、リナリー? どうぞー」
ノックの後に掛けられた控えめな声に返事を返すと、
ガチャリと扉を開く音と共に、自室内に少しの風が吹き込んだ。
「お休み中にごめんね。コムイ兄さんがを呼んで…って、何してるの? 」
ふと、声の方を見れば、扉を開けたままの格好で固まっているリナリー。
私もつられて手に持ったトンカチを振り上げたまま固まった。
えっと…何やってるのかって聞かれたら、まあ。
「何って…日曜大工」
「なんで?」
「なんでって、お恥ずかしながら扉をね、ちょーっと…ってあれ? 今、もしかして日曜じゃない? ってことは「日曜大工」間違い?」
「いや、それは判らないけど…。ともかく、大工なのね」
「うん。まごうことなき大工だね」
慣れない手つきで金槌を叩くと、拙いながらも小気味の良い音が響く。
あ、曲がった。…けど、うん、許容範囲、許容範囲。(暗示)
こんなことやったこともなかったけど、まあ、やってみればそれなりになんとかなるもんだね!
そんな私の様子に、どうリアクションをとっていいのか迷っていたらしいリナリーは
「え〜っと、…趣味?」
私の格好を見て、ためらいがちにそう聞いてきた。
ちなみに、今の私の格好といえば、ここに来る前から実は通学カバンの中に入りっぱなしだった学校指定のジャージと、
頭には当然のごとくタオルを巻いて釘差して、まあいわゆる何処をどう見てもヤル気満々な格好だったわけで。
まあね。私はまず格好から入るタイプだからね!
「残念ながら、違うよ。昨日、ちょっといろいろあってねぇ」
ふふふ。聞くも涙、語るも涙。
先日、またうっかり迷子になってしまった私は。
2時間もさまよった挙句、やっぱり何故かばったり出くわした神田に馬鹿にされながらも、なんとか道を教えてもらって、
ありがとう神田助かったよーと感謝した後でやっぱり最後に馬鹿にされ。
くっそう、見てろよ神田ァ! いつか目にもの見せてくれるわァァー!
と言わんばかりに、そのままたどり着いたドアを力任せに…
「したら、うっかりドア蹴破っちゃって」
「それはうっかりとは言わないわ、」
うん、それは私もそう思う。
私も流石に気まずくて、こっそり夜中になんとかせねばとうろうろしていたら、いいところにリーバー班長に出会って。
訳を話したら、とりあえずと愛用の大工道具7点セットを貸してくれた。
しかし、こういうのがサッとでてくる辺り、リーバーさんも苦労してるんですね。
と思わず本人にぽろっと言ったら「そう! そうなんだよ!? 判る!?」とか何とか、小一時間、小話という名の苦労話に付き合わされたよ。
時折、ヤケ酒のように煽っていたのは、聞いたらビールじゃなくてソーダだったらしいけど。
何か、辛いことでもあったのかな…。
「それにしても、これをひとりで直すのは大変だったでしょう? 言ってくれれば一緒に手伝ったのに」
「いやあ、もうこれまでにも色々迷惑かけちゃってるし。流石にお世話になりっぱなしも悪いかなぁ……って。
ぃ、あ痛ったぁぁぁーーー!?」
「!? だ、大丈夫?」
油断大敵。
見事に釘がクリーンヒットしやがりましたよ!
うう、こういうときには自分の不器用さが心底憎いわ。
「失礼しまーす」
その後、流石にちゃんと着替えて。
コムイさんに呼ばれたからと、司令室に来て見れば、
ソファーには既にアレンと神田が、さも仲悪そうに端っこ同士に座っていた。
「やあ。来てくれたね」
「あれ? 。どうしたんですか?」
「いや、私はコムイさんに呼ばれて。アレンは?」
「任務、だそうです」
見れば、コムイさんの机の周りには、様々な地図や資料らしきものが散乱している。
なるほど。だから、神田がこんなに不機嫌なんだね!
