こ。

この人が。


噂のクロス・マリアン元帥…?







―STAGE14 







「おい、アレン。お前の知り合いか?」

「いえ。僕もそこで会ったばかりで…」

私がポカンとしている前で、なにやら話している師弟。
もしかしなくても、今、話題にされてるのって私のことだよね?
なんて、私が軽く現実逃避しているうちにも
ち、近づいてきた…!?


なんだ、女って言ってもガキじゃねぇか


こちらに近づいての第一声。
うわあ、なんからしい台詞。

『師匠の女性関係のだらしなさはもう本当一級品で…』

前にアレンに聞いた言葉が頭の中でリフレインする。

しかし、それはともかくとして。
実はさっきから凄く気になっていることがあるんだけど。

今言ったら確実に話が反れるだろうな…。それどころか、ちょっと怪しまれそうだ。
ああ…でも聞きたい…!


今、クロスさんの頭に乗ってる金色の丸い物体って…

ティムキャンピーですか…?


なんか…心なしかどころか、明らかにでかいんですけど!!
判りやすく言えば、クロス元帥の頭くらいの大きさがあるんですけど。
なにそれ!?
ティム本体なの? それとも全然別の同型ってだけ!?

ここが過去だとして、成長したとか…って過去のほうが大きいのはおかしいし。
もしかして、激やせした?
それはそれで意外な過去だな。

「あ? なんだ…?」

あ。やばい、私があんまりクロスさん(の頭上)を見るもんだから気付かれたみたいだ。
不審そうな顔をしながらもどんどん近づいてくる。

「おい」

「は、はい…な、何でしょうか?」

私の目の前に立つと仮面に隠れていない方の目でじっとこちらを見てきた。
かなり身長差があるので、私は顔を上に向けて、クロスさんは少々かがまないとお互いの顔が見えない。
てか、顔! 顔、近ァ…!?

相変わらず顔をじっと見られてるしで…
居心地が悪いったらないよ…?

「お前…よく見たら、素材はいいな」

「…そ、素材!?」

「そうだな。後2、3年もしたらまた俺のところに来い。相手してやる」

そう言って、私の顔を覗き込んでニヤリと笑った。

あはははははは。
謹んで辞退させて頂きます。

いや、こんな格好良い人にそんなこと言われるのはお世辞と判っていてもすっごく光栄なんだけど!
なんですけど!
武勇伝を色々聞いてる立場としては、流石に自分の身が大切なわけで。

チラリと横に目を向けると、こっそりため息をついているアレンが見えた。
「本当にもう…女性と見るといつも見境無いんだから…」
小声で呟く声もかすかに聞こえてくる。
アレン…聞こえるよ…!
やばいよ、そんなこと師匠に聞かれたら消されるよ、師匠に!


しかし、いつもこんな調子じゃ、ため息もつきたくなるってもんだよね。
アレン、ファイト!(人事)

なんて言っている場合じゃない。
私もこのままここにいてもどうしようもないし、早々に退散しようかな…。

「はい、じゃ、いつかまた何処かでサンネンゴに…!」

シュタッと音が鳴るような精一杯の機敏な動きで片手を挙げてその場を立ち去ろうとすると、


「ちょっと待て」


すっごい良いタイミングで声を掛けられた。
だけならいいんだけど。
なんでしょう、この肩を掴んでいる手は。

ほ、捕獲されたーー!?

なななななな、なんでしょう!?

いや、自分いくらなんでもドモり過ぎだろ。
とは思ったけどやっぱり怖いものは怖いわけで。
無理矢理笑って後ろを振り返れば、そこにいたのは口元に笑みを浮かべたクロス元帥。

「そう怖がるな。取って食いはしねえよ」

「……
それはどうだか…」

「アレン。後で覚えておけ

「……!!!」

クロスさんの言葉を聞いたアレンが固まる。
容赦ないなこの人。
アレンもアレンで余計なこと言わなければいいのに…。

そんな会話の最中も私の肩に置かれた手はどかされることはなく。
えーっと、私どうすれば…?

そう困っていると、クロスさんがこちらに聞いてきた。

「お前、名前は?」

「え…えーっと、、です」

。お前、今、イノセンスを持っているな?」

「え…?」

イノセンスという言葉に、今までこちらの様子を伺っていたアレンが思わずといったように反応した。
うん、アレンが驚くのは判るよ。
言われた当人の私だってビックリだ。
だって、私のイノセンスって外から見ても判らないものだし…何で判ったんだろう?

