おはよう、世界!
おはよう、朝の小鳥さんたち…!


朝の冷え冷えとした空気の中。
聞こえるのは、鳥の囀り、木々のざわめき。プラス、自分の荒い息遣いと規則正しい足音。
なんて凄く余裕みたいに見えるけど、いや、私、結構一杯一杯ですよ?
あー、こうやって無心に走ってると、マラソン大会思い出すなー。


そんなわけで。
早朝マラソンという、かつて無い爽やかなスタートを切ったわけですが、走りこみを始めて30分。
早くも挫折しそうです。

ぶっちゃけ、つ、疲れた……!!






―STAGE13 







だってさー。
前も言ったけど。私、元の世界でも運動部でもなんでもなかったんだって!


あ、教えてもらった道をしつこいくらい十分下調べしてから走っているので、迷子の心配とかはないです。
その辺はご心配なく。
私だってやれば出来る子なんだよ!
普段はヤル気が空回りしてるだけで。
…あ、今ちょっと自分で言ってて虚しかった…いうんじゃなかった…

と、

あれ?
何か…誰かいる…?


目を凝らして見てみると、木々の間から明らかに動く何かがあるのが見えた。


人? …うん、人だよね。あれは。
こんな朝早くから…誰だろう。


近づいてみると、そこにいたのは

「神田?」

「…!?」

「って、あ、危なー!? この刀、何!」

「…ああ、お前か」

はい、私ですよ。
まあ私が外にいることって滅多に無いしね。驚くのも判るよ。
それでも、声をかけたこと自体にはあんまり驚いてないようなところを見ると、
誰かが近づいてきたのは察していたらしい。
ううん、さすがサムライ。

しかし、まあ…手に持っている刀を見るからに鍛錬中というのはわかるんだけど…

「何、目隠しなんてしちゃって。もしかして、そういう趣味とか?

お前ホント駄目だな

「いやあ、朝の挨拶代わりのホンの冗談だって。おはよう、神田」

「全然挨拶関係ねぇよ。お前、こんなところまで何しにきやがったんだ」

まあ…! 奥さん、今のお聞きになりました!?(奥さんって誰)
なんだ今の悪意に満ちた挨拶は!
折角、天気の良い朝なんだからさぁ。
もっとこうさわやかに…といかないまでも普通に挨拶してくれてもよくない?

しかし、さわやかに挨拶してくれる神田ってどんなだろう。
ちょっとシミュレートしてみよう。


―― 朝に出会った神田がさわやかな笑顔で
『おはよう、さん!』(バックには謎のキラキラする浮遊物)


…いや、ちょっと…てか、
かなり怖い。


「なんだ。そんな顔してもうバテたのか」

「…うん。…そういうことにしておいて」

「……?」

いぶかしげに見る神田だけど、さっきの一言を考えるに私が今何をやっているかは大体察しているらしい。

「走ってんのか」

「まあ、体力作りくらいは、ね。たとえそれがまったく意味がなかったとしても

「意味が無いとか自分で言うな」

だって、こうして走っていてもアレンみたいに格好良くイノセンスを操って活躍する自分なんて想像つかないし。
ため息をつきながら何気なく神田の刀を見て、ふと思いついた。
そういえば、あれ。駄目元で頼んでみようかな…?

「神田…あの、お願いがあるんだけど…剣の使い方とか教え

断る

って早いよ! まだ全部言ってないのに断られた!?

なんでだよー。
せめてちょっとだけでも、考えるポーズぐらいはとろうぜー。

「面倒くせぇ。モヤシにでも習えばいいだろ」

「う〜ん、アレンの武器って特に刀ってわけじゃないみたいだし」

使えるようなことは言ってたけど…
アレンにはもう結構色々お世話になっちゃってるしなぁ。
それに、ああ見えて、アレン結構スパルタ…とは言わないか、あれは。
うん、ちょっと厳しい特殊な環境で育っちゃっただけなんだ…きっと。

とにかく、あの基礎トレの流れでいくと素振り1000本とか平気で言い出しかねない。
どこのスポコン漫画だよ。

「てか、せめて練習方法教えてくれるだけでもいいから、宜しくお願いします!」

前に言ったとおり、私ひとりじゃ一体何したらいいいのかもさっぱりだし。神田が頼りなんだよ!
パンと手を合わせてそう頼み込むとため息をつかれた。
や、やっぱ駄目?

