大きな…砂時計?
最初にそれが目に入ったときにそう思った。
でも、近づくとそれは砂時計じゃなくて。
花だ…。蓮の花。
羊水が満たされたガラスの装置の中、砂の変わりに入れられているのは一輪の蓮の花。
底に沈んでいる数枚の花弁を見つめているうちに、ふと胸に浮かび上がる焦燥感。
―そうだ。
―俺は、『あの人』を見つけるために…
「!」
―STAGE12
唐突に聞こえてきた声にハッと我に返って、慌てて周囲を見回すと…
アレン、神田(だけど見た目は私)、コムイさんが揃って私をみていた。
わー視線が痛い…
って。あ、あれ?
「あ、…アレン。な、何?」
「いや、が黙ったまま動かなかったから…。突然どうしました? 流石に疲れた?」
「あー…いや、ごめん」
うん、疲れたって言えば疲れたんだけど…さっきのはなんかちょっと違う、ような。
「なんか今、私、目開けながら寝てたっぽい…?」
「器用ですね…」
やっぱり疲れてるんですよ。と苦笑したように言うアレンに笑い返す。
…なんとなく誤魔化してしまった。
いや、さっきのが何だったのか良く判らないけど、そうしたほうが良いような気がして。
しかし、何か意味ありげな夢だったなぁ。
こんな唐突に白昼夢ってなんかそろそろ限界がきてるってことかも。
一応、ちょっとは仮眠とったんだけどなぁ。
うう、早く戻りたい…。
さぞ呆れているだろうなと覚悟して目を上げると、意外に真剣な表情をした神田と目があった。
な、何?
と思ってたら、目をそらされた。
だから、何!?
「さて、ちゃん、神田くん。本題に入るけどいいかな?」
コムイさんが眼鏡をおさえながら言う。
あ、真面目モード。
「はい」
「ああ」
普段のコムイさんだったら信用ならないけど(酷い)、こっちの室長なら期待感がばっちりだ。
これはもしかしたら、何かわかったのかも…?
「結論から言うと…」
「言うと?」
両手を組み合わせて祈るようにしたらアレンに微妙な顔で見られた。
うん、私もそんな神田見たくないし。(ならやるな)
「出来る限りの方法で調べてはみたんだけど。あの鏡についてはきれいさっぱり、な〜んにも判らなかったんだよね!」
「…やっぱり」
「……チッ」
まあ、世の中そんなにうまくいかないよね。
でも、じゃあ、さっきの何かありそうな顔はなんだったのかと。
フェイントか!
「ああ、そうあからさまにがっかりした顔しないでよ、皆!」
「がっかりなんて…してないですよ…」
「そうですよ。ただちょっとフェイントかよ! とか心の中で思っただけですし」
「アレンくんまで!?」
いや、まかせっきりな立場で文句なんて言えないんだけど。
期待してしまった分、ちょっと落胆が大きかったというか…!
「だってしょうがないじゃないか〜。何しろあの鏡に関してはまだ資料が少なすぎるんだからね!」
「まあ、そうですね」
「ホント、使えねぇな」
「ああ、神田、そういうこと言わない!」
ほら、コムイさんちょっと涙目になってるじゃないか。
と思ってたら次の瞬間には立ち直った。早。
流石、鋼の室長。回復力も尋常ではない。
「で、僕もちょっと考えてみたんだけど」
「?」
コムイさんは手に持ったマグカップの中身をずずっと啜ってから言った。
「もう一度、入れ替わった時の状態を再現してみるってのはどうだろう?」
司令室を出た私達は、また地下の近く(シャレではない)の例の部屋に来ていた。
そう、この入れ替わりが起こったそもそもの発端の場所。
「そう、ティムキャンピーが確か私の…って今は神田か、の頭の上にいて…」
その時起こった大体の流れはティムキャンピーでもわかるけど、細かい部分等は記憶が頼りだ。
そんなわけで、入れ替わりが起こった時の状態をなるべく再現するために、細かい指示を飛ばす私。
気分はちょっとした映画監督?
