どうも。
過去に飛ばされて、リアル「時をかける少女」中のです。
しかし、なんか気のせいかもしれないけど…
妙に長くないかい…?
正確な日付は不明だけど、ココに来てそろそろ1ヶ月が経とうとしています。
このまま元の時間に戻れなかったらどうしよう。
―STAGE15
「あー…帰れなかったら、流石にみんな心配するだろうなぁ…。きっと今頃、って。あれ?
『今』の『教団の皆』は私の事知らないわけで、てことは心配なんかもしないわけで…あ、あれ?」
「…? どうしたの?」
ややこしいことを考えていたらいつの間にか足を止めていたのか、
隣で歩いているアレン(小)に不思議そうに声を掛けられた。
ああ、そんなきょとんとした顔で覗き込まないで。
そう、ここは私が知っている世界より過去の時間だから、アレンも小さい。めんこい。
はっきり言って萌えるよ!
いや、今はそんなことしている場合じゃなかった。
「ごめん、ちょっと考え事してて…。っと、ここだっけ?」
目の前の建物を指差しながらそう私が問いかけると、アレンはポケットに入っていたメモをゴソゴソと出した。
覗き込んで確認した後、頷く。
「うん。多分」
「よし、アレン、ゴー!」
「いや、なんか自然な感じで言ってるけど、も一緒に行くんだからね」
何をしてるのかっていうと、今はアレンと一緒にお使いの最中。
その内容がねぇ…
クロスさんの知り合いという人のところにお金の工面を…
ぶっちゃけ、借金の申込みに行く途中。
てか、師匠の知り合いに借金のお願いにいくんだから、その肝心の本人が居ないのもどうかとおもうんだよなあ。
てなことを遠まわしに言ってみたら、クロスさんいわく一言「面倒くせぇ」だそうで。
おいおいおい。
んなもん、こっちだって面倒くさいわァァァーーー!!!
まあ、そのお金で少なからず私も生活させてもらっているんだから、こんなこと言ったら駄目なんだけど。
元はといえば、アレンとか私が稼いだお金を片っ端からお酒とかに変えていっている師匠の所為なのに、世の中理不尽だ。
これがきっと相手が女の人だったら、何も言わずに行ってるんだろうな…。
まだ1月しか経ってないけど、段々あの人の人と成りが判ってきたよ。
判りたくなかったけど。
それでもアレンに比べれば私への対応はずっといい。
多分私が曲りなりにも女だからだと思うんだけど…
逆に申し訳ない気持ちにもなるわけで。
「ただいま戻りました〜」
「戻りました、師匠」
そんなこんなで何とかお使いを終えて宿に帰ってきた私達を出迎えてくれたのは、
優雅に椅子に横になりながら、ワインを転がしているクロス・マリアンの姿だった。
うわお、リッチー。
てか、なんかおかしいよね。
その状態は絶対に弟子に借金の申込みさせにいった人の姿じゃないよね。
クロスさんはこちらを見てちょっと上体を起こすと、あからさまに顔をしかめた。
え、酷。
「お前ら…また、面倒なもん連れてきやがって…」
「え?」
隣のアレンがハッとしたようにふり返る。
後ろを見ると…
知らない男の人がいた。
その目は明らかに感情を失っている。
「!」
い、いつの間にーーー………!!!?
つけられてたの? もしかして!?
「まあ、いい。丁度、退屈していたところだ」
と言ってニヤリと笑うクロスさん。
おおお、カッコイイ。
と、思ったのもつかの間。
「遊んでやれ。アレン、」
そうしてまたごろりと横になる。
で、マジで師匠は何もしないんかい。
うう、ちょっと格好いいとか思った私がバカだった…。
「…!! 下がって!」
一方、アレンの方はというと、私のように師匠をがっかりした様子で見るわけでもなく、素早くアクマに向かって走っていく。
もしかしたら、もう諦めきっているだけかもしれないけど、偉いなーアレン。
あ、駄目だ駄目だ、今はそんなことしてる場合じゃなかった!