神田の相変わらずの仏頂面を眺めて、もう一度アレンを見ると、彼はこちらに向かって苦笑しつつ肩をすくめてみせた。
「二人で任務?」
「はい」
そっかー。
まだ下っ端の私と違って、ふたりはもう立派なエクソシストだもんね。
しかし、帰ってきて早々、大変だなぁ。
「神田。私、お土産は『そうめん』がいいな」
「喧嘩売ってんのか? てか、なんでわざわざお前に土産なんて買ってこなきゃなんねぇんだよ」
「そうだよ〜、なに言ってんの、ちゃん。キミも行くんだよ?」
「「「………え?」」」
あ、思わずユニゾンしてしまった。
気まずそうに、その上心底嫌そうに顔を見合わせるアレンと神田。
しかし、この二人が同時に同じことするのも珍しいよなぁ。
いや、今は問題なのはそこじゃない。
なんですか、コムイさん、今なんておっしゃったんですか!?
「私も?」
「うん」
「……任務?」
「そう!! 初・任・務!!」
そのままグッと親指をつきたててサムズアップ。
って、コムイさん、なんでそんな嬉しそうなんですか。
「「「何ィィィィーーーーー!!!??」」」
ちょ、ちょっとまって。
任務って。
この三人で任務って…!
色んな意味で無茶するなぁ、オイ!?
「大体の概要は、さっき、このふたりに伝えたから。時間がないので、資料は後で汽車の中ででも読んでおくこと。
あと、他に質問は?」
「おい、コムイ! 何考えてやがる!!」
「はい。何かな〜 神田くん。何か問題でも?」
「当たり前だ! こんなイノセンスも満足に使えない様なヤツ連れてったら、こっちの命がいくつあっても足りねぇよ!」
「悪かったね、『こんなヤツ』で」
指を差すな、指を!
しかし、自分の役立たずっぷりは自覚しているので他に何もいえない自分が悔しい。
せめて私に出来るのは、神田にじぃっと呪いの視線を送ることくらいである。(やめれ)
「そうですよ。大体、にはまだ早すぎます!」
そして、アレン。
お前は私の父親か。
「もし、何かあったら…」
「おや。だから、ふたりと行って貰うんじゃないか」
待ってましたとばかりに、メガネを光らせるコムイさん。
ああ、嫌な予感がする。
悪いけれど、過去の少ない経験からも、コムイさんがそういう表情をすると大抵ろくなことが無かった気がします。
「もし何かあっても、ふたりが護ってくれるんでしょう? それとも自信ない?」
あー、神田が凄い形相でこっちを睨んでいるよ…!
言ったのは、私じゃないのに…!?
しかし、神経を逆なでするってこういうことを言うんだな。という見本を見た気がするな。
いや、そうすると、いつも自分がやっているのは何だって話だけど。
大丈夫。
あれは友情という名のコミュニケーションだから。
……多分。
「まあ、研修ってところかな。ちゃんのイノセンス、まだよくわからないんだけど寄生型ってのは間違いないし。
あとは発動待ちだと思うんだよね〜」
「発動待ちってそんな」
「うん。あとは何かきっかけが大事だと思うんだけどね」
それはいわゆる、あれかな。
危機に瀕して力を発揮するってぇ、少年漫画のお約束的なヤツ。
もっと簡単に言えば、サ●ヤ人的な。追い込まれるほどに強くなる的な。
て、それじゃ私、思い切り危ないじゃないかよ。
もしかしなくても命の危機を体験するハメになるんじゃないの!?
