※現在の状況 
  只今、私、と神田の体と中身が入れ替わっております。
  大変ややこしいのですが、私の行動イコール、見た目には神田の行動、だと思って
  想像して頂けるとよりお楽しみ…出来るのかな、コレ。
  逆に苦情とかこないか心配なんですけど!






―STAGE11 







「…神田…今、なんていいました…?」


目の前には蒼白になったアレンの顔。

なんでアレンがこんなに怯えているのかっていったら、
私がうっかり神田の顔と声で「アレン」って呼んじゃったからなんですけどね。
ははは。

ど、どうしよう。

コムイさんには口止めされてるけど。
うー、でも。アレンには…あんまり、嘘つきたくないなぁ。なんとなく。

そうだ、アレンにだったらこのまま言っちゃってもいいんじゃないかな…?
そう思ってちらりと神田の様子を見るとやっぱり睨まれた。
『やたら滅多らに教えんな』ってことだよね、きっと。
まあね、このままずるずると人に教えていったら、極秘でもなんでもなくなっちゃうし…。
確かに出来るなら隠し通せた方がいいんだけど。

「今って…『いや、別に…?』か?」

「違いますよ! その前です!」

「前…『あ、アー、レン…コンは、いやあ、別に特に嫌いな天ぷらの具でもない』と」

ちょっと無理あり過ぎませんか、それ

「…あ…いや…」

「だ、大丈夫ですか…? さっきから神田、なんかおかしいですよ? 熱でもあるんじゃないですか?」

そう焦ったようにアレンが話しかけてきた。
あのアレンが神田に向かってこう言うってことは、今の私、余程酷い表情してるんだろうなきっと。

仕方ない。もう言っちゃったものは仕方ないし。
もうそこは無視して、ここは無難に神田の真似をして切り抜けるしか!?(超今更)

ええと、神田の話し方、神田の話し方。
そうだ、今までに自分で受けてきた神田からの暴言の数々を思い出して…
みたら何か凹んできたんですけど。

なんか私、今更だけど、馬鹿とか阿呆とか言われすぎじゃない…?
あ、いや、今はそんなんで凹んでる場合じゃなくて!


神田の口調って…
こ、こんな感じ?

「……うるせェ」

な、なるべく不機嫌そうに、不機嫌そうに。

「…え?」

「うるせぇっつったんだ。話しかけんな、モヤシ」

「なっ…!? 人が心配してんのにその良い方はないでしょ…!?」

「誰が心配しろって言った」

おお、良い調子だぞ、私!
アレンの反応を見ても、ちゃんと私を完全に神田だと思ってくれているようだし。
まあ、外見は立派に神田だし、当たり前か。
よ、よし! 今のうち、ボロが出ないうちにここから去ろう。

私はこちらに向かって何か言おうとしてくるアレンが言葉を発するよりも早く

「いくぞ、

そう言って神田(外見私)の手を引っ張って歩き出した。
神田も私の意図を察したのか、黙ってついてきている。

後はこのままここからスムーズに逃げ切れれば…。

「な。ちょっ…!? 待ってください…! !」

わああ、そ、そこで私?
今度は私に話し掛けるの!?

「な、何だ」

神田は呼んでませんよ

判ってるよ!
でも今の私はある意味、神田であって、でもあるんだよ!(混乱)
隣にいる本物の神田の方はというと、何を考えているのかわからないけど質問に答える気はないらしい。
てことは、やっぱり私が答えるしかないのか…。
もう色々おかしいけど、ここは有無を言わせない迫力でなんとかカバーするしかない。

「……何か用かって聞いてんだ」

「だから、神田じゃないって…。……?」

「………おい」

「……………。なんでも、ありません」

どうやら私(神田)に反応が無いので諦めたらしい。

通り過ぎる私の視界の端ではアレンがこちらを見ている…というか睨んでいるな、アレは。
お、怒ってる…? こう…黒いオーラが見える…ような。
って、なんかこれ事情が知らない人からみたら仲間外れにしてるみたいだな、おい。
私が実際やられたら淋しい気持ちになるよこれ。


うーん、外見だけみれば、昼メロ的な展開に見えなくもないんだけどなぁ。
実際はそんな色気のある場面でもないってとこが哀しくもあり、とても私らしくもあり。


うう、なんか、ごめんアレン!
元の体に戻ったら謝り倒すから…!
みたらし団子も好きなだけ…はちょっと無理だけど。誠意だけは一人前のつもりです。
だから、どうか今だけは勘弁して!