まあ、持っているかいないかと聞かれれば、

「あー…はい。持ってますが…」

「やはりな」

「持っているっていうか、吸収してるっていうか…」

「寄生型か。うちの馬鹿弟子と一緒だな」

その言葉を聞いたアレンが隣で複雑な表情をした。
しかし、馬鹿って…酷いな。こんな可愛い子を捕まえて、馬鹿なんて!(なにか違う)
大体バカって言ったほうがバカなんだぞー。
なんて、言ったらどういう報復を受けるかわからないので心に思うだけにしておこう。

「今までの会話を聞くに、イノセンスが何かは一応判っているみたいだが…」

をおおぉ…!?

クロス師匠は何やら考え込むと、私の手を取って自分の所へ引き寄せた。
って、さっきからナチュラルにセクハラじゃないですか?
しかもそれが強引なのに全然嫌な感じがしないから凄い。さすが百戦錬磨。
あ、変なところで変な感心してしまった。

まあ、今は純粋にイノセンス見ているだけなんだろうし、それで騒ぐのもおかしな話だ。
よーし、落ち着け、私!

「使い方がなっちゃいねえな」

「…凄いですね。見るだけでわかるんですか?」

「まあ大体はな。コレくらいは当然だ。俺を誰だと思っている」

わあ、よくわからないけど、凄い自信だ。
無茶苦茶なのにおもわず納得してしまいそうになる。

「今は誰か師についているのか?」

「いえ特には。人からちょっとずつ教えてもらったりはしているんですけど、
 まだよくわかっていなくて…」

なんてったって、自分のイノセンスの使い方がわかったのもつい最近だ。
はっきり言って、一般人もいいところの新米です。

「…よし」

ひととおり尋問(?)された後、クロスさんが突然私の手を離したのでようやく開放された。
よ、良かった…流石にずっとアレは緊張が持たない…。

で、何が「よし」なんですか。

「…え…っと?」

「ついでだ。お前も鍛えてやる

「「
え…?」」

あ、ついアレンとハモッてしまった。

だって、だってさ!
クロスさんが突然突拍子も無いこと言い出すから!
鍛えるって、あれですよね。
ちょっとだけとはいえ、アレンと一緒にクロス師匠の下で修行するって事ですよね。


なんで、何が、どうして、そういう結論になるの!?


あまりの急展開に抗議しようとした私の言葉はクロスさんのやけに落ち着いた声によって遮られた。

「お前、黒の教団というのは聞いたことあるか?」

また脈絡も無い質問。
聞いたことがあるっていうか、とてもお世話になってます。
正直に私が頷くと。

「なら話が早いな」

「早いってか、ちょ、ちょっと待って! だからってそんな突然…」

「イノセンスの力は制御しきれない人間にとっては害にもなりかねない。教えを請うて損は無いだろう」

「まあ…そうですけど」

しかし、ここで素直に頷いてしまっていいものか。
私が往生際悪く、いやでもお荷物になるのも悪いし…とかブツブツ言っても、
ガキがそんなこと気にするなで片付けられてしまった。

どうしよう、良い言い訳が思いつかない…!

だってなんだか流されそうになってるけど、今の私、それどころじゃないんだって!

まあ、前と違って原因はなんとなく判っているし…
原因ってつまりこの懐中時計、ね。だから落ち着いているわけだけど。
だからといって、ここで道草とか食っている場合ではないのは確かで。

「ちなみに言っておくが、嫌だと言っても既に決定事項だ。諦めろ

拒否権とか一切無しー!?

「面倒なことにイノセンスの適合者を育成するのも黒の教団、元帥の役目なんでな」

「『元帥のお仕事』、ですか」

「そうだ。世界中を廻って一つでも多くのイノセンスの回収と一人でも多くのイノセンスの適合者を見つける」

詳しくは聞いたことなかったけど、元帥ってそういう役目だったんだ。
ただ、『凄く強い上層部の人』ってだけだと思ってた。
それに。

「仕事熱心なんですね…
なんか意外(小声)…」

直接知っていたわけでも無いから、なんともいえないんだけど。
アレンから聞いた話では、教団が嫌いで消息を絶っているっていう話だったから、
てっきり仕事とか関係無しにもっと遊び回っているもんだと…
いやあ、思い込みって良くないなぁ、うん。
勝手に勘違いしててごめんなさい、クロスさん。

クロスさんは思わず黙り込んでしまった私をちらりと見て、真顔になった。

「それにいくら弟子とはいえ、男との2人旅なんていい加減まっぴらだと思っていたところだ。丁度良い」

ぶっちゃけそれが本音なんですね

いろいろとしみじみしたところできっとこれが本心だと思うと、こんちくしょうめ。



一体、どういう理由でココに来てしまったかは判らないけど、
考えてみればこのまま知らない世界で一人になるのは危険だし、願っても無い提案であることは確かだ。
う〜ん、私って悪運が強いというか…コレだけ色んな場所に飛んで、路頭に迷わないのは凄くラッキーなんだと思う。

…うん。
今のところはお言葉に甘えて一緒にいさせて貰おう。その中で帰れる方法を探そう。
今、考えられる中ではそれが一番安全で確実な道…かな?

