まるでどこかのヒーローみたいに。
いざピンチになったら颯爽と自分のイノセンスの力が格好良く目覚めたりしないかなーなんて。
別に私だってそんな都合のいいことばかり考えていたわけじゃない。

だって、ほら、第一、私そんな格好いいキャラクターじゃないしね?
ねぇ。ははは。


いえ、すみません、めっちゃ考えてました。






―STAGE7 







!」

遠くから聞こえるアレンの叫び声を何処か他人事のように聞きながら、本能的に声のする方を見た。
まるで、スローモーションのようにアクマが放った弾丸らしいものが此方に向かってくるのが見える。
避けきれない!?

思わず衝撃に備えて反射的にぎゅっと目をつぶる。

それにしても、一発ならまだしもこんなに一気に撃ってくることないんじゃないかな!
一発だけでも避ける自信はまったくないけどね!


「うわっ…!?」

突然、ぐいっと何かに引っ張られた。

え?
何、何が起きたの?
目を開けると一面真っ黒。それに、頭に血が上る…!
一寸先は闇っていうか、あれ? どうなってるんだろう。
今、私、どういう状態?

「チッ…」

予想外に近い距離から聞きなれた舌打ちが聞こえて、顔を横にむけると

「神田!?」

「しっかりつかまってろ。モタモタしてたら振り落とすぞ」

「…う、うん。…てか、しかし、
そんな米俵担ぐように持たんでも…!

お前は助けて貰っておいてそれか

どうやら、危機一髪で神田に助けて貰ったらしい。
左手に私を抱えて…というか正確に言えば担いで、右手に自分のイノセンス―六幻を持った神田は、
アクマの攻撃をかわしながら、律儀に私の声に答えてくれた。(只の突っ込み)
器用だなー。
しかし、これはこれで色んな意味で恥ずかしい体勢だ。

「こんな場面で言うのもなんだけど」

「なんだ!!」

「神田、髪、本当に長いね。みつあみとかした

本当に振り落とすぞ

すみません、黙ってます

だって、他にやれることもないし、丁度、目の前で揺れてるから凄く気になるんだよ。
いいなあ。綺麗な黒髪ストレート。
流石に触ったりしたら駄目だと判っているから、手をわきわきさせるだけで我慢するけどね(変態か)

その間も神田は手を休めることなく、現れるアクマを次々と倒していく。
おかげでちょっと緊張感が飛んじゃったっていうか、本当余計なこといって、すみません。
流石に普段からいうだけのことはあって、凄く強かったんだなぁ。
ところで、さっきから気になってたんだけど、神田の刀から出てる悪霊みたいなのは…何?
エクトプラズム?



結局。
最初に神田が言ったとおり、アクマがレベル1のみの集団だったお陰で、その後は特に危なくなることもなく、
空に居た大量のアクマはアレンと神田によってあっさり倒されました。

…私がピンチになった意味は。



「なんともないですか? ?」

「わー…ははは。ちょーっと地獄見ちゃったかも…?」

「すみません…油断しました。僕がちゃんとを護っていれば…」

心からすまなそうに謝るアレン。
あ、あれ?

「あ、アレンの所為じゃないよ? 私なんて寧ろ足手まといばっかりで申し訳ないくらいだし!」

あー私の馬鹿!
慌てて弁解しようと手を振り回しながら、矢継ぎ早に言った。

「本当、私、せめてもうちょっと役に立てっていうか、もういっそのこと囮的位置で活躍するしか残された道はないっていうか

「いや、。慰めてくれるのは嬉しいんですけど。何もそこまで

「まあ確かに。せめてお前がまともに使えりゃ、もう少し早く片がついたろうな」

「よーし。よく言った、神田。
とりあえず、歯ァ食いしばれぇーー!