アレンが走り出したと同時に男の体が変形していく。
うげ…。
やっぱり、いつ見ても…これは…キツイ…。
だってこの人だって、魂の元になった人だって、元々は…きっと…
「……っ…!!」
アレンも同じ事を思ったのか、ちょっとだけ…ほんの刹那の時間、振り下ろす手の動きを止めた。
いつも…っていっても、ここに来て数える程しかこんな場面には遭遇していないけど、
アレンはアクマを見ると決まって凄く辛そうな顔をする。
こっちからは表情は見えないけど、今もそんな顔してるんだろうなあ。
とか、一瞬でも注意を怠った私の学習能力の無さを呪いたい。
「っ……!!」
わああああ!?
な、なんか気付いたらアクマから攻撃されてるし!
「おおおぉ!?」
しまっ…!!?
避け切れな…
「ったく。手間のかかる弟子共だ」
危機一髪。
私の目の前まで迫っていた弾丸は、後ろから突然スッとと出てきた手に握られた銃によって一瞬で霧散した。
助かった…。
「あ、ありがとうございま…っ!?」
「教訓だ。女の一人も守れないような軟弱な男には引っかかるなよ、」
「…ははは」
だから何回も言ってますけど、耳元で話すの止めてください。
ハッキリいってその重低音は心臓に悪いです。
てか、この体制がものっそい恥ずかしいです…。
いや、嫌だってんじゃなくて、一言で表すとすると…こう…むしろ「ご馳走様」と言うべきか(混乱)
師匠の言葉が聞こえたのか、何とかアクマを開放し終えたアレンが悔しそうな顔をした。
さっきの言葉は明らかにアレンへの当て付けだよね。師匠…。
後ろから私を抱えていたクロス師匠の手が離れ、さっきとは打って変わった低い声が響く。
「アレン。お前、今、一瞬攻撃を躊躇したな?」
「…!! そ、そんなことは…」
「攻撃の瞬間、確かにお前は手を止め、AKUMAへ攻撃する機会を逃した」
「!! ちょっと待って下さい。だったら、むしろ私の方がお荷物で…」
「、お前は少し黙ってろ。…で、その結果どうなった?」
前半は私に向けて、後半はアレンに向かって静かに有無を言わせない口調で問いかける。
「……すみませんでした」
「次は無いと思え」
おおお、容赦ない…。
そのまま、うな垂れた様子のアレンに私は声をかけることが出来ない。
どうしようか迷っているうちに、ドアを開けて出ていくアレンの後姿を見送った。
あああ、私のバカ…。
だって、なんだかアレンだけが怒られていて…
私だってさっきは何も…どころか、むしろ迷惑掛けていて、私こそお荷物100%じゃないか。
いや、すすんで怒られたいわけじゃ決して無いけどね。
「何か言いたそうだな、」
「いえ…私も…さっきは何も出来ませんでした。申し訳ありませんでした」
「判ればいい」
今を逃したら反省の言葉を言い逃すと思って、まずは一言。
もし例えあの場で何か出来ていたとしても、精々がオタマとか出して余計な混乱を招くだけだったかと思う。
つくづく、シリアスになりきれない私の体質がにくい。
でも、こういうのはちゃんとしとかないと、うん。
しかし…
「前から思ってたんですけど…クロス師匠ってアレンに妙に厳しいですよね」
「何言っている。これ以上無いくらい優しくしてやってるだろうが」
「それが本心だったら、本気で尊敬しますが」
もしアクマの群れに問答無用で放り込まれるような状態が優しくされている状態だとしたら、
そんな優しさはぶっちゃけ勘弁願いたい。
なんなんだ、この人。
生まれながらのS属性なのか。
「大体、男に優しくして何が楽しいんだ。気色悪い」
「さっきと言ってること180度違いますよ」
本当、フリーダムだな!