そんな謎の修羅場をなんとか越えて、やっと目的の場所についた私は。

「………………」

一直線に入った部屋の扉を、バタン、と閉めて一呼吸してから。


「ああああああ、焦ったぁぁぁ………!!!!」


そのままズルズルと扉を背にして座り込んだ。
ああ本当、一世一代の演技でしたよ…!
自分で言うのもなんだけど、オスカーもんですよ!?

「ったく言った端からあれか」

そんな私の様子を見て、苦々しい顔で神田が文句を言ってきた。

「だけどさぁ。まさか、あんな場所で速攻知り合いに会うとは思わなくて。てか、神田も神田だよ!」

「何がだ」

「さっきのアレンに対して。無視は無いだろ、無視は!」

「面倒くせぇ。モヤシにはあれで充分だろ」

うん。まあそういうと思ってたけどさ。本当に仲悪いな、もう。
せめて一言くらい普通に返してくれれば、その場もうまく切り抜けられたのに…。

「で、ここは誰の部屋だ」

「ん? 私の部屋。だって、神田の部屋知らないし」

そう説明すると不満気ながらもしぶしぶ納得してくれたらしい。
辺りを見回すと、所在なさげにその辺りに腕を組んで立っている。


まあ、とりあえず自分の部屋についたことだし。
やっと一息つけるってもんですよ。

「……で、お前はさっきから何してやがんだ」

「何って。神田の髪をみつあみにしてる

「すぐに止めろ」

「いや、大丈夫、大丈夫。流石におさげとかにはしないから、安心して」

安心出来ねぇよ

「だって、折角神田になったんだから、これくらい好きなことさせてくれたっていいじゃないか!」

「勝手に何言ってんだ、いいわけないだろうが」

「テメェあんまり良いわけの無いことばっか言ってやがると、神田の髪、リナリーとお揃いの
 ツインテールにして教団内歩きまわんぞ、コラ!?」

「真面目な顔で中途半端に俺の真似すんじゃねえよ!」

ちぇ。
しかし、待つだけって案外暇だな。


やることもないので、とりあえず、ふと目に付いた鏡まで近寄ってじっと見てみた。
鏡の向こうでは神田の顔がこちらを同じように見ている。
あー…本当に私入れ替わっちゃってるんだなぁ…。
今まではバタバタしてたから実感も薄かったけど、こうして改めてみるといろいろショックだー。


しかし、私がいつも見ている神田の表情って、大体が不機嫌そうな顔だから、
こういうただの真面目な顔って結構貴重かもしれないな。
くそう、やっぱり美形だ…。あ、睫が意外に長い。

なんて、一人で鏡とにらめっこしちゃって、周りから見たらなんか凄いナルシストみたいだな!

まあ、今この部屋にいるのは私と神田だけだし、いいか。
神田もいつも不機嫌そうな顔してないでたまにはこういう顔もすればいいのに。
にっこり笑えとは言わないからさぁ。

「…………」

ちょっと思い立って、そのまま鏡に向かって微笑んでみようかなとか思ったりしたけど、
さすがにそこまでは勇気が出ずに止めてしまった。
ほら、あんまり珍しいもの見すぎると、ショックで倒れるかもしれないし。


珍しいといえば、さっきのアレンも神田に名前で呼ばれて凄い反応返してたなぁ。
まあ気持ちは判るけど。
そんなにショックなものなのか…

あ。折角だし、ちょっとやってみようか。
そういえば、私も神田に下の名前で呼ばれたことってないし。
よし、そうと決まれば。


「…


そう私が言うと同じに、鏡の中の神田もそう呟いた。

……!!!!
だ、駄目だ…これ…!
自分でやったことなのに思わず耐え切れなくて、つい左手で顔を覆ってしまう。
本当にこれは…なんか…


面白すぎるんですけど!!!(面白いのか)


なんとなく気恥ずかしくて小さい声で言ってみたんだけど、それが逆に変にこそばゆいというか。
うおお、なんか今更になって、恥ずかしいな、コレ!!
本当、何やってんだ私!?


「今度は何やってんだ。お前は」

「あ…」

神田がここにいることすっかり忘れてた。
鏡の奥を見れば、私の姿をした神田がまた呆れたようなそれでいて複雑な顔でこっちみてるし。

「ごめん、あまりのショッキング映像にちょっと意識が遠くに

なんだそれ。つーか、テメェ、人の体で好き勝手やりやがってそれかよ」

「だって、神田が名前で呼んでくれることってまずないし?」

「…あー。まあな」

「前に、イノセンス発動出来たら名前呼んでくれるっていってたのに…」

「覚えてやるって言っただけだ。別に呼んでやるとは言ってない」

そういってフイと横を向いた。
この、天邪鬼め。
思い起こしてみれば確かにそうだけど。そうだけどさ?
お前はどこのトンチ小僧だ!