あ、ちょっと今メガフォン欲しいかも。
ほら、私って何事も形から入るタイプだから。
「はい。ちゃん、メガフォン」
「あ、ありがとうございます…って、コムイさん、これ何処から出してきたんですか…?」
「それ? 僕の愛用品」
良くわからないけど、確かにこの人、
拡声器とか異様に似合いそうだと思うのは私だけだろうか。
折角だからと口元に構えて見たけれど、そのまま鏡に映った自分の姿になぜだか哀しくなって手を下ろした。
だって、ヤル気満々の神田って見慣れないからか意外に怖いんだよ。
しかし…
「…コムイさん?」
「なんだい? ちゃん」
「本当にこんなことして何か意味あるんでしょうか…?」
「いいかい? 科学ってのは時には原点に立ち戻ることも必要なんだよ。押して駄目なら引いてみな、ってね」
「もっともらしく聞こえますけど…それって他に何も思いつかないだけなんじゃ…?」
「ハッハハハハハハハハハハ」
あ、笑って誤魔化す気だ。
まあ、他にやることも思いつかないし。
捜査に詰まったら最初に戻るってのは刑事ドラマなんかでもお約束だしね。
って、それは殺人事件の犯人か。
「大体、こんなんで治ったら苦労は…」
ないよねぇって…あ、れ!?
「何…? ちゃん、突然驚いた顔しちゃって。どうかした?」
ため息をつきながら何気なく鏡を見て、ぎょっとした。
嘘…。
もしかして、もしかする!?
だって、見覚えのある光が鏡から出てるし…!!
「皆、ちょっと逃げて…!!」
「え…?」
「逃げてって、ちゃん…? まさか…!」
私の突然の言葉に、驚くアレンとコムイさん。
そう、そのまさかですよ!
「チッ…ノロノロすんな! 早くこの場から離れろってんだよ!!」
私と同じように光に気付いた神田もアレンとコムイさんに向かって叫んだ。
だよね。これって、あのときのあれと一緒だよね?
だとしたら…!
このまま、あのときの二の舞とかなったら、今度は4人でシャッフルとか冗談じゃないよ!?
事態を察したアレンがコムイさんを半ば突き飛ばすようにして、この場から離れた。
ま、間に合った!?
そして残ったのは神田と私。
確か、あの時は神田が私をかばってくれて…。
「…!! 神田!」
アレンの声が遠くから聞こえる。
大丈夫、そう言い返そうとして、私の意識はまた光の中に吸い込まれていった。
********
「」
この呼び方は…アレン?
いや、違う、これは女の子の声、だ。
そう忘れもしない、私の親友。
(…真菜?)
「どうしたの? んなとこで、ボーッと突っ立って」
顔を見上げると、そこにいたのは望んでいた通りの姿で。
こちらを苦笑するように見る顔はとても懐かしくて、思わず涙腺が緩んだ。
(あれ? …なんだ、真菜もこっちに来てたんだ)
「こっち、って…ああ、あんた、また寝ぼけてる?」
(し、失礼な! 寝ぼけてなんて…)
そう、言い返す途中で何気なく足元を見て…言葉を失った。
アスファルトの道路?
途端に今まで静かだった辺りの喧騒が、ボリュームのつまみを上げたかのように大きくなって唐突に耳に入ってくる。
行きかう車の走行音。
何処からともなく聞こえてくるクラクション。
近くの店から流れてくる流行の音楽。
学校帰りの学生のたわいの無いおしゃべり。
それは、今は遠い、懐かしい故郷の。
「おかえり、」
************
「……ちゃん? 神田くん…。無事、かい…?」
どれくらい放心していたかはわからないけど、
コムイさんの声で我に返った。
目をそっと開けると…見えたのはこちらを心配そうに見るコムイさんの顔。
あ…れ…?
そうか。さっきのは夢か。
はは、久々に懐かしいもん見ちゃったな……って。
いや、いけない、いけない。
急いで瞬きをしてうっかり潤んでしまった目頭を必死に乾かした。
そうだ、体!
どうなっちゃったの!?
思わず近くにあった鏡に近寄って覗き込む。
後ろから焦ったようなアレンの声が飛んできた。
「そんなすぐに近寄ったらいくらなんでも危ないですよ! まったく神…」
「も、戻った…」
「「へ?」」
鏡の向こうにあるのは間違いなく、私の顔だった。
嬉しいからもう一度言っちゃうよ。
私の顔だった。
つまりの顔だった。(もういいから)
「ってことは…神田は!?」
慌てて振り向くとそこにいたのは不機嫌そうな神田。
そうだ、これだよ…!!