「つーか、お前、練習って言っても刀も持ってねぇだろ」

「あー…うん、練習したくても…」

私のイノセンス…運よく剣が出てくるとは限らないし…
って、改めて言うと切ないな、これ。
剣の練習しようとして、もしまたお玉とか出てきた日には一気にテンションもガタ落ちだよ。

「ああ…」

私の言いたいことを察したのか神田も黙った。
本当、こんなドラえもん体質ですみません。しかも微妙に映画版。
なぜって、肝心な時に使用不能だから。

神田は相変わらずの舌打ちの後、ゆっくりと自分のコートが掛けてある木の近くに行くと、
そこに立て掛けてあった古い木の棒らしきものを掴んで。
そしてそのままこちらに投げて寄越した。って、危な…!?

「…おぅわっと! …木刀?」

「貸してやる」

思わず手に持たされた木刀と神田の顔を見比べてしまった。
貸してやるって…

「これで…なにをしろと?」

まさか…
これを使って何か一発芸をやれとか…

と思った瞬間にビュッ!と風を斬る音が耳元で聞こえた。

馬鹿なこと言いやがったら、ブッた切るぞ

「言ってない! 何も言ってないよ、まだ!? だから、この刀早く下ろして!」

「『まだ』って、いう気満々だっただろうが」

私の不穏な空気を事前に察したのか、神田に釘を刺された。
目の前に迫る刀の光が本当怖いよ、これ!

ああ、そういえば思い出したけど、ここに初めて来たときもこんなんだったな…!
って、思わず遠い目をしている場合じゃなかったんだった。
私の必死のお願いが通じたのか、なんとか刀を下ろして貰えた。
やっと一安心。

「…し…死ぬかと思った…」

「チッ…」

「(『チッ』ってあんた…)」

なんだ、さっきの「惜しかった」みたいな舌打ちは。
なんて口に出して言おうもんなら、またカンバックトゥ六幻は間違い無いので言わないでおく。

いや、それよりも。これだよ、これ。
私は受け取った木刀を両手で指し示して素直に聞いてみることにした。

「で…これ…何?」

「見りゃわかんだろ。木の刀だ

いや、そういうマジボケは要らないから。そうじゃなくて…これ、貸してくれるって…?」

いや、流石に意味は判ってますよ、勿論。
これで練習しろって意味だって。
でもその真意がわからない。だって、神田が私に対してこんなに親切にしてくれるなんて…
…って私、いつからこんなにヒネた考え方をする様になっちゃったんだろう。
くそう、こんな私に誰がした。私か。


神田は私を鬱陶しそうに見た後、

「どんなロクでもない腕でも毎日素振りでもしてりゃあ、ちっとはマシになんだろ」

そう面倒くさそうに答えた。
ていうか、うん、まあ実際面倒くさいんだよね。

でも…面倒でも…結局、面倒みてくれるんだ。
さっすが、神田。あんなに連れない態度をとっておきながらツボはばっちり抑えているね!
あ、いけない。真面目な顔しようとしてるのに、なんか勝手に顔が笑いそう。

「ふ、へへへへ」

「おい、気味悪りぃ笑い方すんな」

「いや、ごめんごめん。『これがツンデレか…!』…とか思ったら、つい感動しちゃって」

意味わかんねぇよ

だろうね。
いや、判ってもなんか嫌だけど。

「一緒の任務で足を引っ張られんのも、もうご免だしな」

「相変わらず一言多いよ」

ていうか、多分それが本音なんだろうとは思うけどね…!
まー貸してくれるってんなら、有難く受け取っておきましょう。

やった! これ、RPG風に言うなら
「木刀を手に入れた!」
ってところか?

有難うと感謝を伝えると、やはりというか当然だというか、皮肉が返って来た。


「まあ、死なないように精々鍛えておくんだな」

神田こそ、そのキューティクルを死守するために精々トリートメントしておけよ!」(良い笑顔で)




そうして、私の早朝マラソンは全力疾走の鬼ごっこで再び幕を開けた。




 、今日もぎりぎりラインで生きています。












「帰ってこない? アレンが?」

昼過ぎに司令室の前を通りかかると、難しい顔をしたリナリーに会った。
何か悩み事かと思って聞いてみれば…アレンが朝、出かけたきり帰ってこないらしい。
あれ? そういえば、アレン、今日の午後に用事があるとかって言ってなかったっけ?