あんまりのことに抗議しかけた私だったが。
「おわぁっ…?」
肩にポンと手が置かれる温かい感触に上を見上げると、
いつの間に後ろに回ったのか後ろから覗き込むようにしてコムイさんが立っていた。
「というわけで、ふたりとも」
そのまま、くるんと私の肩を掴んだまま反転して、アレンと神田の正面に立たせると
「ちゃんをよろしくね」
にっこりと満面の笑顔でそう言った。
「「…………」」
…って、二人とも。
何ですか、その明らかに嫌そうな顔は。
「あ、神田くん。これ、この前頼まれてた団服。しっかり直しといたからね」
「悪いな」
「いつも思ってたんだけど」
コムイさんから黒いコートを受け取った神田と、その近くにいたアレンの着ているコートを指差して素朴な疑問。
「そのコートってもしかしてペアルック?」
「薄気味悪いこというんじゃねェよ。刻むぞ!!」
「教団からエクソシストへ支給される証みたいなものです」
神田の怒りの突っ込みは予想していたけど、
アレンもよく見ると、手が細かく震えている。
ちょっと言ってみただけなのに…。
「え? エクソシストってことは…。じゃあ、私の分もあるの?」
「勿論、用意してるよ〜。ちゃんには、はい、これ」
「わーーい。とっても丈夫そうなヘルメットね!」
ハイ、とコムイさんから手渡されたのは黄色いヘルメット。
わぁー、これならどんなアクマが来ても安心だー。
「って、アホかぁぁぁーーー!!!!」
勢いよく地面に投げつけた。
何処の世界に、工事用ヘルメットかぶって任務に出掛けるエクソシストがいるかぁぁー!!!
しかも、ご丁寧に緑色の字で何か書いてあったし(多分、勘が正しければ「安全第一」とかって書いてあるに違いない)。
なんだ、今から行くのは工事現場か!
「嘘ウソ。ちゃんのはこっちだよ」
「…って、アンダーシャツ? コートじゃ無いんですか?」
「う〜ん。コートはねぇ…ま、色々大人の都合があってね」
大人の都合って。
怪しい。
もしかして、只、忘れてただけとかじゃないだろうか。
そうだったら、もういじけるしかないよ。
「それより、コレなんだけど。コレも一応、多少の戦闘に耐えられる丈夫な素材で出来ているからね」
「丈夫な素材って一体どんな」
「それは、企業秘密」
語尾にハートつけて言わんで下さい。
「あと、ほらオシャレなワンポイント付き。どう? 気に入ってくれると嬉しいんだけどな」
あ、本当だ。
それは一見只の白いシャツに見えるけど、よくみると胸元に控えめに銀の糸で刺繍がしてあった。
そりゃあ、シンプルなのは好きだから、文句は無いんだけど。
というか、貰える物なら何でも貰うけど。
「何しろ、夜なべして作った自信作だからね!」
「コムイさんが作ったんですか、これ」
ヘルメットとの事といい、この人、どこまで器用なんだろう。
しかも、若干、無駄な方向に。
「それともやっぱり、さっきのヘルメットのほ
「ありがたく頂いておきます」
なんだかなぁ。
「コムイ兄さんのこと、怒らないでやってね」
簡単な説明の後、一度部屋に戻ってきた私はリナリーに手伝って貰って準備を進めていた。
どうやら今回の任務というのは準備が整い次第、速攻で出かけないといけない緊急のものらしい。
しかし、せわしないな!
「いや別に怒ってはないんだけど、むしろ色々作ってもらっちゃったらしいし。逆に忙しいのに悪いなぁ…って、
何か、リナリーの方がお姉さんみたいだなぁ」
コムイさんも流石に室長なだけあって貫禄があるときにはあるんだけど。
なにしろ、普段があれだから。
しっかりしているリナリーのほうが何倍も大人に見えるよ。
「兄さん、あれでも、人一倍心配性だから。が心配なのよ」
「え? 心配性って、何か危ないの!? あの団服」
「危ないっていうか、うん…ちょっと、ね」
「もしかして、もしものときの為の自爆ボタンがついてるとか?」
「前から誤解を解こうと思ってたんだけど、。
教団はが思っているような怪しげな組織じゃないからね」
「違うの?」
「違うの」
「じゃあ、なんで…」
私がそう言うと、リナリーは哀しげに微笑んだ。
あー…そういう表情はずるいなぁ。もう何も言えないじゃないか。
てか、やっぱり美少女は何をしても絵になるよね!(シリアスを台無しにする発言)
よし。
貰ったシャツも下に着込んだし。
結局、いつも着ている学生服の下に一枚増えただけだから、哀しいことに見た目は全然変わらないけど。
というか、今の季節がなんなのかわからないけど、流石に私も、アレンや神田がロングコート着てる中
一人でシャツ1枚になるほど世間知らずではない。
どんな真夏のお嬢さんだよ。(?)