って、そうだ。名前って言えば。


「そういえば、神田って下の名前、何?」

………は?

この質問は予想外だったようで、案外間抜けな声が返って来た。

だって、周りにいる人って皆、神田としか呼ばないからあんまり気にしてなかったけど。
というか、今更すぎて聞くタイミングがなかったんだけど。
考えてみればこれから神田の真似をするのに、自分のフルネーム知らないのも変だ。

「あ、先に言っておくと、私の名前はです」

「なんだ唐突に。んなの判ってんだよ」

「いや、一応先に名乗っておくのは礼儀かな、と。それで、えーっと、神田のファーストネーム? 教えて」

「…何でイチイチんなこと教えなくちゃならねぇんだよ」

声が一段低くなった。
え、なんで…。名前教えるだけなのに…?

「なんでって。私、これからどれくらい神田の体にいるのか判らないけど、自分のフルネーム知らないのも変だし」

うん、私にしては珍しく正論だ。
特に反対する場所もないのか、神田が珍しく言いよどんでる。
結局、良い反論が思い浮かばなかったのか、さも面倒だというように舌打ちした後、諦めたように口を開いた。

「……ユ…」

と思ったら止まった。
なんだ、なんだそんなに言うのが嫌なのか。
もしかして何か言いたくないほど珍しい名前なのかな。
例えば『蕎麦太郎』とか(理由:蕎麦が好きだから)

「…ユ………」

「湯葉太郎?」

誰だそいつ。てか、テメ聞く気あんのか?」

「あ。いやいや、めっちゃあるよ! ごめんつい」

あんまり言いにくそうにしてるから、ちょっと緊張をほぐしてあげようと思ったのに…。
神田はこちらをじろりと睨んだ後、ついに観念したようにポツリと言った。

「ユウ、だ。神田ユウ」

「ユウ? なんだ、普通、ってか良い名前じゃないか」

「………」

「いやあ、あんまり言い難そうにしてるから、てっきりこう…もっと面白いサプライズ的な名前なのかと

ぁあ゛? 面白い名前で堪るかよボケ

不機嫌だからなのか、いつもより余計に口が悪くなってますよ、神田さん。

「ユウ、と。よし覚えた。あ、ところでユウって漢字…」

なの? それとも平仮名? カタカナ?
そう質問しようとしたらギロッと睨まれた。
これ以上この話題には触れるなってことか、うん。
まあ、そんなに嫌がるものを無理矢理聞いてもしょうがないし、この話題はここで終わりにしよう。


しかし、なんでそんなに言うのを嫌がったんだろう。
確かに女みたいに聞こえないこともないけど、ユウって男の名前としても普通だし。
私の知らない何か別の事情でもあるのかな。
う〜ん、無理矢理考えるとすれば…。

神田ユウ。てことは、英国風に言えば、ユウ=カンダ?
ユウカンダ。勇敢だ。
勇敢だなんて、そんな熱血な名前俺のキャラじゃねぇんだよ、的な?

「…ふ」

あ、自分の想像のあまりのくだらなさについ吹き出してしまった。
自分で言っといてなんだけど、苦しい洒落だな、おい!
いや、いけない、いけない。この流れで笑ったら神田に別の誤解をされかねな…

ガタン


音がしたほうを見れば、ゆらりと神田が立ち上がったところで。
あー…!
しまった、もう手遅れ!?


覚悟はいいか…?

神田はそう言うや否や、ベッドに立て掛けるようにしてあった黒い刀を素早く手にした。
え? いや、ちょっと…!!?

「ご、ごめん! 私が悪かった! ってちょっと待って、神田、六幻は反則だって!」

大体、今私の体で六幻とかちゃんと使えんのか?
って、いや良く考えなくてもアレ普通に刀だから。
イノセンスとか発動できなくても、斬られれば当然痛いから!

「て、いま斬ったら体は神田なんだし! 後で神田が大変なんじゃ…!?」

「心配するな。俺の体はちょっとやそっとじゃ死なねぇように出来てんだよ…!」

でも痛いもんは痛いでしょうがー!?