「うん、ちょっと遠くの街まで買出しを頼んだんだけど」

なんでそんな自殺行為を…?

方向音痴のアレンを一人で慣れない街に買い物に行かせるなんて、
さあ、存分に迷子になってくださいといわんばかりじゃないか。
…この際、自分のことは棚に上げておこう。

「ティムキャンピーがいれば大丈夫だと思ったの。ほら、アレンくんって
 いつも任務中はそんなに迷子になるなんてことはないでしょう?」

「あーそういえば、そうだね」

アレンが迷っているときって基本的に一人で探索しているときだしね。私と同じく。

これって、もしかして、寄生型だからとか…?
と、以前コムイさんに遅刻した言い訳っぽく言ったら爽やかに否定されたっけ。
あの時は、自分の方向感覚の無さをイノセンスの所為にしてごめんなさい。

って…

「てことは…まさか…」

「そう。その、まさか、なのよ」

あ、嫌な予感がする。
しかも大抵こういうときの嫌な予感って当たるんだよね。
そして、片手で額を押さえるようにして、もう一方の手でリナリーが差し出したものは。

「ティムキャンピー…」

リナリーの手から離れて数回旋回した後に、私の頭に乗ってきたティムキャンピー。

あーアレン、
置いてっちゃったんだ…。
いつもはアレンにべったりとくっついて飛んでいるティムだけど、たまに単独行動をしている場合もある。
そう、この前の事件の時のように。あ、思い出したらちょっと泣けてきた。
戻れた今だからこそ笑い話だけど、大変だったなぁ…。

そういえばこの前もアレンにティムの反抗期について相談されたような。
苦労してんだな、アレン。

もティムがいれば迷子になる心配も無いし。悪いんだけど、アレンくんのお迎え頼まれてくれないかな?」

「うん、いいけど。あれ? リナリーは?」

「私? えーっと、私は」

そういえば、ここに来てから女の子同士の買い物とか暫くないし。
折角だし、一緒に行こうよー。
と誘おうとした私の声は、しかし、横から飛んできた別の声でかき消された。

行かないでーーーー!!!
コムイ室長を止められるのはリナリーだけなんだから…!!
オレたちを見捨てないでぇぇぇーーー!!!

わあ! な、何だ!?
こっちに凄い勢いで走ってきたのは…か、科学班の人々!?
何があったのか分からないけど、リナリーに縋る様にしたと思えば、皆泣きながら訴えている。
なんというか、ちょっと怖い。
流石のリナリーもこれには引き気味だ。

「な、なに? 何があったの…!!?」

「実は…この前、兄さんがまた夜中に何か作ってたらしくて」

「何かって…何?」

「ううん、私も何かはよく判らないんだけど」

もう出だしからすっごく不安になるね、それ

「うん…。それで、昨日、それで一騒動あったらしいの。皆すっかり怯えちゃって」

そう言って、肩をすくめるリナリー。
なんというか…コムイさんの妹って大変なんだね。
横を見ると、いつの間にか手元に何かマシンガンの様なものを持ったリーバーさんがいた。
うわあ、なんか凄い武装ですね。

「というわけだ。今はリナリーには何としてもここにいて貰わないとならない。室長を止められるのはリナリーだけだからな」

「そ、そうですね…」

…アレンのことくれぐれも頼むぞ。
また、お互い生きて会おう…!

ぐ、グッドラック…

私の言葉に応えるように慣れた手つきでマシンガン(仮)をガシャンと鳴らすリーバー班長。
あ、リーバーさん目がマジだ。

思わず雰囲気に呑まれて変な返答しちゃったけど、どこの戦場に行く気なんですか。
しかし、昨夜の科学班に一体何があったんだろう。
とても怖くて聞けないけど。

前に向き直ると苦笑しながらリナリーが言った。

「じゃあ、行き先はティムが知ってるから。何かあったら連絡してね」

「オッケー! でも、私も迷っちゃったらごめんね☆

いや、。そんな爽やかにごめんって言われても

一気に不安そうな目で見られた。
ご、ごめん。
十分ありえる事態だから、先に謝っとこうと思ったんだけど…。

「やだなぁ、リナリー。冗談だって! そんな心配そうな顔しないで。私もティムがいれば
多分大丈夫だし!」

「(本当に冗談なのかしら…)う、うん。も疲れてるとこにごめんね」

「ううん、私は全然平気! リナリーこそ…」

チラッと横目で見ると、科学班が何か大きな円陣を組んでいた。
『科学班ーー! ファイッッッッ!!』『オォォォォォーー!!』
凄い団結力だなぁ…。
しかし、何度も言うけどそのみんなの装備は一体何と戦うつもりなんだろうか。