「準備完了っと。じゃあ、リナリー」
「うん、いってらっしゃい、。気をつけてね!」
急いで地下水路に向かうと既に準備を済ませていたらしいアレンと神田が船の上で待っていた。
わあ、神田さん、もうクチ開くまでもなく不機嫌全開ですね!
「遅い」(怒)
「ご、ごめん…!」
「いや、そんなに待ってないですよ。僕らも今来たところだし」
そう言って、さりげなくスッと手を差し出してくれるアレン。
さすが優しい。
アレンは本当に紳士だなぁ。
と、聞こえてくる舌打ち。
「なんだ。なんか文句あるなら堂々と言え、モヤシ」
「なんですか。神田って本当、短気ですよね。蕎麦ばっかり食べてないで、たまには
カルシウム摂ったほうがいいんじゃないですか」
いや、もう本当、これさえなければなぁ…!
「あ。今、気付いたけどアレン、なんでフード被ってるの?」
「え?」
見ればさっきまで、というか今まで気にしていなかったけど、アレンはコートのフードを何故か目深に被っている。
アレンは突然聞かれると思ってなかったのか、目を真ん丸くしてから、ああ、これですか。と自分の頭に触れた。
「ほら、僕の髪の毛、これでしょう? 目立つんですよね」
「白? う〜ん、まあ、珍しいかな…?」
「そう。だから、教団から外にでるときには、出来るだけ隠す癖がついちゃって」
注目されるの苦手で。そう苦笑いをして頭を掻いた。
苦労しているんだなぁ。若いのに。
「うん。確かに、若白髪っていうには無理があるからね」
「なんかちょっと論点がズレてるような気がしないでもないけど。まあ、大体そんな感じかな」
「でも私はアレンの髪の毛好きだよ」
思っていることを言ったら、何故かアレンが固まった。
あ、目、大きいなぁ。って
? 何だ、何かおかしいこと言ったかな。
あ、もしかしてこの話の流れで『髪フェチかよ』とか思われてたらどうしよう。
「……それは、どうも。ありがとうございます」
「なんていうの? サラサラしてて手触りよさそうだし、ネコっ毛っていうか柔らかそうっていうか。なんか見てると思わずムシャぶりつきたくなるっていうか」
「最後の感想は正直どうかと思いますが、さっきのは一応、褒められたってことでいいんですよね…?」
「何を言いますか! ごっつ褒めてますよ!?」
なんか勢いに任せて素直に言い過ぎた感もするけど、嘘は言っていないよ。嘘は。
むしゃぶりつきたくなるってのも、包み隠さない私の本心だよ!
実際にはやらないけどな! やりたいけど!
ともかく、綺麗だと思う心は本当なわけで。そこんとこは真実なわけで。
「そうですか」
「そうなんですよ」
そう納得しておきなさい、と無理矢理押し付けるように言ったら、はいはいと苦笑するように返事してくれた。
うむ、宜しい(偉そう)
と、私がその反応に納得していると、不意にアレンが笑顔でとんでも無いことを言いだした。
「の髪も綺麗ですよ」
「………」
「何ですか、その間」
「大変だーー!! 天然タラシが出たぞーー!!!」
「……えぇ!!? って、何処に向かって叫んでるんですか、!!」
だってさぁ。 アレンが恥ずかしいこと言うからさぁ…!!
くそ、この英国紳士め! 女の敵め!
なんでそういうことを臆面もなく言うかな!
大体、私も私で柄にもなく赤くなっちゃったりしちゃったりしてんじゃねぇぞこら、
なんだ、私、いっちょ前に女の子みたいだな、オイ!(そしてこの反応はとても女らしくない)
横からは、元はといえばが言ったのに…とぶちぶち言う声が聞こえたけど、
あーあー聞こえなーい。
あー。もう、恥ずかしい話題、終了ォォォーーーーーー!!!
駄目だ!