「何にしろこんなんで挫けているようじゃ、これから先、アイツは生きていけないからな」
……ううん。
本当にこの人、判りづらいな〜。
後姿だったから、本当のところはどうだかしらないけど。
言葉にちょっとでも優しさが見えたような気がする…願望だけど。
まあ、折角だし、いいように解釈しよう、うん。
あのあと、結局深夜になっても2人は帰って来る気配も無く。
後に残るのは暇人の私ひとり。
さびしー…。
しかしそれにしてもねむい…。
あまりのねむさにさっきからしこうが何かおかしくなってるよ。
むずかしいことがかんがえられないっていうか…。
うう、ひらがなばっかでよみづらくてすみません、ってなにいってんだ私。
あくびをこらえて、誰かが帰ってくるのを待っていると扉が静かに開く音がした。
顔を向けるとアレンがこちらを見て驚いた顔をしている。
「ただいま。…まだおきてたんだ、」
「おおう、おかえりなさいアレン。はは、いやなんとなく目が冴えちゃって」
「…すっごく眠そうに見えるけど」
「気のせいだよ。もしくは幻覚だよ」
目をつぶったまま答えても信憑性0である。
うう、眠気になんて負けるもんか。
扉を閉めて向かい側のベッドサイドに腰掛けたアレンに話しかけた。
「…アレンの用事は終わったの?」
「はい」
「………そっか、それは良かった」
「…………」
「………今日寒いね」
「……そうですね」
そのまま嫌な沈黙が流れる。
うー。アクマに会った日は最初に会ったときからずっとこうだ。
暗い…! 暗すぎる…!
「えっと、アレン」
「はい」
「今日はありがとう」
「いえ…」
「………」
は、話が続かない…。
いつも泣きそうな顔して、何も言ってこないんだもんな。
で、こういうときは、決まって寝ないで一晩中起きてるんだよ。
うう、成長期に体に悪いったら!
………よし。
相変わらず暗い顔をしてうつむいているアレンの後ろから
そうっと近づいて…
「…うわっ!!??」
ガバッと頭から毛布をかぶせると、毛布をはぎ取られないように全身で押さえ込んだ。
丁度、毛布ごとアレンを抱え込むような感じ。
中からは焦ったような抗議の声が聞こえる。
おお、暴れてる、暴れてる。
なんて悠長に考えている場合じゃなかった。
このまま捕まえるだけで無言でいたらタダの変な人だ。
「…ちょっと!? 突然、何するん…!」
「ふふふ。可愛い子、ゲットだぜ★(ポケ○ン的な意味で)」
自分で言うのもなんだけど、変態か私は。
「いや、空気読もうよ、。ゲットって言われても、正直どう反応すればいいのか」
ほら、アレンも戸惑ってるし。引いてる、引いてるよ。
でもこれ、やばい、どうしよう。ちょっと楽しい。
変な人通り越して、犯罪者になりかねないよ。
「ともかく、良い子はお休みの時間だよー」
「《良い子》て…、! いいかげん離し…」
「無理に見ることはないと思うよ。うん」
「………?」
あまり口調が重くならないように、世間話の続きのように軽く声を掛けると、
腕の中で暴れていたアレンが大人しくなった。
ありゃ。う〜ん、こういうの苦手なんだよね。
なんて言うのかな、真面目な空気っていうのか、ガラじゃないと自分で思う。
でも、まあ。
「どうしても何かが見えて怖いときは、こう、毛布とかね」
言いながら、頭の付近をポンポンと軽く叩く。
「被っちゃえば、ほら。何も見えない」
「…………」
「暗闇は怖いけど、慣れれば優しいときもあるって。あ、これ、私も人の受け売りだけど」
さっきまでとは打って変わって、腕の中のアレンはじっとしている。
私も人前で泣くのとかは正直遠慮したいし。って、普通はそんなの好きな人のほうが珍しいか。
ともかく、そう。私なら。
どうせ落ち込むなら暗いトコのほうが落ち着くんじゃないかと思ったわけで。
例えば、悲しい物語を観る時の映画館。
例えば、何かに落ち込んだ夕闇の中の帰り道。
暗いのは寂しいけど、人に自分の表情が見られないってちょっとした安心感がある気がする。
そんなの人それぞれだとも思うけども。
「頑張って明るく振舞うのもいいんだけど。一旦、ちょっと一息ついてみるのもありだと思うんですよ、さんは」
「やだな。僕、無理なんて全然…」
「いやいやいや。してるね! 名探偵の私の目は誤魔化せないね!」
「、いつから名探偵になったの」