この不機嫌そうな顔!
「おおお! 神田ーー!!」
「んだよ。うぜぇ」
「やったね! 相変わらず不機嫌全開だね!!」
「戻って早々に喧嘩売ってんのか」
ギロリと睨む姿さえ懐かしい。
この反応、まさしくオリジナル!
周りを見れば、コムイさんもアレンも何処かほっとした様子で私達を見ている。
ってか。
「今までの私達の苦労は…!!!」
再現するなんてそんな簡単なことで直るなら、
最初からやってみればよかったんじゃんかー!!!
「なんだ、案外簡単に治っちゃったね〜」
「コムイさん、なんかちょっと残念そうなのは私の気のせいですよね…?」
「ははは、いやだなぁ、ちゃん。気のせい気のせい!」
うん、少なく見ても60%くらいは嘘だと見た。
まあいいや、戻れたんならそれはそれで!
「アレン〜〜!!」
「う、うわ…っ!? !?」
喜びのあまりアレンに飛びついた。
こういうことやれるのも自分の体に戻れたからこそ、だよね!
私の行動に驚いた様子のアレンだったけど、仕方ないなと言った感じで肩をポンポンと軽く叩き返してくれた。
「やっと戻れた…! な、長かったよ…!」
「本当、良かったです。って、? どうしたんですか? 突然考え込んで」
「いや…今思い返してみれば、一日神田体験もあれはあれで楽しかったな、と」
「懲りねぇヤツだな、お前」
「神田。元に戻る方法も判ったし、もう一回入れ替わってみない?」
「死んでも断る」
「じゃあ、アレンとか私とど
「すみません。残念ですがお断りします」
ニコニコとしかし有無を言わさぬ即答だ。
ちぇ。アレンになれれば合法的にアレンの体をセクハラし放題だったのに…(全然合法的じゃない)
結局、鏡についてはさっぱり判らずじまいだったけど、まあ、今後も研究を続けるということだった。
あ、コムイさんには保管場所に気をつけるように言っておいた。
だって、忘れてたけど、なんであんな危ないもんがあんなところに無造作に置いてあったんだ…本当!
あ、そうだ、コムイさんに聞くことがあったんだった。
私は、舌戦を繰り広げながら廊下を歩いていくアレンと神田の後姿を眺めてから、こっそりコムイさんに話しかけた。
「コムイさん、ちょっといいですか?」
「なんだい? ちゃん」
「変な夢…?」
「はい。神田の体にいる間に…」
「う〜ん、夢か。夢ってのはね。脳が寝ている間に記憶を整理しているとか…色々諸説はあるんだけど。
まだ色んな学者が研究中の分野でね」
「あー!! コムイさん、ストップ!」
「何、ちゃん、どうかした?」
「えっと。私にも判る言葉でお願いします…」
研究中の何がどうのこうの言われても、はっきり言って私にはさっぱりです。
素直にそういうと笑われた。
本当、すんません。
「とまあ、難しい説明は省くとして。さっきの2人の現象からすると、入れ替わったっていっても精神だけで
体は神田くんだから、きっと神田くんの記憶の断片なんだろうね」
「記憶の…」
「気になる?」
「う〜ん。気になるっていうか…なんか覗き見みたいであんまり…」
気分がよくないっていうか。
それもなんとなく、軽々しく口にしちゃいけないと思うような雰囲気の夢だったからなぁ。
私が口ごもるように言うと、コムイさんが苦笑したようにこちらを覗き込んだ。
私も同じように上を向く。
なんたって背の高さが違うから、目を合わせるにも一苦労だ。
「後ろめたい?」
「まあ…はい。それが一番近い…かな?」
「律儀だねぇ。……じゃ、逆の発想をしよう」
「逆…?」
「そう。ちゃんが見たって事は、多分、神田くんの方も何かしら見ているんじゃないかな。だから、おあいこってことで。どう?」
神田が…?
「まあ、そのうち機会があったら、神田くんに聞いてごらん。教えてくれるかは判らないけど」
「そうですね。多分教えてもらう前に斬られると思います」
「だろうね」
その後、念のため、と医療班に一通りの検査をしてもらった私は異常なしのお墨付きを貰った。
それどころか健康優良児だと感心までされた。
どうやら一安心?