「頑張ってね。その…
色々

「う、うん。いってらっしゃい、。宜しくね」

そういってリナリーは冷や汗をかきながら送り出してくれた。


一体これからここで何が始まるのかは判らないけど、一つだけ言えることは、
正直、私、お使い頼まれて良かったかもしれない…!
今ばかりはアレンの方向音痴に感謝しとこう。















いや、やっぱ、感謝とかしないほうがいいかもしれない。(早)


街に着いて1時間。
ティムキャンピーの案内に従って捜し歩いてみれば、既に目的の人物はその場所を去った後。
心当たりなんて、とっくに探しつくしたっての!

あー…アレン、一体何処を彷徨ってんだろう。

ちなみに今は広場らしき場所にあったベンチに座ってちょっと休憩中。
視界の斜め上でティムキャンピーが蝶を追いかけている。
さっきからボーッとなんとなく見ているけど、両者はちょうど飛ぶ速度が同じらしく、地味にいい勝負だ。

あ! … ああ!?
惜しい、あとちょっとで捕まえられそうだったのに…!
よ、よし! うまい、ティム!
こう、そこをぐるっと回り込んで…
今だ、行けー!

って、いや、今はこんなことやってる場合じゃなくて!

一体何処の競馬場のおっさんだよ!?
自分で自分に突っ込みを入れながらガタンと立ち上がると、通行人に驚かれた。
足元にいた鳩たちもビックリして一斉に飛び立つ。
す、すみません、見知らぬおじさん。と、鳩。

こんなところで油を売っている場合じゃなくて、早くアレンを探して教団に帰らないと。
いや、今は早く帰ったらまずそうだから、見つかってもちょっとゆっくりした方がいいかな…?


なんにしても、アレンを見つけないことには埒が明かないし。
まずはもう一度、この辺の人に聞いてみよう。
あの、人通りが多そうな道に露天を広げている女の人とかどうだろうか。

「すみません。人を捜しているんですが…」

「人…? どんな人だい?」

「白髪で…私と同じくらいの歳の男の子なんですが、見ませんでした?」

「…う〜ん。今日は天気が良いから人が沢山出てきてるからねぇ」

悪いけれどちょっと覚えがないよ。と、こちらをすまなそうに見ながらいう年配の女の人。
うーん、アレンの容姿って結構目を惹くから、見たらそうそう忘れたりはしないと思うんだけど…
て、ことはここは通ってないのかな…?
そのまま、お礼を言ってその場を立ち去ろうとしたけど

「そんなことより、ほら。見てっておくれよ! 掘り出し物ばかりだよ」

そういってズイッと、身を乗り出すおばさん。
あ、しまった身を引くタイミングを完全に誤った。

「ははは」

私って意外とこういう押しに弱いんだよな…!
えーっと、ここはどうやって切り抜けようか。
救いを求めて目を彷徨わせた先にふと、古い小さな銀色の金属が目に留まった。

これって、懐中時計?
へぇ。ちょっと格好いいな、これ。
でもなんか高価そう…。

「…お、それかい?」

「あ…いや、綺麗だなって…
思っただけで…

ヤバイ、このままだと確実に捕まる!?
そう思って慌てて話題を変えようと思ったら、意外にもおばさんの戸惑ったような声が聞こえた。

「あれ…? こんな売り物あったかな?」

その懐中時計を覗き込んでそうしきりに首をひねっている。
おや?