ここが何処なのか、とか。
何より過去に下手に関わって何かまずいことが起きないかが凄く、どころかとても不安だけど…
それよりも、もし逃げ出そうもんなら、未来どころかここで私の人生終わりかねない。

てか、
この状況で逃げ出すとか絶対無理だから。

そう覚悟を決めた私は、改めてクロスさんにお世話になりますと伝えた。


「喜べ、アレン。今日から暫くの間、お前の妹弟子だ」

「は、はい。僕はアレン・ウォーカーといいます。アレンと呼んでください」

「よ、よろしく…アレン。私の事はでいいよ」

「…宜しくお願いします、

緊張した様子のアレン。
やっぱりなんだかまだ警戒されているような気がするなー。
仕方ないか、私、控えめにみても怪しいし。最初の出会いが出会いだったからなぁ。
早く誤解を解ければいいんだけど…。
しかし、なんか今更挨拶するのって私にとっては変な感じだ。
え、あれ。待ってよ? 今、挨拶しちゃったアレンの記憶とかって、私が元に戻ったらどうなっちゃうの?

そんな私の葛藤を尻目に、弟子同士の心温まる挨拶を暖かく見守っていた(?)クロス師匠が改めてアレンに言った。

最初に言っておくが手は出すなよ

出しませんよ。
師匠じゃあるまいし

声に出すか出さないかの小さな声を聞き取ったらしいクロスさんに睨まれて、アレンがまた石化した。

だから、余計なことは言うな、と。














「…囲まれたか」

3人で街を出発して、次の街を目指して歩いている途中。
前を歩くクロスさんの低い声に驚いて立ち止まると
気付けば、回りをアクマに囲まれていた。
ざっと見たところレベル1だけみたいだけど、やっぱり怖いもんは…怖い。

うう、ちょっとでも動けば…撃ってきそう…だし…
隣を見れば、やはり青い顔をしているアレンが緊張した面持ちで周りを見回している。

「師匠、どうしま

そうアレンがクロスさんに問いかけたのと同時に、クロスさんが動いた。
何をするのかと見ている私の目の前でアレンの襟首を捕まえると。


そのまま、勢いよく空中に投げた。


う…わあああぁぁぁぁぁああぁぁ!!!!?


……えええええぇぇぇぇl!!?


アレンが…飛んだァァァァーーーー!!?

うん。
この表現は間違いじゃない。
飛んだ…よ!?

あ、アレン……!!!!?

慌ててアレンの方に行こうとしたけど、
その直後に一斉に射撃されたアクマの弾丸の所為で視界がゼロ。
何も見えない…!
て、アレンは無事なの!?
なんかいろんな意味で!

アレンを飛ばした張本人を見れば、何事も無かったような顔をしているしで益々混乱する私の頭。
な、何? 今の何ー!!? 私の幻覚!?

ク、クククククク…!?

「なんだ、、突然笑い出して。何か良い事でもあったのか?」

「いや、今のは別に笑ってるわけじゃなくて!?」

「じゃあ、なんだ。さては俺に見惚れたな?」

なんでそこでそうなるんですか、っていや、それも違くて! ク、クロスさん…!? 今の一体何したんですか…?」

「ああ、今のか。今のは俺の考え出した技のひとつ、弟子バリアーだ

弟子バリアー!?

技ってか、今、アレンを空中に放り投げて盾にしてましたよね。
てか、あまりにビックリしすぎてどこをどう突っ込めばいいのか!

力技だ…。
あれが技とかありえないよ。

なんとか回復したらしい(それも凄い)アレンがボロボロになりながらも立ち上がった。
あ、半泣きになってる。って当たり前か。
むしろあれで半泣きで済んでいるのが凄い。
私だったら確実に全泣きだ。もう大号泣ものですよ。

「し、師匠…!」

「あ?」

「い、今のはいくらなんでも酷いですよ、死ぬトコだったじゃないですかっ!」

「何言ってんだ、アレン。お前寄生型だろうが。ちょっとアクマの弾丸くらった所で死にゃしねぇだろ」

いや、そういう問題じゃないと思いますよ、クロスさん

あんなんされたらアクマのウィルスとか関係なく普通に死ぬから!?