うわあ、目が本気だ!
逃げながら視界の端に金色の光を発見して、慌ててそちらに向かって助けを求める。

「あ! ティムキャンピー! 助けて…って、無視!?

私の声を無視して、そのままスィーーと窓から出て行ってしまった。
は、薄情な…。
いや、今は私の体が神田だからきっとティムキャンピーも混乱したんだな。
うんそういうことにしておこう。
あんなあっさり見捨てられたんだとしたら哀しすぎる。

ビュッ!!

……って、うわあ!?

ほ、本当に掛かってきたーー!!?

目の前を斬られた前髪が数本舞うのが見える。
あ、神田の体だから心なしか動きが早い、気がするな。
おかげでなんとか紙一重で避けられたけど。
まあ、ちょっと焦ったけどさすがに神田も本気では無…

チッ…

殺る気満々!?

じょ、冗談じゃないって!

慌てて神田の手から何とか六幻を奪った。
普段の私だったら神田を押さえ込むなんて絶対に無理だろうけど、
やっぱり自分の体じゃない分神田もうまく動けないらしい。
そのうえ、神田が使ってるのって私の体だからね。

よ、良かった。私、日頃から運動不足で…!
いや、良かったのか、それは…?

「くそっ…テメ…ぶっ殺す!!」

「はい、そこ、人の顔で殺すとか物騒なこと言わない!」

ほとんど私の下敷きになってしまっている神田の顔を見ると、大分悔しそうな表情をしている。
って、その顔が自分なのはちょっと…どころか大分複雑だけど。
自分と取っ組み合いをするってのもなかなかできる経験じゃないし。

あ、今って珍しく神田に腕力で勝ててるんじゃないか、私!?
当たり前だけどちょっと優越感。
これが、あれだな。他人の褌で相撲をとるってやつだな。

「…ったく、もう。大人しく観念…」

まあ、今のは誤解を受けるようなことした私も悪かったけどさぁ…




バタン!!


「っ大丈夫ですか!? ! 今すごい物音…が………」

突然扉が開く音が大きく聞こえて、私達は思わずドアの方向を見た。
そこにいたのは、何故か勢い良く部屋に入ろうとしたらしいアレン。
驚いた様子で目を大きく見開いて部屋の中を見ている。
あ、固まってる。

「ア」

レン…?
思わず口から出そうになった言葉を辛うじて途中で飲み込む。
あ、危なかった…。
また間違えて呼んじゃうところだった…!!

そんな私の葛藤にも気付かない様子のアレンはさっきから固まったままだったけど。

な、なななななな…っ!?

突然、奇怪な言葉を発し始めた。
おおお? 真っ赤になったり青ざめたり白くなったりと忙しい。
そのまま一度、大きく深呼吸。
あまりの突然の出来事に私達も動けない。

「…な、何だ?」



何、してるんですか…? 神田…

やっと、硬直がとれたらしいアレンは、こちらに向かって静かにそう問いかけてきた。
え? てか、何、その無駄な落ち着きは。
その穏やかさが逆に…怖い…怖いよ!?

アレンが神田って呼んだってことは…今話しかけられてるのってつまり私、だよね。
えーっと、何してるのかってーと…

改めて今の自分達の状況を確認してみる。


まず、部屋に備え付けのベッドの上に神田(外見私)がいて。
それを押さえつけるように上に乗っている私(外見神田)。
極め付けに、辺りは何か争ったように物が散乱している。


ああ、うん。
これ何も知らない人が見たら、
どう言い訳しても『嫌がる女の子を無理矢理押し倒した青年の図』だよね。


って、いや、ちょっと待って!?


「ちょ。これ、これには深い事情が…」

「じ、事情ってなんですか、事情ってー!!?」

「…うわっ!?」

「いいから、からどいてください…! てか、退け

ツカツカこちらに向かって歩いてきたと思ったらもの凄い力でベリっと引き剥がされた。
あーなんか混乱しているなアレンも!
いつもと口調が違うよ、口調が!?

いや、言ってくれている内容は私のことを気遣って言ってくれてるわけだから、凄く嬉しいんだけど!
本来なら感動もんなんだけどね!?

全部勘違いだから、それ!


「いや、さっきから何か誤解して

「ティムキャンピーが急かすから、何かあったのかと思って来てみれば…」

おーい、ちょっとは私の話も聞いてくれ。

確かに見てみるとティムキャンピーがアレンの周りを飛んでいる。
ティムが急かした…って。
そうか、さっきのあれは無視したんじゃなくて、助けを呼びにいってくれたのか…
まあ、だとしても、今の私、余計窮地に追い込まれているような気がするんですが。

見損ないましたよ、神田! まさか、嫌がる女性に無理矢理そういうことするなんて…!!