恥ずかしすぎる!
こんな恥ずかし空間にいたら、間違いなく脳内がピンク色に染まってしまう。
隣にいる神田なんて(いたのか)元々聞かなかったことにしているし。
この無我の境地を見習いたいものだ。
目を開けたまま寝てるとかだったらどうしよう。
「ともかく。それは置いておいて、この水路なんだけど」
「また、唐突ですね」
まあ、いいですけど。と、私の無理矢理な話題転換にのってくれた。
助かった、今のままの微妙な雰囲気のままでいたら、このままアレンを水路に突き落とすところだったかもしれない。
「いや、この教団凄い場所に建ってるけど、どうやって出入りするのかなって思ってたから。こんなところに通路があったんだ」
「はは。周りは崖ですしね。僕も最初ここに来たときは苦労したなぁ」
「の、登ったの、まさか!? あれを!? 何気にアレン、結構体育会系?」
「まあ、そんな苦労なんて、あの頃に比べれば全然ましなんですけどね…」
そうして遠い目をするアレン。
ああ、私の知らないアレンの黒歴史がまた。
あの頃っていうのが何を指しているのかは判らないけど、多分聞かない方がいいような気がする。
何より、私の本能がそう告げている。
その後のことは。
しばらく、思い出したくもない。
「し、死ぬかと思った…! 本当に、マジで!! なんか途中で綺麗な河とか見えかけたよ!!?」
まさか、いくら急ぎの任務だっていっても、あんな無茶苦茶な移動方法だとは思いませんでしたよ。
簡単に言っちゃえば、汽車の屋根でリアルダイハードですよ!!
ぜーぜーと息を整えながら神田やアレンの方を見れば、2人とも涼しい顔をしている。
なんだって、そんなに余裕なんですか、あんたらは!
大体、一般人の私がこんなスーパーマンみたいな運動神経の人たちと一緒に行動するっての自体が間違ってるんだって!
いくら付け焼刃のエクソシストとはいえですよ!?
私は一般的な、かよわい女子なわけで。(ここ笑うところです)
途中、何度かアレンに、大丈夫ですか、僕が担ぎましょうかと申し出を受けたときは一も二も無く飛びつく勢いの私だったけど。
その度目に入る神田の「そんなことも出来ねェのか、この素人が」(被害妄想)みたいな目にカチンと来て。
無駄に挑発に乗ったのがいけなかった。
最後に汽車に飛び乗るときなんて、思わず無理だとギャーギャー抗議したら、今度は有無を言わさず人を放り投げやがりましたよ!?
アレンがキャッチしてくれなかったら、どうなってたか。
そりゃあさ、足首掴まれて、引き摺られるよりは全然ましだけどさ!
プリンセスホールドといかないまでももっと、こう、あるじゃないか!
…まあ、足を引っ張って申し訳ないという気持ちも…ちょっとでもないわけでもないけどさ!