医療班の人たちにお礼を言って扉を開けて。
さあ、部屋に帰ろうと廊下を歩き出した私の足は予想外の人物によって引きとめられた。
「神田…?」
「遅せェ」
「勝手に待ってて、駄目出しとはどういう了見だコラ」
あ、駄目だ、暫く神田だった後遺症で言葉遣いが。
って、神田、腕組みなんかしてへんな威圧感まで出してるし。
こんなところで不機嫌オーラ全開だしちゃって、
これじゃ、医療班の営業妨害だよ!
「って、神田、私を待ってたの?」
「そうだ」
「もしかして…愛の告白?」
「頭沸いてんのか?」
「いや、勿論、冗談だけど。いや、さっきのは流石に酷くない?」
せめて、もうちょっとこう言いよどむとか、こう少女マンガ的な反応をさあ!?
って、神田にそれは無理か。しかも相手が私じゃあね?
「少し聞きてェことがあるだけだ」
「ふむ。聞きたいこと…珍しいね?」
そもそも、神田から話しかけられること自体稀だしなぁ。
逆はよくあるけど。そして軽くあしらわれる…。
神田は、興味津々で聞く私の顔を見て、ため息をついた後、
「正直に答えろ。…お前はどこから来た?」
「え?」
って、何?
何、その突拍子も無い質問!?
「どこからって…え?」
「いいから答えろ」
「えっと………だから前に言った通り。に、日本か…」
「違うな」
ぴしゃりと言われて思わず沈黙してしまった。
いやいや、何を突然真面目になっちゃってんの…と明るく返そうとした私の言葉は喉元で引っかかって出てこない。
だって、こちらを睨む神田の顔は真剣そのものだ。
「な、なんで…?」
「何も全部嘘だって言ってるわけじゃねぇが」
「……神田?」
「けど、あれは少なくとも俺の知っている日本とは違う。知らないものばかりだった」
そんななんで見てきたみたいに…
って、『見てきた』?
もしくは本当に『見た』?
「あ…!」
「やっと気付いたか」
遅せェと小さく呟く神田。
て、それ小声で言っても意味無いから。
ちゃんと聞こえてますよ、それ。
それはともかく。そうだ、今日見た白昼夢。
もしかして、神田も同じものを見たんじゃないだろうか。
「もしかして、神田。私の体にいる間に夢…とか見た?」
「はっきりとは覚えてねぇけどな。奇妙な夢だったのは覚えてる」
やっぱり…てことは。
コムイさん、大正解?
私があの蓮の花の夢を見たように、神田も何か見たに違いない。
何を見たのかは判らないけど…。
「ちなみにちょっと聞くけど、何が…見えたの?」
「さあな。何処かはわからねえが、同年代の奴らに囲まれて。その中でお前は馬鹿みたいに笑ってたな」
「馬鹿みたいで悪かったね」
同年代のっていうと、学校かな?
私が何処から来たかなんて、実は私自身も良く判ってないけど。
改めて考えてみても別に言っちゃいけないってわけじゃない。
なんとなく。
そう、なんとなく、言う機会を逃していただけだし。
だって、今更、突然「私、実は別の世界っぽいところから来たんですよね! ハハハ!」
とか、カミングアウトするのも何か、というか大分おかしいし。
もし私が逆の立場で突然そんなこと言われたら、怪しむかそれで無くたって困るだろう。
こういうのは、やっぱりせめてそれっぽいイベントか何かしら起こってからじゃないと言い辛…
って。
何で気付かなかったんだろう、私!!
今がそのチャンスなんじゃないの!?
「あのっ……!! か
「まあ、どうでもいいけどな」
どうでもいいのかよ。
「って、人に聞いといてなんだそれ!」
折角、人が話す気になったのにその反応はないんじゃないのか!
しかも、いつの間にか自己完結したのか、そのまま帰ろうとしてるし!?
ええい、帰すもんか!!
「…っ! んだよ、離せ!」
「離さないよ! そっちから話振っといて突然帰るってどういうことだっての!」
「んなの俺の勝手だ! お前が何処から来たやつだろうが、俺にとっちゃどうでもいいことだった」
「じゃ、なんでさっき聞いたんだよ!」
「……さあな」
「いや、さあなって全然答えになってないから、それ!」
神田さん、さっきからなんかやっていることがめちゃくちゃですよ!?