だから、人の話聞いてる!?

大体、そういうことって何だ。
どんな誤解してんだ、アレンの耳年増ー!!
ああ、駄目だ、完全に頭に血が上っちゃってるよ。

しかし、いったいこれ、どうやって誤解を解けば…


……さっきから黙って聞いてれば、好き勝手にいいたいこと言いやがって

「……?」

か、神田…?
後ろを見れば…あー…
さっきから奇跡的に大人しくしていた神田が…ついに切れた。

「上等だ。なんなら今ここで決着つけてやってもいいんだぜ? モヤシ」

「……え? ええ? …も、モヤ…?」

うわあ、私の姿でモヤシとか呼んじゃってるし!?
アレンさすがにショック受けてるじゃないか!!
なんか面白い顔になってるし!?

「ちょーっとまった! ちょっと落ち着こう、神田!」

「邪魔するな。お前も斬られたいのか」

…? 神田…!? あれ? な、何が…どうなって…!?」


あああ、もう。
なんだこの、訳判らん空間は…!!

さっきまで凄い勢いで暴走していたアレンも、今度はポカンとした顔で私と神田の顔を交互に見つめてる。
これはもう、さすがに誤魔化すのも限界だ。
こうなっちゃったら、全部話すしか…ないかな、これは。

もう、だから最初から話しちゃえばこんなややこしいことには…!










「入れ替わり…?」

結局すべてを説明した後、アレンはやはり何処か信じがたいようで、また交互に私と神田を見つめていた。
最初のコムイさんと同じ反応だ。
判る、判るよ。うん、まあ、すぐには信じられないよね。
こうなったら、奥の手。

「ちなみに、こうなっちゃった一部始終はティムキャンピーに収録されてますんで。なんだったら見てもいいけど」

「収録って」

その辺を漂っていたティムキャンピーを掴んで渡すと、アレンが複雑そうな顔をした。
うん、よくよく考えてみれば、元はといえばティムキャンピーが原因でこうなったんだけどね。
なんていったら、アレンが落ち込むからそれは黙っておこう。

「やっぱり、信じられない…?」

「信じるって言うか。えーと。まあ…突然だったから、ビックリして…」

まあね。
実際、当事者の私達も最初は信じられなかった。
てか信じたくなかったし。

「あ。いや…でも。うん、信じますよ」

ちょっと考え込む風なアレンだったけど、私の問いに案外早く答えてくれた。
あれ? 納得するのが意外に早いな。

「第一、神田が僕に向かってこんなに穏やかに話しかけている時点でおかしいですし」

「まあ、そりゃそうだ」

「でしょ? てか、ほら。みてくださいよ。さっきから鳥肌が凄くて…

「あー…いや。何もそこまで」

こちらを苦笑するように見るアレン。
ははは。まあね、今の私、外見だけみれば神田だし。
普通に話すのも何か変な感じがするんだろうな。

なんかな、この光景も周りからみたら異様な光景なんだろうか。
恐怖、穏やかに話し合うアレンと神田。

「しかし、、辛かったでしょう。よりによって神田なんかと」

「余程決着を着けたいらしいな、モヤシ」

「あれ、そう聞こえましたか? まあ、決着をつけたいのは僕も同じですが…でも、今その体はのですから。
 神田もあんまり無茶はしないでくださいよ」

「チッ…元の体に戻ったら覚えておけ」

「…まあ、そうですね。元に戻ったら」

神田の方に向かっていつもどおりに言い返す顔も、何処となしかやり辛そうだ。
まあねぇ。あっちはあっちで中身は神田っていっても今は私の顔だしね。
アレンも私に対してはつっこみ慣れはしてるだろうけど、喧嘩ってのはまずないし。

「しかし、いつまでこうしてればいいんだろうなぁ」

「う〜ん。コムイさんを信じて待つしかない、のかなぁ。やっぱり」

ベッドに身を投げながらそう思わず愚痴ると、アレンが苦笑しながら答えてくれた。
まあね、それしかないよなぁ。









その後、やれることも無くなった私達はお互いちょっとだけ仮眠をとろうということになり、
私はひとまず神田の部屋…は神田に嫌がられたので適当な空き部屋に行くことにした。