「真実はいつも一つ!」
「…今度は何ごっこ?」
うん、ちょっと、ワル乗りし過ぎたかもしれない。
ふざけるのもこの辺にしとこう。
雰囲気を変えるためにひとつ咳払いをして、改めてアレンに話しかけた。
「……ね」
「何?」
「アレンね、お父さん好き?」
「? …は、い」
「うん。で、ここからは私の勝手な解釈なわけだけど、それだけアレンが好きなら
きっと優しいお父さんだったんだろうなって思うんだ。あ、知らないのに…勝手にごめんね」
「……いえ、大丈夫。そうだね。優しい人…だった」
「だから、その目だって…本当のところは判らないけど、そのお父さんがくれた物だったら、
きっとアレンを苦しめるだけじゃないんじゃないのかなー…と! 思ったんだけど! そこんとこどうよ!!?」
「何で突然そこで切れるの」
「いやいや、ちょっと言ってるうちにこう自分で恥ずかしくなってきて…。それはともかく。ほーら、新解釈!」
なんて。
新解釈だなんて、嘘だ。
アレン自身もきっと何度も考えていることだろうから、今更私が言うのもどうかと思ったんだけどね。
1ヶ月一緒に居て気付いたのは、アレンはちょっと我慢しすぎなんではないかい、ということだった。
師匠と2人きりだったら、甘えたり出来ないのは判るんだけどさ。
というか、そんなことしたら間違いなく即成仏だ。
でも、彼はまだ11か12そこそこの少年で。
今なら私だっているんだし。
これを機会に、どうせなら思いっきり甘えてしまってもいいんじゃなかろうか。
というか、私が甘えられたいというか、欲望に忠実で本当すみません。
まあ、私では頼りないのも承知の上だけど、無いよりはマシって言葉もあるし。
この先の彼の大変な道のり(主に師匠がらみ)を知っている分、余計に。
ちょっと位は泣いたりしても、ドントマインドですよ!
「それで何が変わるってわけでもないけどさ。無理に辛い方向ばかり見ることは無いんじゃないかなーっと」
「いいんだよ、それで」
「アーレーンー。ほら、またそういうこと言う」
「だって…これは…罰だから…」
「お父さんがそう言ったの?」
「……いえ」
「だったら、アレンが幸せになっても、楽しい時間を過ごしても、誰も文句なんていわないよ」
つーかむしろ私が言わせないね!
そう無意味に偉そうに言って胸を張ったけど、今度は何の突っ込みも返って来なかった。
な、何か無いの…?
ほら、「お前がかよ!」とかさ。
……。放置プレイって…淋しい…。
「……ーーーー」
ん?
ふと気付けば、かすかに返事の様なそうでないようなくぐもった声が聞こえた気がした。
ううん、よく聞こえないな。
あー…でも、ちょっとおせっかいが過ぎたかな…。
何か今、急激に頭冷えてきた。
全部言い切ってしまった後で後悔の波が…こう、押し寄せてきたというか。
おいおい、ちょっと私、偉そうなことばっかり言ったんじゃないのかー!?
いや、でも言っちゃったことは今更取り消せないしな。
しかし、改めて気がついたけど。
この状況、めっちゃ美味しくないかい…?(台無し)
だって、毛布で直接は見えないけど、この腕の中にはアレンがいるんだよ!!
うう、どうしよう。
出来るならこのままお持ち帰りしたい。
駄目かな。いや、駄目だろ。
でも今ならクロス師匠もいないし…
「」
「は、はぁあいぃ!?」
ぐるぐると色々と考え事をしていると、突然腕の中のアレンが声を掛けてきた。
び、ビックリした。心覗かれたのかと思った。
思わず声が裏返っちゃったよ。
「ちょっと…苦しい…」
「ご、ごめん!!」
おおお。
押さえ込もうとする余りちょっと力が入りすぎちゃったみたいだ。
安らぎどころか、苦しみ与えてどうするって話だよ、本当。
慌てて力を緩めたけど、もうアレンは毛布をどかそうとはしなかった。
目の前で動かない毛布の塊をみて不思議に思って声を掛ける。
「…アレン?」
「それと」
「ん?」
「…………ありがとう」
段々と小さくなっていく声は、毛布に遮られて良くは聞こえなかったけれど、
それでも今度は確かに耳に届いた。
「…どういたしまして」
大きな声を出すのも気がひけて、私も小さく返す。
そのまま毛布にそっと寄りかかると暖かい塊は小さく小さく震えていて。
その後に聞こえてきたすすり泣くような小さな声には、聞こえないふりをした。
…………。
……あれ?