今だって、コートの裾を引っ張る私を嫌がりながらもそのままにさせている。
いつもだったら容赦なく振り払うのに…?
…!
あ、もしかして。
「私も言わないから」
「ぁあ゛?」
「神田の夢。見たことは誰にも言わないから。……極力」
「何だ最後のつけたしは」
「チッチッチ。この世に絶対なんて言葉はないんですよ、神田君」
「誰の真似だか知らねぇが、無性に腹が立つからソレ止めろ」
だって、それが気になってたんでしょう? そう私が言うと、肯定こそしないものの、否定もしなかった。
やっぱりね。
私の方はそんなに気にしてないけども、やっぱりあの夢は神田にとっては何か特別なものだったんだ。
…まあ、あれか、お互い今日は色々あったしね。
あれが何だったのか、気にならないわけじゃないけど、今は聞かないでいよう。
そのうち…必要なら自分から話してくれる…かな。
そのまま神田の背中を見送って…って。
あ。
結局、また言い損ねてるし!!!?
そのまま部屋に戻った私は、しかし部屋に入る前に自分の部屋の前に待っている人影を見つけた。
あれは…アレン?
廊下にもたれる様に立っていたアレンは、私が近づいたことに気がついたみたいだ。
え?
さっきの神田といい、今日の私って何か人に待ち伏せされる運気?
って、それってどんな運気だよ。
「」
「アレン」
「検査の結果はどうでした?」
「おー、全然元気! 体調は万全でした!」
そう言うと、良かったとホッとした様子のアレン。
あー心配してくれてたんだ…。あ、なんか不謹慎だけど嬉しい、かも。
でも、そのまま、じゃ、と帰りださないところを見ると何か他に用事があるのかな…?
「どうしたの? 他にも何か…もしかして、夜這い?」
「違いますよ」
何気なく聞いたら即答された。
まあ、そりゃされるか。ごめん、ちょっと言ってみたかっただけ。
さっきの神田の事といい、連続で振られ続けているという事実には気がつかないでおこう、悲しくなるから。
いや、もし冗談じゃなくてもそれならそれで大歓迎ですが。
でも違うとすると何だろう?
何か用だった?と聞いた私に何か言い辛そうに口ごもった。
「いえ、ちょっと気になったんで」
「気になって…って?」
「が…」
「私が?」
「体が戻った直後に…。ちょっと…元気ないように見えたから」
「…………え?」
そうだったかな。
思い返して思い当たることといえば…あ。
もしかして…あれかな。
白昼夢?の所為でちょっとうっかりホームシック気味になっちゃった……。
って、いっても一瞬だったし。
うん、今は、全然、大丈夫。
「あー…うん、ちょっと疲れちゃったけど、元気バリバリですよ?」
「そうですか。いえ、気のせいならいいんです。そうですよね今日はいろいろありましたしね」
すみません。とそう言って、くるりと身を返して歩き出した。
ふ、へへへ。優しいな、アレンは。そう思ったら、思わず口元が緩んでしまう。
なんか私、今無性に乙女っぽいんじゃないの、これ!?(無理がある)
とそんな突拍子もないことを考えていたら、アレンがまた戻ってきた。
?
何か忘れ物でも…
「じゃ、おやすみ、」
「…お、おやすみ」
私の頭をなでながら言うアレンの笑顔に、思わずどもってしまった。
えーっと、笑顔には笑顔なんだけど…ちょっと、こう影があるっていうか。
なんだ…?
ちょっと調子狂うな。
と、ああ、大事なこと言うの忘れてた!
「アレン!」
「何? 」
「気にかけてくれてありがとう」
そう私が声を掛けると、またさっきとは違う種類の笑顔で手をあげて自分の部屋に戻っていった。
アレン…迷子にならないといいね。(台無し)
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◇あとがき◇
ちょっと短くなってしまいましたが、これは只単に本当は中篇と後編は元々一本だったからなのでした。
というか、すみません! なんかなかなか進まなくて…スランプ中でした。
いや、スランプというか…前回で入れ替わり中にやりたいことはあらかたやってしまったので、
正直話の展開に困っ…(強制終了されました)
そんなわけで、ちょっと話の展開が微妙で…すみません。
もしかしたら、後で書き直すかも?
ではでは、ここまでお付き合いくださった方、ありがとうございました!
(H19.8.4)