あ、いかんいかん。
呆気にとられてついぼけっと見てしまっていた。
当のクロス師匠は謝るどころかそのままゲシゲシとアレンに向かって蹴りまで入れる始末。

「大体、俺に言われるより前に、師の危機に体張って日頃の感謝を示すのが弟子としての正しいあり方だろうが!」

えええ。
なんか凄い理不尽なこと言い出したーー!!?

あまりのことに固まっていた私も流石に慌てて止めた。
う〜ん。いくらなんでも酷いよ、これ!

「…し、師匠、後ろ、アクマが…!」

「あ゛?」

胸倉を掴まれたアレンがボロボロになりながらも、そう警告すると

俺の邪魔をするとはいい度胸だ

振り向きざまにそう言って、持っている武器型のイノセンスで一撃。
それだけで、周りに居たアクマたちが一斉に破壊されていく。


つ、強えぇぇぇーー。


おかげで私たちは何をしなくてもいいくらいだ。
どう考えてもさっきのバリアーは完全にいらなかった。
ちょっとこの強さって反則じゃない?
無茶苦茶だよ、それこそいろんな意味で。

まあ…
こんな環境にいたら師匠を思い出している時のあのアレンの表情も頷けるってもんですよ。

これはトラウマになるよなぁ。













そうして、やっと街に着いた頃にはとっくに夜は更けていて、
着いた早々、街に一軒あった宿に転がり込んだ。
今は宿の人のご好意で遅い夕食をご馳走になっているところ。

私もちょっとだけは持ち合わせがあったから、今日のところは迷惑を掛けずにすんだ。
黒の教団に居た頃は一応、エクソシスト(見習い)ということでちょっとだけお給料が出ていたけど…。
って、あ、やめて、給料泥棒とか言わないで、それは自分でよく判っているから…!
だから教団内でも一応、何か手伝える事が無いか探して回っていたりしたし。
なんていってむしろ迷惑かけてたかもしれないとか考えると、うわ落ち込むー…。

あー駄目だ。ポジティブ、ポジティブシンキン、私!(?)
…後で、何か私でも出来るバイトとか探さないと。
と、私が似合わない金策に思いを馳せていると、隣で浮かない顔をしたアレンと目があった。
手にしたパンやスープはさっきから一向に減っている様子がない。

「食べないの?」

「あ、はい。ちょっと…」

「具合悪い? あ。もしかして風邪…とか?」

「大丈夫、心配しないで。…アクマと会った日は…いつもこうだから」

そういって表情は曇ったままなのに無理に笑おうとするから、逆に判ってしまった。
あー…そういえば、アレンってアクマの魂が見えるんだもんね。
今日会ったアクマは集団だったもんな…。

私が知っている15歳のアレンは、そんなそぶり全然見せなかったけれど、
まだエクソシスト修行を始めて間もない今のアレンにはきついことなのかもしれない。
私にはそれがどんなに苦しいことなのかは想像するのも難しいけど。

「放っておけ」

私がアレンにかける言葉を迷っていると、後ろから容赦の無い声が飛んできた。

「あーでも、マリアンさ…」

『クロス』だ」

「…えっと、クロス師匠。アレンが食事しないって結構よっぽどの事だと…」

思うんですけど。
だって、あの! アレンが! だよ!?
食事を残すんだよ!!?
こんなこと、私が元にいた時間の教団内であったら大パニックだよ。ひと騒動起きるよ。

「そんなこと知るか。それはそいつの問題だ。自分で歩くことを放棄した人間に用は無い」

確かに正論だけど。
自分でもちょっとおせっかいが過ぎるかなーとか思わないことも無いしなぁ。
う〜ん、でも。


何気なく扉の方向を見ると、先に食事を終えたらしいクロスさんが帽子を被り直して出て行くところだった。

「あれ? クロスさん、こんな夜更けに何処行くんですか?」

「野暮用だ。、その馬鹿弟子は放っておいて一緒に行くか?」

「いやー…えっと、ここにいます」

なんとなく、今のアレンを一人にするのは気がひけるし。

「そうか」

クロス師匠はそう言うと、本当に出て行ってしまった。
相変わらず弟子を心配するそぶりもひとかけらも見せないのが元帥らしいといえばらしい。
まあ、見た目だけじゃなんともいえないけど。
もしかしたら、ああ見えて内心心配で仕方がない、とか…無いか。
うん、無理がある。