「自分でいったんだろうが」

くそう、神田め。
自分で思っていることでも他人に言われるとこう…腹立つな!
いや、ここでいつものように言い返そうもんなら、それこそ神田の思うツボだ。
大人対応、大人対応。(してない)

しかし、神田じゃないけど、本当に私のイノセンスは一体なんなんだろう。
本当に適合者なのか自分でも怪しくなってきたよ。
もしかして、あの時。司令室で体に入ったと思わせといて実は素通りしてた、とかじゃないだろうか。
もしくは既に消化しちゃったとか。いや、そんなまさか。

と、ちょっと思案していたら神田と目があった。
…一応迷惑かけちゃったし。ちゃんと謝っとこう、うん。

「あーでも、本当にごめん」

て、何ですか、神田さん。そのびっくりしたような目は。
私だって自分が悪いと思ったらちゃんと謝りますよ? …4年に一度くらいは。(オリンピック的)

「気味悪りぃ」

なんだそれ

それは間違っても乙女に言う台詞じゃないよ!
あまりの台詞に思わず突っ込みそうになったが、いや、そうじゃなくて。

「いや、うん。さぞ、重かっただろーなーとは自覚してるし…」

「…別に

うおわああああ!!

…な、何だ!? 突然大声出すな!

い、いいよ! その後は言わないで! その後の言葉はわかってるからー!!

確かに私、今、重いって自分で言ったけど。言ったけどさ!?
それは自分で言うからまだいいんであって。
今、人から言われたら私立ち直れないよ!
自分の言葉を無理矢理大声で遮られたことにちょっとだけムッとしたのか、
神田が尚も私に向かって何か言おうとしている様子だったので、勢いをつけて両手で耳を塞いでしゃがみ込む。

絶対、聞かねェェー…!!

と、私が無駄に焦っていたらその願いも空しく、神田が憮然とした表情で呟いた声が聞こえた。

「たいしたことねぇよ」

あ゛ぁ!? 言わないでっつったろーが……って……え?」

思わず男らしい突っ込みを入れた後で、聞こえてきた言葉を反芻して固まる。
あ、予想外の展開すぎてつい手を離してしまった。

「別にたいしたことねぇ、っつったんだ」

「神田…」

「なんだ」

何か悪いもんでも食べた?

「真面目な顔で聞くな」

だってさ。な、何、もしかして。
私の願望かもしれないけど、今、優しい言葉を掛けられたような…?
思わず大文字で言っちゃうけど、
神田が優しい言葉を。
神田が優しい言葉を。

優しい言葉が神田を(間違った倒置法)


え、もしかしてついに友情の芽生え…!!?

「第一、お前とは鍛え方が違うんだよ」

前言撤回。
この、パッツンポニーが。









「白い空間?」

アクマ襲撃が落ち着いて暫くして、私はふたりに自分が見た夢のことを伝えた。
本当はもっと早くに伝えたかったんだけど、色々あって。
だから、主に神田の所為です。

「怪しいですね。そこにあったのは家が一軒と…他にはどんな?」

「そうそう。すっごい重要なポイント! その家にはね、なんと!

「何か見つけたんですか!?」

めっちゃ私好みの子が

「そういうどうでもいい情報は伝えなくていい。時間の無駄だ

どうでもいいとかいうな!

私にとっては大事だよ!
萌えは明日へのエネルギーなんだよ!!

「まあ、神田は置いておいて、話を先に進めましょう」

「てめえ、モヤシ。今、なんつった」


「なんだか、また別の闘いが…」

あー話がすーす−まーなーいー。
誰だよ、こんなチームにしたのは! って、コムイさんだ! こんちくしょう。
帰ったら覚えてろー!

「で、?」

「ん?」

「あと何か思いつくこととか、気になった点はなかったですか?」

え〜と。気になったこと…気になったこと、ねぇ…?
腕を組んで見た夢の内容を思い出す。
あ。そういえば…。

突然涙目になった私を見たアレンがギョッとした。

「ど、どうしたの!?」

だいきらいとか…言われた…」

「あー…大丈夫ですか」

そういえば、最後に言われた言葉。
今考えればすんごくショックだったんだ…あんな可愛い子に嫌われた…!
…あ、いや、ちょっと誤解を受けるとあれだから言っておくと、別に断じて女の子が好きなわけではなく。
可愛いものはすべて好きっていうか。これでも一応、女の子だからね!(突っ込みポイント)

まるでいじけるように床にしゃがみこむと、仕方ないといった風によしよしと頭をなでられる。
うう、優しい、アレンかあさーん…(誰)


って、
お母さん…?