私、いつの間に寝ちゃったんだろう…
えっと…アレンを寝かしつけ…ようとして、もう既に先に寝ちゃった気がしなくもない。
薄く目を開くと、カーテンからもれている外の光が大分眩しかった。
これはもう結構遅い時間かなぁ。
って、
どどどどどどどど、どうしよう!!!?
朝御飯の支度ーーーーーーーーーー!!!
寝坊して支度出来てません。なんて言った日にゃ、師匠になんて言われるか!
リアルに殺されるよ!!!
これはもう確実に!!
脳震盪を起こしそうな勢いで慌てて体を起こして、ポケットに入った懐中時計を開ける。
一体、今、何時…
「……!?」
なななななな?
懐中時計の針が…凄い勢いで回転してるんですけど!!
な、何コレ、壊れた!?
ま、まずいよ、だってこれだけが元の時間に戻るためのたった一つの手がかりなのに…!!
慌てていろんな部分を適当にいじってみるけど、回転は止まらない。
ど、どどど、どうしよう。
あ、えっと、そうだ!
ショック! ショックを与えてみればいいんじゃないの!?
ほら、うちのテレビとか大分オンボロだったけど、試しに叩いたら直ったし、アレと一緒!
よーし、そうと決まれば早速大きく振りかぶって力の限り地面に…
いや、そんなことしたら普通に壊れるわ!
トドメさしてどうすんの!!
落ち着け、落ち着け、私。
冷静に、冷静に。
はい、まずは大きく深呼吸。息を大きく吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー、吐いてー、……
く、苦しい…! しまった間違えて2回連続で息を吐きっぱなしに…
いや、こんな馬鹿なことやってる場合じゃない。
……。
まずは街の時計屋さんに行って駄目もとで見てもら…
慌てて宿の扉を開けると、丁度中に入ろうとしていた人影とぶつかりそうになった。
あ、危な…!
「! 」
「あ、おはよう、アレン! 昨日は眠れた?」
「え? えっと、はい」
「そっか、良かった良かった。って、ごめん! 私ちょっと今急いでて…」
って、
ちょっと待てよ。
そのまま扉を開けて飛び出しかけた私だったけど。
何か違和感を感じて、ゆっくり振り向いた。
そこに居たのは…アレン。
うん、確かにアレンには違いないんだけど。
何か…違うような。
だって、その背は私よりも確実に高い。
う〜ん、成長期恐るべし。
やっぱり一晩ちゃんと寝ただけで、こんなに…
「って、いくらなんでも、成長期にも程があるよ!!!」
「さっきから、なんなんですか、!?」
「すみません。ちょっとのつもりが…」
すぐに帰るつもりが大食い大会なんてやってたから、つい…
そう言い辛そうに言い訳するアレン。
あー…
そういえば、おかしな事件の所為で忘れてたけど、私アレンを探してこの街に来たんだっけ。
何しろ私の中では1ヶ月くらい経ってるからな…
戻ってみれば、こちらでは、あれから数時間くらいしか経ってないらしい。
なんか…どっと疲れが。
あれですよ。この疲れを私は知ってる。
確か前の世界の時、月曜日を丸々やる夢を見た後に月曜日の朝に起きた事があって、その疲れに似ている。
あれは凄く疲れた…どうせなら日曜日を2回やりたかった…!
だって、月曜日ってよりによって苦手な教科ばっかだったもんなぁ。
まあ、今回は夢ってわけじゃないみたいだけど。
あれが夢だったら私の妄想力凄すぎるよ。
「まあ、迷子なんじゃなくて、良かったよ」
そう言うとほっとしたような顔で笑ってくれた。
か、可愛いな。やっぱり大きくなってもアレンはアレンだ。
「折角だし観光もいいと思うよ。あ、昔はいろんな街に滞在してたとか言ってたけど、ここにも知り合いとかいるんじゃない?」
「いえ。…でも、もしかしたらそうなのかな。何処か懐かしい気がして…」
「ああ! そういえば、ここって前にきたことあるよね、確か」
おお!