私が師匠の出て行った方向をじっと見ながら考え事をしていると、
その姿を違う風に解釈したのかアレンが言った。

。師匠は多分…女の人のところだから、心配ないよ」

いや、師匠の心配はこれっぽっちもしていませんが。
というか、心配するのも逆に申し訳ないくらいの強さだしね。
だから、どちらかといえば今心配なのは…

「…えっと、アレン。大丈夫?」

「はい。心配掛けてすみません」

「っと、謝らなくていいよ、うん。それから敬語もいいよ。私の方が妹弟子なんだし」

無理することはないけどね。
そう私が言うとアレンはしぶしぶながら頷いた。
う。今、そういうこと言ってる場合じゃ無いってのは判ってるけど、可愛いなー。
いやいや、不謹慎だ。いかんいかん。

えっと、話を元に戻さないと。

「食欲無いのって、やっぱり…今日、アクマの魂? …見ちゃったから…とか?

つい気が緩んでしまってそう私が聞くと、
ぎょっとした様に目を見開いてこちらを見た。

「師匠に聞いたんですか?」

「あー…うん、そんなところ」

そうか。そう呟くと諦めたようにこちらを向いた。
うっかり口を滑らせちゃったけど、悪いこと聞いたな…。

「ご、ごめん」

「いえ、本当の事だし。師匠の言った通り、この目…呪われてて。アクマに内臓された魂が見えるんです」

「…うん」

「でも、まだ良くわからなくて。もしかしたらそう思い込んでいるだけで、違うかもしれない」

「…? 違うって?」

「アクマとか関係無くて、只この世の物ではないものが見えるだけとかかもしれないし…」

「あ! だから、最初会ったとき、私の事『幽霊』って?」

「うん。…なんていうか、その、ちょっと普通じゃない感じがしたから

普通じゃないって。

私が複雑な表情をしたのに気付いたのか
アレンが、ごめん、そういう意味じゃなくて…! と焦ったように付け足した。
いや、それこそ本当の事だし。焦ることないよ、うん。
しかし、う〜ん、鋭い。
こっちが内心ちょっと焦っちゃったじゃないか。

私が気にしないでと伝えるとほっとした様に肩を落として、
それからポツリといった。

「だからいつもの事だから。心配しなくて大丈夫」

「そっか…うん…」

「情けないな。慣れなきゃいけないって判ってるのに。これは罰だから」

罰ってそんな…。
あーバカか私は!
うっかり聞くべきことじゃないよ、もう。


ちょ、ちょっと場が暗い!
半端なく暗いよ!?
夜だから余計に沈んだ感じがする。

こういう落ち込んだときこそ、明るく行かないと!

ともかく!

私は雰囲気を変えるように、ことさら明るく言った。

「今日は色々あったしね。疲れてるんだよ、うん。今はともかくこれ食べてゆっくり休まないと明日辛いよ」

「……うん、そうですね。師匠は相変わらず容赦ないし」

「そうそう、それに沢山食べないと大きくなれないぞー、少年!」

なんたって、これからが成長期なんだし!
私はアレンの身長がこれからちゃんと伸びるって知ってるけどね。

「いいよ」

「そんな、いいって…」

あ、あれ? 予想外の答え。
いや、私的にはこのままでも十分可愛いから、むしろオッケーなんですけどね。
でもこの年頃の男の子って普通、身長とか大きくなりたいって思うもんなんじゃないのかな?
まあこれは私の勝手な思い込みだけ…

「大きくなれなくても」

「……アレン?」


「大きくなれずに、死んでしまっても…僕はそれでも構わなかったんだ」







「なんて。ごめん。昼間みたいに忙しければ何を考える暇も無くていいんだけど。
 夜は静かだから色々考えちゃって。駄目だな」

ちょっと頭冷やしてきます。
そう早口に言うと、私に背を向けて扉を開けて出て行った。

「おやすみ。

そうして、残されたのは私一人。

こんな状態で眠れるわけが無い…わけで。
どうやら、今日の夜は長くなりそう、かな。










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◇あとがき◇

ちょっと難産でした…。
大まかな話は決まっていたんですが、師匠の口調とかアレンの口調とか。
模造もいいとこですみません…!

それから、微妙に似合わないシリアスにも挑戦してすみません…!

ではでは、ここまでお付き合いくださった方、ありがとうございました!


(H19.8.24)