うん。今度、教団に戻ったら、ちょっとは体力つけるよう努力しておこう…。
そんなわけで、なんとか汽車にザ・不法侵入みたいな乗り込み方をした私たちは。
早速、乗務員さんに見つかった。
やっぱりね。
「こ、困ります、お客様…! っていうか、そんなところから」
汽車の屋根の部分から、降りてくる私たちに、おどおどしながら注意する乗務員さん。
いや、こんな乗り込み方しておいてなんですが、この状況で私たちが「お客様」に見える貴方は凄いと思うよ。
これ、どう好意的にみても立派なハイジャック犯だよ。
旅の最初からうっかり、刑務所行きかと思われた事態は、しかし。
「黒の教団です。突然ですみませんが、一室お願いします。どうか内密に」
「至急、頼む」
「…! ハ、ハイ、ただいま!!」
その乗務員らしい人は、神田を見てハッとした表情になると慌てて出て行った。
「凄い…流石、神田…! ヤクザもびっくりの
「一応、変な誤解してるようだから言っておくが、教団の力だからな」
「…え? 今のって神田の凶悪な眼力に恐れを為したわけじゃ」
「ねぇよ」
ないんだ。
じゃあ、なんで? 不思議に思っていると。
「これ」
と、コートの左胸を指してアレンが説明してくれた。
「このローズクロスは教団の証なんです。ヴァチカンの名において、あらゆる場所への入場が認められてるんだそうですよ」
「へぇーー。便利ー」
僕も人から聞いた受け売りなんですけどね。と笑うアレン。
いろんなところに顔パスってことか。
なんだかんだで、改めて凄いところなんだなぁ。
暫くして通された個室は、凝った内装の、流石に一等車両といわんばかりの部屋だった。
「おー凄い、私、汽車の貸切なんて初めてだよ!」
それどころか、蒸気機関車さえ初めてだ。
電車にしたって普通電車ならともかく、グリーン車なんて庶民にとってはブルジョアの乗り物なわけで。
こんな機会滅多にないし、今のうちにがっつり堪能しておこう。
「丁度、空いていてよかったですね」
言いながら隣の席に座ったアレンに渡された資料を何気なしに見て…固まった。
よ、読めねぇぇーー………。
と、顔を上げると明らかに馬鹿にした表情の神田がこちらを見ている。
「な、なんでしょうか、神田さん? べ、別に私この資料が全然読めないなんてそんな馬鹿な、なんて一つも思ってませんよ!? ってか、何か文句でもあんのか、コラ」
「、資料、逆さまですよ」
「ああなんだ、そっかー。って、ベタなオチだな、オイ!!(ビシ)」
「俺にあたるんじゃねェよ」
まあ、逆さまじゃなくても読めないんだけどね!
ちょっと見ただけでもその資料には、何語で書いてあるんだ、といわんばかりにびっちりと書き込みがしてあった。
「ところで、詳しい任務についてはふたりから聞けって言われたんだけど…」
資料を盾にしてそう神田に恐る恐る聞くと、予想通りの舌打ちが聞こえた。
な、なんだい、なんだい、いっつもそうやってさ!
私だって、説明聞くの面倒くさいんだからね!?(最低だ)
「イノセンスについては、どんなものかってのは聞いてるな」
「まあ、おおよそ」
「”奇怪のあるところにイノセンスがある”だから教団は、そういう場所を虱潰しに調べて、可能性が高いと判断したら俺達を回す」
「奇怪を調べて回る…」
「そうだ」
「そっか。判りやすく言えば、「放課後不思議探検クラブ」ってところだね」
「お前、もう黙れ」
なんだ、ちょっと難しそうな話だから、あえて親しみをこめて呼んだだけなのに。
駄目だね、神田にはユーモアセンスが足りないね!
そう私が威嚇していると、横にいるアレンが困ったように私を宥めた。
「まあ、まあ。で、その奇怪な出来事というのが今回の…」
「そこから先は、私から案内させていただきます」
そのとき、個室のドアの当たりから、この場に先ほどまでいなかった新しい人物の声が聞こえてきた。
思わず一斉にそちらを向く。
「お待ちしておりました」
「私は今回の現場の案内役、探索部隊(ファインダー)のエドと申します。ヨロシクお願いいたします」
振り向いた先には、白い探索部隊の格好をした壮年の男の人が、こちらをかしこまった様子で見ていた。
おお、こちらこそヨロシクお願いします…
て。
ところで、なんでこんな良いタイミングで入ってくるんだろう、この人。
さては、一番格好良い登場を狙っていたんじゃ…。
(つづく)
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◇あとがき◇
原作沿いにするかどうしようか迷って、結局微妙なオリジナル話になりました。
だ、大丈夫でしょうか…?
いろんな説明をするためにちょっとマテールの説明台詞を参考にさせていただきましたが、
そうすると原作を読みふけっちゃって、先に進まないという非常事態に。(えー)
そういえば、団服の話。
なにやら重要そうに話が進んでいますが、これはただまだエクソシストじゃない人が団服着てると狙われちゃった時に大ピンチよ!
というだけの話だったりします。
あと、異世界トリップの主人公は制服を着ていて欲しい管理人の只の個人的な趣味です。(本音)
(H19.6.24)