考えてみれば、過去で滞在した街ってここだったんだ。
起きた時の宿にも違和感が無かったし、道理で見覚えがあると思った。
しかし、変な気持ちだなぁ。
アレンにとっては数年前なのに、私にとっては数時間前の出来事だ。
そんなわけで、軽い気持ちでアレンに同意すると、予想に反して驚かれた。
「なんで知っているんですか?」
「え? あ。えっと…その…誰かに聞いたというか…こうインスピレーションが湧いて来たというか…?」
「…インスピレーション?」
「い、イノセンスの影響だ、きっと!」
「イノセンスって言えばなんでも解決すると思ってませんか、」
まあ、おおむね。
「ま、いいや。多分コムイさん辺りに聞いたんじゃないですか? 前にティムのメモリー見たって言ってたし」
「うん、そう。それだ!」
って、過去に会ってるんだから、今更隠すことでもないよね。
なんだ。こんな回りくどいことしなくても、そのまま聞けばよかったんじゃないか。
思わず変な理由つけてしまった。
「…前に教団に来る少し前の事は話しましたよね」
「ああ、インドにいたんだよね。あ、アレン象とか乗った? インドってやっぱり主食はカレーなの?」
「いや、カレーはよく判らないけど」
「あ、そうだよね。インド人が皆カレー食べてるとは限らないよね。だったらフランス人は皆フランスパンかって話だよね!」
「う、うん。…? あと、象の乗り心地は意外とザラザラして…てか、僕ら何の話してるんでしたっけ?」
おお、思わず好奇心に負けて聞いてしまった所為で、話がどんどん明後日の方向に…。
てか、アレン、乗ったんだ。象に。
「何の話ってーと…。アレンの過去話?」
「そうでした」
このまま象の事を聞きたい気もするけど、ここで話を蒸し返したら堂々巡りになりそうなので、一応話を戻すことにした。
また後で聞こう。象の乗り心地について。(そこは食いつかなくてもいい部分です)
「思い出すのも嫌な出来事ですけど、師匠、教団に来たくないとか言って、僕を置いて行ったんですよ。
トンカチで僕を殴りつけて気絶させた隙に」
「あー…って、と、トンカチ!?」
思わず驚いちゃったけど、
うん。大いにあり得る。
その辺の話って実は詳しく聞くのは初めてだけど、そんなことしてたんかい、あの人。
「はい。で、そのときに師匠にトンカチで思いっきり殴られた所為で…その前の記憶が曖昧なんです」
「下手したら殺人事件だよね、それ」
なんてこったい。
「だから…うん。実はこの街に来たことがあるっていっても…微妙にしか覚えてなくて」
「それは…なんていうか…ご愁傷様」
クロス師匠。
いくらなんでも記憶が混乱するほど殴ったら犯罪だよ。
しかし、これで謎は解けた。
道理で反応がおかしいと思ったら
アレンは過去に私と会ったことは綺麗さっぱりと忘れてしまっているわけだ。
なんて、都合の良…いや、うん。
無かったことになっちゃったのは、ちょっと…ってか正直すっごく淋しいけど、同時にちょっとだけ安心。
だって、過去を変えちゃったりしたら一大事だもんね。
どうなってるのか不安だったのも事実だし。
アレンはその時の事を思い出したのか、顔をしかめながら後頭部をさすっている。
う。辛い記憶を思い出させて、なんというかごめん。
「まあ、あれだね。そんな状況で一人でよく耐えたよね…」
あと、さっさと逃げてきちゃってごめん。
不可抗力だけども。
「…? あ、いや、一人ってわけでもなかったんですよ」
「?」
「本当に少しの間だったんですけど…師匠には僕の他に弟子もいましたし」
「…!!!」
そうやって何かを懐かしむように微笑むアレン。うわー絵になるー。じゃなくて。
それって。もしかして、っていうか、もしかしなくても…私の事なんじゃ。
わ、忘れてるんじゃなかったのーー!!?
いやいや、待てよ。
もしかしてクロスさんにまったく別の弟子がいた可能性もあるし。
まずは聞いてみるんだ、私。
「クロスさんって…弟子、何人いたの?」
「え? えっと…僕が知る限りでは僕と、あと一人だけ…かな」
わー。
やっぱり私じゃん。
「そ、そう。…弟子ってその人…ど、どんな人?」
「えっと…例の事件の所為で本当におぼろげにしか覚えてないんですけど」
記憶を辿るように難しい顔で唸っていたけど、たどたどしく話し出した。
「…たしか…僕より少しだけ後に師匠に弟子入りしたから…そう、妹弟子なんですけど」
「う、うん」
「僕より年上で…」
「そ、それで…?」
「綺麗で」
「き…?」
「優しくて…」
「優し…?」
「清楚で可憐で、立てばシャクヤク座ればボタン歩く姿はユリの花! しいて言えば、絶望の中のたったひとつの光というか…!