このままじゃ、神田なんて完徹だしね。まあ、本人は慣れてる感じだったけど。
最初は私の部屋で雑魚寝でいいんじゃない? と提案したんだけど、アレンと神田に猛反対されて…。
なんでさ。別になにがあるってわけじゃあるまいし。
あー、正直、面倒くせェ。
と、いけない。なんか、演技じゃなくて本気で神田が移ってきてないか、私。

「…お〜〜〜〜い! ユウーー!」

しかしちょっとまずったかな。
神田に聞いた話だと、案外近くに大丈夫な部屋があるだったみたいだったから、
案内はいらないと断ったんだけど。

「ユウってば! おおーい…!? あれ? 聞こえてない?」

ま、いいか、わからなくなったら、他の人捕まえよう。
そして脅そう。

「無視ってさすがに酷くない?」

うおぉ!?

突然、ひょいと顔を覗かれて、つい大声で叫んでしまった。
び、びっくりした…!
そうか、さっきから誰かの声がすると思ったら、呼ばれてたの神田だったのか…。(遅)

慌てて声のする方をみると、そこにはいたのは見たことの無い人だった。
明るい赤に近いオレンジ色の髪に、派手目のバンダナを巻いた青年。
バンダナのせいで一見見落としがちだけど、よく見ると右目に眼帯をしている。
驚いたのは相手も同じだったようで、その見えている左目を見開いてこちらを見ていた。

えーと、ど、どちら様…?

「あー…ビビったー。けど、ユウの驚いた顔なんて始めてみるさー」

ははは、めっずらしー、とこちらを見て笑った。
この反応を見ると、神田の知り合い…なのかな。
神田のことユウって名前で呼んでるし。

「ま、改めて、おひさしー。しっかし、何さ? こんな時間にふらふらと。もしかしてユウも任務明けとか?」

黒い団服。ってことはエクソシストかな?
しかし、神田にまともな友達がいることだけでも驚きなのに(何気に失礼)
それがこんな明るい人だとは…悪いけど凄く意外だ。

「オレもさぁ、さっき帰って来たばっかだってのに、またすぐに任務なんだと。コムイも人使い荒いったらないよなー」

「あ、ああ…」

ところで、あなた誰ですか?

なんてここで聞くわけにもいかないので、無難に相槌を打つしかないんだな、これが。
ああ、相手の名前もわからないのに会話するって結構緊張する…。

相手はといえば、こちらが言葉を挟む隙もなく話しかけてたと思ったら、突然黙った。
なんだろう。今度はこちらをじっと見ている…?
目を細めて…何か探っているような。
な、何…?

「…なーんか、気のせいかもだけどさ。今日のユウ、いつもと雰囲気違くね?」

!!?
うわあ、この人、意外に鋭い!?
や、ヤバイ、呆けている場合じゃない。神田語、神田語…!
キッと睨む目つきも忘れずに。

「うるせェ、疲れてんだ。ごちゃごちゃ言ってると刻むぞ」

おー、相変わらず怖ぇぇー…!

嘘嘘、今のナシ! 怯えながらそう言う顔は、それでも何処か安心したような表情だ。
よ、よかった、ひとまずセーフ?

けど、この人、神田に罵倒されて安心するなんて………
もしかして、Mなのかな。

「でさ、さっき談話室で面白い話聞いたんだけど。最近、オレが任務で出かけてる間に新しいエクソシストが入ったんだって?」

「………」

最近入ったエクソシスト?
それって、もしかして私のことかな?

「しかも同じような時期にふたりもって聞いたさ。珍しいよなー。なんでも片方は呪われてるって話だけど。それってマジ?」

「呪われ…って、ああ。ア…モヤシ、のことか?」

『モヤシ』…? あれ、そんな名前だったっけ」

あれ? も、もしかしてまずかった…?
今度はアレンのことを間違えないようにちゃんと呼んだのに、今回はそれが仇になったみたいだ。
む、難しいな!

しかし、ここはアレンの名誉のためにもちゃんと否定しておかないと。
このままだと、この眼帯の人の中でアレンのフルネームが『モヤシ・ウォーカー』になってしまう。
なんかどうでも良いけど、モヤシが凄く歩き出しそうな名前だな、それ。(本当にどうでもいい)

「違げぇよ。そう呼んでるだけだ」

「ふぅん。あだ名ってヤツ? しかしそれにしても何で『モヤシ』?」

なるべく不自然じゃないように返すと、今度はそう不思議そうに聞いてきた。
な、なんでって。
そんな、神田がアレンをモヤシって呼ぶ理由なんて私も知らないよ!?
てか、聞いたこともないよ!
と、とりあえず思いついたことを言おう。

「あー…し、白いから?