こんなこと…最近あったような…

あ。

あああぁぁーーーーー……!!!

「な、どうしたんですか、?」

お、思い出した!
今ので思い出すのもあんまりだけど、まあ、それは置いておいて。
そうだ。
白い空間で見たあの家、行きの汽車の中で見た夢の風景と同じだ。
夢の中で見た誰もいない寂しい風景。

そうか。

奇怪の原因にもしかしたら関連があるかもと、家のことを伝えるとふたりとも神妙な顔になった。

「今のところ他に手がかりも何も無いし、行って見ましょう」

「ところで、アレン」

「何ですか?」

「私が倒れてた家って何処にあったか…覚えてる?」

私は情けないことに覚えてない。
何しろ方向音痴だから!
偉そうにするのもなんだけど。

「あ。
あの家ですか…?」

「そう。
あの家

「あ…ははははははは

「ふ、ふふふふふふふ

思わずふたりで笑いあう。
あーあれだね。この反応は間違いなく。
アレンも覚えてねぇな。


不気味に笑いあう私達の後ろから神田のため息が聞こえた。ほんと、すんません。




結局またバラバラになると収集がつかなくなるっていうんで、三人一緒に家を捜すことになった私達だったけど。
それはまあ、こんな小さい街のこと。
その家は割りとすぐに見つかった。

汽車の中で見た景色と、最初に白い空間に来たときに見た景色。
ここはその以前にみた光景のどちらとも違って随分花壇も荒れているけど。
間違いない、多分ここ同じ場所だ。
考えてみれば2度も見てるんだし、見覚えがあって当然だよね。
暫く思い思いに周辺を見渡してから集まった。

「ここですか? ここに何が…」

「確かこっちのほうに…あった」

うん。あの時は、確か…ここをあけようとして、
人間性との葛藤に…いや、それは関係なくて。
ともかく、ここで意識を失ったんだった。

少し埃をかぶったタンスを開けると、そこにあったのは

「…絵?」

手にとってみると、A4用紙いっぱいに描かれた風景画だった。
青い屋根に白い壁の家。辺り一面に咲く綺麗な花。楽しげに笑う家族の絵。
それはきっとこの家の風景に間違いない。

「後ろに何か書いてありますね」

何かに気付いたらしいアレンが、絵をひっくり返して後ろに書いてある文字を読み上げた。

「ア…リ……。『アリス』…?」

「この子だ」

「え?」

「夢の中であった子! この女の子だよ!」

そうだ。間違いない。
慌てて表に返すと、絵に描いてある女の子の金の髪もエプロンドレスも同じ。
そうかぁ。あの子の名前「アリス」っていうんだ。
名前も可愛いなぁ。

「なんだ…夢のって、女の子だったんですか。僕はてっきり…」

アレンが思わずといった様子でぽつりと呟いた。
? そうだよー可愛い女の子だよー? って私、男の子なんていったっけ?

「いえ、なんでもないです」

「…? まあいいけど」



そのとき。

う、うわっ!
な、何、アレンの左手が光っているし!

「な、何…!?」

「イノセンスが…共鳴してる? ということはやはり…」

見れば、神田も緊張した面持ちで六玄を取り出している。
な。なんだ、刀も光ってる!?
何コレ、新しいブーム?(絶対違う)

「え、なんで? もしかして、また周りにアクマがきてるとか!?」

「いや。おそらく原因はコレだ」

「え? この絵? だってこれ、只の絵…」

2人のイノセンスが反応してるってことは、多分、イノセンスに関係してるってことなんだろうけど。
でも、前にリナリーが持っているのを見たときには、確かこんな形じゃなかったよ?
思わず周りをきょろきょろ見回す私を見て、神田が解説してくれた。

「イノセンスってのは必ずしも一定の形をしているわけじゃない。むしろ、様々な状態に変化している場合が多いんだ」

てことは。
どうやらこの絵に関係しているっぽいのは間違いなさそう…ってこと?
それどころか…この絵自体がイノセンスって可能性も…!?