僕には兄弟はいませんけど、もしお姉さんがいたらきっとあんな…」
聞いてるうちに冷や汗が体中を流れていくのが判る。
どうしよう。
アレンの思い出の中の過去の私、ありえないほど美化されてるよ。
「も、もしもーし…?」
「あの頃の僕にとって彼女の言葉だけが心の支えでした…!」
手を組み合わせて何処か空を見ているアレン。
やばい、何処かおかしなスイッチ入っちゃったよ。
おーい、もどってこーい。
「懐かしいなぁ。多分あの時、僕よりいくつか年上らしかったから…きっと素敵な女性になってるんだろうな。
今頃は何処にいるのかなぁ…」
ここです。
ともいい辛くなった私は、大人しく黙っていることにした。
だって、少年の美しい思い出を壊すのも気がひけるし。
ここでタネ明かしして現実見ちゃった日にゃ、ショックでアレン寝込んじゃうかもしれないし。
なんだよ、こいつかよ。みたいな。
うわ。
てか、そんなことになったら私だってショックだよ。私こそ寝込みたいよ、本当。
しかし、あれだね。
思い出は美しいっていうけど、アレンの場合は思い出に逃避でもしないとやってられない3年間だったというのもあって、
逃避の具合がすさまじいことになってるな。
もはや既に私であった要素がひとつも残っていないよ、これ。
「…―その歌声は聞くものすべてに…」
いや、ちょっと待って、私、歌なんて歌ってないよ。
何処まで行くんだろう、この妄想。
ちょっと面白くなってきた。
あー…でも、戻ってきたばかりの頃は大分、混乱してたけど、すっかり落ち着いてきた。
帰って…きたんだなぁ。
ちょっと…挨拶もなしにってのは淋しいかもしれない。
「?」
いつの間にか意識が戻っていたらしいアレンに不思議そうに声を掛けられた。
慌てて顔を上げると、ふとアレンの目に懐かしむような光が宿る。
「でも、ああ、そうだ」
「?」
「言われて見れば、本当にちょっとだけ、に似てた…かもしれないです」
!!?
ききき、来たよ!
それだよ、それ!!!
「……ど、何処が…?」
内心ビックリしたのを隠して、私が聞くと
アレンがこちらをじっと考え込むようにしながら見た。
おおお、何か緊張するな…!
そして、暫くして『あ』と小さく声を漏らした。
な、何!?
も、もしかして、思い出してくれたとか…!!?(喜)
なんだ、正体明かさないなんて言っておいて、やっぱり私、寂しかっ…
「ちょっと名前の感じが似てる!気がする」
「それだけかい」
今更だろ、おい。
ちょっとどころか発音が違うだけじゃんか。
思わず素で突っ込みを入れると、アレンは頭をかくようにして笑った。
もしかして、わかってやってるんじゃなかろうか。
アレン、たまに素で黒いときがあるからなぁ…。
まあ、とにもかくにも、無事戻れてよかった。
ただいま。
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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
◇あとがき◇
ああああああ。
お待たせしてすみませんでしたァァァーーー!!!
本当、前回の更新からどれくらい経ってんだって話ですよね。
拍手で応援してくださった方、また改めてメモの方でも返信させて頂きますが、ありがとうございました!
そして、出来上がって見れば、こんなんでごめんなさい…としか。
やらないといけないイベントは決まっていたんですが、そのほかの部分に悩んでしまいまして。
地味に伏線をちりばめているつもり…なんですが、実はそんなにたいしたものでもないです(いらないよ、そんなぶっちゃけ話)
過去から思いのほか早く帰ってきちゃいましたが、もし…ご、ご要望なんてあれば空白の1ヶ月を書いてみたいな…なんて。
(無いに100ポイント)
ではでは、ここまでお付き合いくださった方、ありがとうございました!
次は…多分、いつもどおりのギャグに戻ると思いますので、安心して下さい(笑)
(H19.11.17)