自分で言っておいてなんだけど、もし本当にそうだとしたらあんまりだ。

「うっわ、適当さ…。自分でつけたんじゃないんかい。てか、白いってそいつ、色白とかなん?」

しかし、なんでこの人、さっきから妙にこの話題に食いついてくるんだろう…。

あー、これ以上は私も話題が苦しくなってきた!
そろそろ切り上げて欲しいという気持ちを込めてジロリと睨むと、
私の意図を察してくれたらしい。

「な、何さ? んな睨むなって!」

そう言って肩を竦めて諦めた表情をした。

「あ、オレもう行かんと。じゃあなー。お土産、期待して待ってるさー!」

「………さっさと行け」

ごめんなさい、これ、ちょっと本心。
その人は、そう私が半ば本気で言った言葉を聞くと、
苦笑しながら後ろ向きで手を振って行ってしまった。

よ、良かった。
途中ハンパなく怪しかったけど、ひとまずバレはしなかった…と思う。

しかし、明るい人だったなー、仲良くなれたら楽しそうだ。
誰なのかそのうち神田に聞いてみようっと。













それから、数時間後。
結局時間が経っても事態は変わらなかった。
まあ、そううまくはいかないか。
腹が減っては戦は出来ぬ、ということで、とりあえず食堂へ。


「グラタンとポテトとドライカレーとマーボー豆腐とビーフシチューとミートパイとカルパッチョとナシゴレンと
 チキンにポテトサラダとスコーンとクッパにトムヤンクンとライス、あとデザートにマンゴープリンと
 カスタードプリン、みたらし団子30本お願いします。あ、全部量多めで」

「相変わらず良く食べるわね…」

アレンのいつも通りの注文を聞いた後にジェリーさんが感心したように言う。
いつも思うけど、アレンの注文って量も凄いけどあれを一気に言えるのも結構凄いと思うんだ。
もうほとんど早口言葉だよね。
注文を聞き終わったジェリーさんは、次に私の方をちょっと驚いた様子で見た。

「あら、神田。こんな時間に珍しいわね。いつものでいいかしらぁ〜?」

「オムライス」

……は?

オムライス、だ

念を押すように再度言っても、目の前の光景を信じられないのか、ジェリーさんに真顔で聞き返された。
大丈夫です、聞き間違いじゃないですよ…?
半ばそうかなと思っていたとはいえ、ううん、予想通りの反応。

ジェリーさんは戸惑っているようだったけど、私の横に見える人影を見てやっと納得したように言った。

「あらん、もしかして、それってちゃんの分なのね? 私ったら、ビックリしちゃったわ〜!」

あ、そうくるか。
結局、その後に神田が仏頂面で蕎麦を頼んだので、ジェリーさんの誤解は益々深まることになった。

「お互いの注文をしあうなんて、2人ともいつの間にそんなに仲良くなったのかしら! 妬けちゃうわ〜」

ははは。
いや、それって納得の仕方おかしくないですか、ジェリーさん。
まあ、それだけ予想外な行動だってことか…。
隣を見ると、アレンと神田も複雑な表情してるし。

いいじゃないか、食べ物くらい好きな物食べたって!



そんなこんなで、どうにか席につくと…
何か辺りが騒がしい…ような…。

周りを見ると、私達の様子が珍しいのか食堂中にいる人々の注目の的になってしまっていた。
まあ、神田が誰かと一緒に食事とっているだけでも珍しいのに、その相手がアレンと私じゃあね。

興味深々でこちらを見ているだけの人とかは、まあ直接害がないからいいんだけど。
中にはあからさまにこちらを見ながらヒソヒソ話している人もいて、大分落ち着かない。
うーん、気持ちはわかるんだけどね。

…仕方ない。

私は気付かれないようにそっとため息をつくと
椅子からゆっくり立ち上がって、バン! と机に手をついた。
前に座ったアレンや神田が不思議そうな顔でこちらを見ている。

「…?」

「(…?)」

周りがシンとしたのを見計らって一言。

飯くらい黙って食えねェのか

ギロリ、と睨むと、こちらを興味深々でみていた人々が蜘蛛の子を散らすように帰っていく。
あ、凄い、想像以上の効果。

べ、便利だな、これ!
う〜ん、神田の気持ちがちょっとわかってしまった。
癖になったらどうしよう。

まあ、よかった静かになったし。
また席にストンと座ると感心したようなアレンの顔があった。

「凄いですね…。さっきの本当に神田みたいでしたよ」

「ふふふ。そうかな? まあ。伊達に今までに意味もなく神田の口真似をしてきたわけじゃないからね!」

「んなことしてたのかお前は。相当な暇人だな

暇人言うな

神田の真似だったら、まあ、こういう事態になる以前にね。
ええ、してましたよ?(※ 6話、番外編1 参照…する程でもない)