てことは、あれだ。
うん、ここでやれることは一つしかない。
しかも、多分、今の私しか出来ないことだ。
実はちょっと前から考えてたんだけど、やるなら今しかない。
よし、そうと決まったら決心が揺るがないうちに膳は急げ!

私はふたりが呆然と自分のイノセンスを見ているうちに、素早く絵を掴んだ。

「アレン」

「…?」

「ごめん。ちょっと行ってくるね。後、よろしく」

「え…ちょ…っと、?」

慌てたようなアレンの声を聞きながら、
私の意識は再び、白い闇に呑まれていった。






そして、白い場所再び。

ふふふ。


ビンゴ!?(古)


あれですよ。
イノセンスのお陰で奇怪の影響を受けない、イコール、エクソシストは奇怪に巻き込まれない。
てことはですよ。
イノセンスが発動できない凡人だからこそ、この空間に入ることも出来るんじゃないかって。
いうなれば、半端もんだからこそ出来る裏技ってやつ!?
て、威張って言うほどのもんじゃないけどね!(本当にな)

ま、虎穴に入らずんば虎子を得ずってね。
鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギス。
ふふふ、まってろよ、神田! 散々人を役立たず呼ばわりしてくれちゃってさぁ!
今に目にもの見せてくれるわ…!
でも基本、臆病なので無理はしません。


二度目になる白い空間。
以前と同じように少し歩いていくと、同じように青い屋根の家が見えてきた。

…いた。
白いエプロンドレスの女の子。
彼女は誰もいない空間に向かって、熱心に話しかけている。


「アリス…ちゃん?」

彼女は私が声をかけるとビクッとした様子で振り向く。
その瞬間。
パアァァ…ンと何処からか聞こえた音と共に辺りの景色が砕け散った。

後に残るのは、冷たい空気と私達2人の姿のみ。



「なにしにきたの?」

う。
可愛い子からの拒絶の言葉と視線はやっぱり覚悟してても寂しい…。
特に嬉しそうに微笑む姿を知っている分、余計に落ち込むなぁ。
神田からの拒絶の視線はもう慣れっこだけど。

いや、今は落ち込んでいる場合じゃないんだった!

「アリスちゃんこそ」

名前を呼びながらゆっくりと近づく。
対する彼女は感情の読めない無表情で、私の様子を伺っている。

「何、しているの?」

「みればわかるでしょう。ママといっしょに…」

「いないよ」

出来るだけ言い方がきつくならないように。
でもハッキリと簡潔に見たままを答える。
だって、いない、って私は知っているんだ。

『だってわたしをおこしてくれるひとはもういないのだから』

夢の中で聞いた言葉通りなら…多分…

「そこにはあなたの家族はいない」

残酷なようだけど…辛いけど、仕方ない。
こちらを睨む目つきがきつくなる。
う、負けるもんか。

「しってるよ」

あれ? し、知ってるの…!?
そ、その答えは予想外だった…!
私てっきりこの現象は街の人を家族と間違えてるからだとばかり…

「ママはいない」

「…だから、起きたくないの?」

「おきても誰もいないもの。おはようなんて誰もいってくれない」

「そんなことな

いないの!!

今まで抑えていたように淡々としゃべっていた彼女が急に大声で叫んだ。
ビックリして思わず言葉を飲み込む。


ずっとだれもいなかった。だから、わたしは目覚めない!


『だったらおねえちゃんはずっといっしょにいてくれる?』


ああ。
寂しいんだ。

その一言でやっとわかった。
いないって判ってても、誰かにそばにいて欲しかったんだ。
だったら。

「わ、私が言ってあげる! おはようって」

「無理よ」

無理じゃない! だから、おきよう!?

取り付くしまもない様子のアリスちゃんに少しでも届くように
必死に叫んだら、アリスちゃんは目を大きく見開いてこっちをみた。

「あ。あれ? 私じゃ駄目…?」

なんていってみても…やっぱり、駄目だろうな。
だって、こんな可愛い子のお母さんならそりゃあすっごく美人だろうし…そんな人と比べたらきっと私なんて…
ってここで諦めたら駄目だ!
諦めたらそこで試合終了だって、安西先生(誰)もいってたし!