「まあ、いいや。折角だし、特別に安くしとくよ」

よく判らなくても結局売るんかい。
でも聞いてみたら本当に安かった。これなら…まあ欲しいかも。
おお、ラッキー?
今度こそお礼を言ってその場を去った。

さあてと、後は…何処に行こうかなぁ。











あの後、2、3人に聞き込みしたおかげでなんとかそれらしい情報を手に入れた私は、
この街唯一の宿へと向かっていた。
聞けば、宿のレストランでなんか凄い量を一気食いしていた男性がいたらしい。
うん、きっとそれって間違いなくアレンだ。
しかし、街まで下りてきて何やってんだアレン。


えっと、さっき聞いた話に寄れば。
宿へはこの裏道っぽいのを真っ直ぐ通っていけば近いって…


キィィィィィイ…ン


「うわっ…!?」

今、なんか変な感じが…!?
途中で何かにひっかかったような…
例えるなら水を張った膜の中に飛び込んだような…ってうまく説明できないな、これ。
とにかく何か痛いわけでも無かったけど、気持ちの悪い感覚っていうのか…

でも後ろを振り返っても特に何も無い空間だし。
念のため戻って空中を触ってみたけど、やはり何もない。
き、気のせいかな?

ひとりで首を捻っていると、思いもかけず背後から人の声がした。



「誰…?」



私に話しかけてるのかな、もしかして。
声の感じからして…女の子…
いや、ちょっと低めだし男の子かな?

振り向くと、そこにいたのは白髪の小さな少年だった。
整った顔立ちに左目の上を縦に走る赤い傷。
って、白髪に赤い傷って…

めっちゃ、アレンじゃないかーー!!!

「ああああ、アレン!? 良かった、やっと見つけたーーー!」

まったく何処に行ってたんだよ!
危うくミイラ取りがミイラだったよ!?

しかし。
アレンは喜びのあまり駆け寄った私の行動におびえるように後退した。

え、ちょ…すっごいショックなんですけど!

「あ、あれ…何で逃げる…のかな。アレンくーん?」

「…!? どうして僕の名前を…?

「…ど、どうしてって…?」

そりゃ知ってて当然だよ!
なんだ、新しいギャグ!?
って、あれ? 何か…アレンの反応がおかしい。
改めてみれば、そんなに注意深く見なくてもこっちの反応をビクビクしながら伺っているのが判る。

てか、そのあからさまにおかしい人を見るような目は何…!?

「ひ、酷い、そんな目で見なくても…!」

「あ、ご、ごめんなさい…」

私が冗談半分で言うと、慌てたような反応がかえってきた。
あれ?
本当に…何かアレンがおかしいよ!?

本当に私のことが誰なのかわかってないみたいに…。
自分の名前知ってるし、記憶喪失…ってわけでもなさそうだし…?
もし、いたずらだとしても流石にここまではやらないはずだし。

どうしたもんかと考えていたら、アレンが恐る恐るといった感じに質問してきた。

「君は…幽霊?

「ゆ、幽霊!? いやいや、私、超生きてますよ!

突然何を言い出すのかね、この子は!
絶賛生息中ですよ、私は。
こんな足のハッキリ見えてる幽霊いたら怖いから!

「あ、ごめんなさい。こっちの方からこの世のものじゃない気配がしたから」

「いや、ちょっと、そういう怖いこと言わないで!」

なんか暫く見ないうちに随分霊感少年になったんだね、アレン(違)


って、あれ?
アレンってアクマに内臓された魂以外の霊とかって見えるんだっけ?
私が知らないだけかもしれないけど、そういう話は聞いたこと無かったと思うけど…。


気のせいか…、と、そう呟くアレンを呆然と見ているうちにやっと私の頭が回転してきた。


さっきからアレンがおかしくなったって考えてたけど…
もしかして、おかしくなっているのは…私の方かもしれないよね。

考えてみれば、今目の前にいるアレンは明らかに小さい。
元々綺麗な顔をしているから可愛いという印象が強くあるけど、実は身長はそこそこあるんだよね、アレンって。
でも今の彼は並んでも、私より小さい。

それより何より、明らかに…私の知っているアレンに比べて若い、ような。

え、ちょっと待って。
いやまさか。

って事は。

よ、よーし、落ち着け、私!
まずは確認してみるんだ。
もしこの事態が私の考え通りだとしても、驚くのはそれからだ、うん。

深呼吸してアレン?に向き直る。
私の緊張が伝わったのか、少年もこちらの挙動を息を呑んで見ている。

「ごめん。ちょっと、聞いていいかな?」

「……僕?」

「うん。えっと…君…今、歳いくつ?

え…?

あ、やばい、戸惑ってる。
そりゃあ、初対面の人間に突然歳とか聞かれたらビックリするよね。
流石に怪しすぎる。

でも、私の必死の怖くないよアピールがなんとか通じたのか、
それとも逆らったらやばそうだとか思われたのか
恐る恐るながらも質問に答えてくれた。

「せ、正確にはわからないけど…多分、12…くらい?」

じゅ、じゅうに…?