まあ、それは置いておいて、これでも神田のイメージを極力壊さないように、なるべく女っぽい口調にならないよう
気をつけているんですよ。
具体的に言えば語尾に「だわ」とか「ですわよ」とか「ごきげんよう、お姉さま」とか。
いや、元々そういう話し方してなかったから別に気をつける部分もないんだけど。

対して、神田の方はというと。

「あんまり馬鹿なこと言ってると刻むぞ」

あの、箸構えながら凄まないで下さい、神田さん。
この様子だと、なるべく、どころか、全然気にもしてないらしい。

あああ、私すっごい不機嫌キャラになってるよ…!
どうしよう。
このままじゃもし自分の体に戻れても、私、今度からクールキャラで通すしかないかもしれない。
絶対無理だけど。


「予想は出来るけど、一応、聞いとく。神田、甘いもんは…?」

「死ぬほど嫌いだ」

「ええと、じゃ、神田が死んだら困るから食後のパフェは止めとこう

「そのまんま信じんな。てか、何普通に食おうとしてやがんだ」

神田って甘いもの嫌いなのか…
美味しいのに…勿体無い。
後で、隙を見てこっそり食べにこよう。(嫌がらせか)






「あれ? 神田とか」

ん?
こっちに向かって歩いてくるのは…。

「あ、リーバーさん。お疲れ様でっす」

「…!? あ、ああ…」

リーバーさんは私の挨拶に一瞬たじろぐと、

「おい、。今、お前さん、神田なんだろ? リーバー「さん」って言うなよ」

そうこっそりと耳打ちされた。
あ、顔引きつってる。
ううん、どうも不意打ちに弱いな。気をつけないと。
私達に向き直ったリーバーさんは神田と私を交互に見てなんともいえない表情をした。

「あー…なんというか、ふたりとも、その。災難だったな…」

「ははは。すみません、折角忠告してくれたのに」

そうだ。
ちょっと前に忠告受けたのにまんまとこんなことになってるんだった。
私ってば、どこまでお約束を大事にする人間なんだろうか。

「まあ、俺たちも頑張ってるから、もうちょっとの辛抱だ。頑張れよ、

そのまま、まるで子供をあやすみたいにぽんぽんと手を私の頭の上にのせた。
うう、優しい。
感動的…なんだけど。

……おい、手どけろ

「リーバーさん、私こっちです」

あ、神田怒ってるな、あれ。
まあ、普段そういうことってまずされないだろうしね。
とりあえずここに六幻が無くてよかった。
そういえば、今この中で一番背が低いのって神田なんだなぁ。

「あ? ああ、悪い! 神田!」

慌てて手を引っ込めたリーバーさんだったけど。
この気まずい空気をどうしてくれますか、これ。
あ、いや、ほんと、ややこしくてすみません。


「あーそうだ! まだ、研究の途中なんだけどな。い…一応、研究の成果でも聞きにくるか?」

あ、話そらした。


「そうですね。もしかしたら、何か別に手がかりがあるかもしれませんし」

考えてみれば、私達当事者なのにこんなぶらぶらしている場合じゃなかったんじゃないの?
って、今更だけど。
まあ、研究室から追い出された理由は、研究者全員、私達のことが、怖かったから。だというのは判っているんだけどね。

最初に入ったときに凄い皆おびえてたもんなぁ…。

まあそれは置いておいて。
リーバーさんの提案どおり、研究室でコムイさんに会ってこようかな。

それで、次回こそは、元に戻れるといいな…!(次回って何)






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◇あとがき◇

長すぎたので一旦ここできります。
ははは、決着してなくてすみません…! いや、予想以上に楽しくて!(神田さん大迷惑2)

実は前回、神田になったらやってみたいことをこっそり募集したら、なんとコメントをくださった方がいらっしゃいまして!
もう本当、嬉しかったです! ありがとうございましたーー!!
こっそりでも言ってみるもんですね!
へへへ。調子に乗ってちょっとやってみました。…が意図したことと大分違うことになっているかと…すみませんでした!

ではでは、ここまでお付き合いくださった方、ありがとうございました!


(H19.7.28)