「とにかく!」

こんな可愛い子がこんなところで引きこもってるなんて、勿体無い!(本音)

「世の中にはきっと思ったより綺麗なことも楽しいことも沢山あるよ。悲しいことだけじゃなくて」

ああ、なんか言ってることめちゃくちゃだけど。
とにかくなにか、何でもいいから、伝えなきゃ!

「起きたらきっともっと良いこと沢山あるって! ほら、昔から言うでしょう!? 習うより慣れろ!

あれ? 何か違う?
見れば彼女もポカンとした表情で私を見ている。
ま、まあ、いいや。
ちょっと突っ走っちゃった気もするけど、間違ったことは言ってない…はず。
そして、少しだけ気を落ち着けてから、祈るように言った。

「だから、起きよう」

な、何か反応してくれますように…。


「さっきから」

暫くの沈黙の後、ずっと黙ったままだった彼女の声が聞こえた。
ぽつりと聞こえた声はさっきよりも大分弱々しい。

「あなたがなにを言っているのか、ぜんぜんわからないわ」


「あ、やっぱり…?」

ああ、駄目だ、私。
よく真菜にも言われたっけ。「熱意は買うけど、の言いたいことはよくわからん」
最近は神田にも言われるけど…神田は熱意も買ってくれないし。いや、まあ、それは置いておいて。
私ったら肝心なところでいつもいつも空回りなんだから、もう…。


「でも」

え?

「たのしそうなのはつたわったから」

不意に声の調子が変わって。
顔を上げるとアリスちゃんは静かに微笑んでいた。

あ。笑った。


「もっとはやくおねえちゃんと会いたかったな」


…そうしたらきっともっとたのしかったよね。

そして、光が。


やっぱり、笑顔のほうが可愛いよ、うん。
そう言おうとしてでも声が出なかったから、私も微笑み返した。













「……あ、れ?」

……天井…?

あ。あの染み、顔に見えるなぁ。

って、

「おかえりなさい、

あ、アレン?
ガバッと起き上がるとホッとしたような、でも何処か怒ったような顔のアレンと目があった。
辺りを見回すと、多分あの家の中、かな。
神田の姿が見えないところを見ると、多分、辺りの偵察か何かに行っているんだろう。

しかし。
あーしまった。
起きた後にどうするのかまったく考えてなかった…!
なんか、夜逃げのような不意打ち加減で夢に入っちゃったからなー…。
さっきから感じる刺すような視線は、きっと気のせいじゃない。

「あ、アレンさん…?」

「はい?」

「なにか怒ってます…か」

「いえ。なんでですか?」

恐る恐る聞くと、アレンはニコニコと最上級の微笑みを返した。
わー素敵なスマイルですね。(棒読み)

「や、なんでも…」

「いや、しかし。無事でよかったです。が言ったとおりよく効くんですね」

「え?」

スリーピングビューティ、でしたっけ?」

人差し指を口元に当ててにっこりと意味ありげに微笑むアレン。
って、
ええええ…!!?
すりーぴんぐって、すりーぴんぐって…
ま、まさか…。

ちょ、ちょっとまって…いや、アレン、くん? な、何を一体いって…

「なんですか?」

なんだこのいっそ怖いくらいの笑顔は…!
心なしか顔が近い分余計怖い…。
てか、なんだろう、
この突然の乙女的シチュエーション

そりゃあ最初にこの街に来たときに、私、いばら姫って言ったけどさあ…!
なんというか。
どうせやるなら意識のあるときに…じゃなくて、いや。うん。すみません、うっかり本音が。

私がそう一通りうろたえていると、今まで黙って私の様子を見ていたアレンが突然吹き出した。

「すみません、嘘です」

は?
嘘って…何が…

「2度も心配させた仕返し、ですよ」

そういって、笑いやがりました、よ。

「……」

「…? えっと…怒った? ちょっとやりすぎた…かな」

そして、見た目に判りやすくシュンとなるアレン。

…どんだけ。
お前は、どんだけ。

お前は、どんだけ、萌えキャラになるつもりだよ…!!

「…え? なんですかそれ!? 萌え…?