「は…はい」

そうかー。12かー。
つまり、トゥエルブ、ね!(だから何だ)
いや、どこが「つまり」なのかって話だけど。

は、ははははは。



入れ替わりの次は時をかける少女かよ!

どんだけお約束をやれば気が済むんだろうか。





さて、今の状況がわかったところで。
次に大事なのは、ぶっちゃけ一体どっちが時をかけてんのかっていうところだ。

@私
Aアレン


今のところ、他の人物との接触もないし、まだよく判らないけど。
もしかしたら時とか全然関係なくて、アレンが奇怪に巻き込まれているだけかもしれないしね。
そんな感じにいろんな可能性があるけど。

でも…実はさっきからなんとなく気になってることがある。

ポケットに手を突っ込むと…
あ、あった。
ジャラという鎖の音と共に引っ張り出したのは、さっき露天で貰った懐中時計。


なんつーか。
ほら、いかにも、っていうか。
あの露天の人の様子とあわせてもよくありえそうなシチュエーションじゃない、コレ?
拾った(買ったけど)時計で時間旅行ー!

なんちゃって。
いや、私も結構突拍子も無いこと思いつくな!

なんかもう、私なんて、ほら、もう前に世界?まで飛び越えちゃった経歴があるからね!
もうその道のプロっていうの?
今更、時間移動の一回や二回、お手のもんですよ!?
…嬉しくないな、これ。


「あの…どうかした?」

私があんまりにも黙り込んでいるものだから不安になったらしいアレンが、今度はこちらに心配そうに話しかけてきた。
もう、なんつーか、その姿があんまりにも可愛いから萌…
あ、ああ。
ごめん、自分ひとりでトリップしちゃってたよ。

「いや、何でも…」





おい…! アレン!!

不意に遠くから聞こえてきたのは大人の男の人の声だった。
大声ではないのに不思議と耳に入ってくる…なんつーの? 重低音?

その人物の声が聞こえた途端、アレンが見た目に判りやすく硬直した。
うわあ、凄い冷や汗だけど、だ、大丈夫!?

「このノロマ!! 酒買いに行くだけで、一体どんだけ掛かってんだ。馬鹿弟子が!!」

声がどんどん近づいて来ている。
ギギギと音が聞こえそうなゆっくりした動作で振り向いたアレンにつられて私もそっちを向いた。

そうして、見えたのはこちらに歩いてくる男の人。
長めの赤い髪に顔の半分を隠すおかしな仮面をつけている。
あれ…黒いコートについているのは…ローズクロス?
てことは黒の教団の関係者なんだろうか。

しかし、なんか派手だな、この人…!


ってか、誰…?


そんな私の疑問は、次のアレンの言葉で見事に晴らされた。

「す、すみません…!! 師匠…!」

し、師匠?


アレンの師匠ってことは…


え。
もしかして、この人が噂の…

クロス・マリアン元帥………!!!?



「あ、なんだ、お前は?」



し、しまった。
思わず凝視していたら、気付かれたーー!!?
って、そりゃ凝視してれば誰だって気になるよ。
アレンの謝罪の言葉を綺麗にスルーした(何気に酷い)その人は、今度はこっちを訝しそうに見ている。

な、なんか怖いよ!?
蛇に睨まれた蛙ってこういう場面を言うんだろうな。


まあ、これで一つハッキリしたことがある。


つまり、正解は @私、ってことで…ファイナルアンサー?
あれ、もしかしてコレ古い…?







←前へ     戻る     次へ→

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

◇あとがき◇(本誌ネタバレ部分は反転にしてあります)

そんなわけで、体力つけるためにちょっと師匠に鍛えてもらうことにしたんですがどうですか。(極論)

実は最初から考えてあったわけですが、一つ問題がありまして。
クロス師匠の口調諸々の資料がほとんどなくて、全然判らない…
とか思ってたら、本誌で出てきたじゃないですか…!!

うわあい。やった助かったーと思ったのもつかの間、合併号って。どんだけ待てば。

ここは…もう開き直って、先に書いちゃったほうがいいかもしれないとかも思っているわけですがどうしましょう。
どうせ、何か間違った人になるのは確実だし!?



ではでは、ここまでお付き合いくださった方、ありがとうございました!


(H19.8.10)