「え…?」

あの後、アレンに連れられて家の裏手に回った私はそこで信じられないものをみた。
そこにあったのは白くて可愛い…お墓。
思わず刻まれた言葉を読み上げる。

『(私達の可愛い愛娘 アリス ここに眠る)』


「年代を見ると…この現象がはじまった数年前にはもう…」

「なんだ…私てっきり…」

ああ。そっか、それで。
おきようと必死に言った私の言葉に彼女はあんなに驚いた顔をしたんだ。

「馬鹿だなぁ、私。ずっと勘違いして、何にも判ってなかった」

彼女はおきたくなかったんじゃなくて。
起きたくても起きれなかったんだ。

一人で淋しくて、遊び相手が欲しくて。
自分に笑いかけてくれる人を探して。
だからって、街の人たちを巻き込んでいいってわけじゃないけど。
うん、だけど、あんな小さい子が一人で、きっと寂しかったよね。

「それでも、その子は最後ににイノセンスを渡してくれたんですよね?」

「…うん」

「だったらきっと、が一生懸命なのが伝わったんですよ」

「…そうかな。もしかして、『何、この女の人なんか勘違いしてて超めんどいしとりあえず渡しちゃえ』
的に思ったのかも…」

揚げ足をとらない

「うん、ごめん…つい」

駄目だ、つい卑屈になってしまった。
アレンの「まったく…」という呟きが聞こえる。
う、相変わらずシリアスな雰囲気になれない子でごめんなさい。

がその子のためを思っているのがその子に判ったから、だからきっとそのイノセンスを渡してくれたんです」

もう一度私に言い聞かせるように言うアレンの言葉を聞きながら、思わず手に持った絵を眺める。

「そうかな?」

「そうですよ」

そう…だね。
うん、だったらいいな。

「だから、おつかれさま、






その後。
「じゃ、の意識も戻ったことだし、神田を呼んできます」と言い残したアレンを見送って一人庭先に残った私。
って。
あのふたりをふたりきりにして、大丈夫なのかな。
ま、まあ、もう行っちゃったものはしょうがないし。ドンマイ…! どうか新しい問題が起きませんように。

さてと。
一応、奇怪の原因がイノセンスだとわかったことだし。
後は…街の様子を見て、エドさんに本部に連絡をとってもらえば終了…かな?
あーしかし、私って…結局戦闘でも足引っ張るし、大事な場面で変な勘違いはするしで。
結果オーライって言葉もまあ、あるにはあるんだけどさ。いいとこなしっていうか。
ちょっとどころか自分が情けな…。


伏せろ!!

え?

突然掛けられた大声に思わず硬直すると、間髪いれずに風圧が髪を揺らした。
続いて聞こえる爆発音。
ま、まさか…
ア、アクマ…!?

、大丈夫ですか!?」

遠くからアレンの焦った声も聞こえる。

嫌な予感に空を見上げれば…

ああ! な、なんか、前よりも増えてるし!?

ま、まさか、てか、もしかしなくてもこれ狙ってる!?
手に持っている絵をぎゅっと胸に抱える。
だって、これはアリスちゃんが私にくれたんだから。

前回は足手まとい部門満点の私だったけど、今はそうはいかないんだ…!

少しみても神田とアレンは遠くにいる。
この距離からすると、もし何かあっても前みたいに助けてもらえる状態じゃない。
な、なんとかこの場所から離れないと…!

そうして焦ったのがいけなかったかもしれない。


「…っ…!!?」


走り出して数歩もしないうちに、足元に思わぬ障害物が。
な、なんだ、さっきのアクマが壊した瓦礫!?
あーこんな大事な場面で転ぶって、そんな、小学校の運動会のクラス対抗リレーじゃあるまいし!
ここで、そんなドラマティック性、要らないから!!

それに気をとられた瞬間。

ふいに絵が手を離れて―。
同時にすぐ近くで聞こえる爆音。

………!!

!!」

「チッ…!」


な、何!?
何がどうなった…って、煙で前が全然見えない…!

そっと目を開けると…


手が…光ってる!?





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◇あとがき◇

あー真面目にいこうとして失敗しました。
駄目だよ、似合わないことやっちゃ!

そして…本当は今回で終わらせるはずだったオリジナル話がどんどん伸びて…


(H19.7.1)