ドオォォォーーーーーーン
パリーーーーーンッ
『――救護班、A地区へ!』
『――こちら一斑、至急応援を頼む…!!』
教団に帰った私達を迎えてくれたのは、
文字通り阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
そういえば、すっかり忘れてたよ……。
―STAGE16
「! これ、何があったんですか!?」
「こっちが聞きたいよ!!」
アレンと二人ワケが判らないまま、とりあえず爆音が聞こえてくる方に駆ける。
どういう事態になっているのか把握しておかないと、突然面倒な事態に巻き込まれても困るしね。
でもさっきから目に映るのは、出発前から考えると見る影もない教団内の状況。
一言で言えば…戦場…?
まさか…アクマに攻め込まれた…とか、じゃないよね?
そんな最悪なことを一瞬考えてしまうほどの混乱ぶり。
ともかく、
誰か知っている人は…
あ、リーバーさん発見!!
…リーバーさんの持っている武装がさりげなく強化されているのは、ひとまず見なかったことにして。
私達が駆け寄ってきているのに気付いたのか、
リーバー班長がこちらをハッとした表情で向いた。
「リーバーさん、これ何事…」
「、来るなっ…!!」
え。
鋭い叫びに思わず足を止めて、
音のする方を見ると…
なんかいる―――――!!!?
ななななな。
何アレ!? 何アレーーーー!!!?
き、機械?
なんかベレー帽被ってて妙に可愛いけど、ロボット…だよね、アレ。
突然の事態に思わず固まった私めがけて
顔と思わしき場所にある赤いレンズのようなものがこちらを向いた。
「…!」
「………っ…!!」
「大丈夫ですか? 」
「あ、ありがとう、アレン」
あ、危なかった…。
恐る恐る自分がちょっと前まで居た筈の地面を見ると、クレーターが出来ている。
クレーターって…おい。
アレンに引っ張ってもらうのが一瞬でも遅れてたらと思うと…。
隙を見て私達の近くに寄ってくれたリーバーさんに誘導されて、
そのまま物陰に隠れるように逃げた。
「いえ。…本当に無茶しないで下さいよ」
「あははは…面目ない…」
「まあ、無事で良かったです。それより、ひとまず今は安全な場所に行きましょう」
「そうだね。このままだと合い挽きミンチになりかねないし」
「それ、シャレになってませんよ、」
「ああ、判った。さっきのが比較的手薄な場所がある。そこに移動しよう」
「あの…リーバーさん。何か…すっごく嫌なデジャヴを感じるんですけど…」
「ああ…お前の言いたいことはよく判る、アレン」
顔を引きつりながら話すアレンに、対するリーバーさんも手で顔を覆ったままぐったりしてる。
逃げるようにあの場を後にした私達は、リーバーさんから事情を聞くことにしたんだけど…。
ど、どうしちゃったんだろう。
2人とも背負う空気が暗い、暗すぎる。
こうしていてもしょうがない。
リーバーさんに話を促すと、しぶしぶながら話しを始めてくれた。
「まあ、話せば長くなるんだけどな…。元はといえば、時間は昨夜にさかのぼる」
「あ、昨夜って…!」
そういえば、出発前にもちょっとリナリーから聞いたかもしれない。
まさかあれがこの事態の引き金だったとは…。
昨夜っていっても、つまり私にとっては1ヶ月以上も前の出来事だもんなあ。
そうして、リーバーさんは百物語よろしく、本格的に事の経緯を語りだした。
―そう。俺たちはいつものように残業に追われていた。
残業ってもな、儲けになんて一銭にもならないようなもんだが。
いわゆるサービス残業ってやつだな。いつか労働基準法で訴えられるぞ、本当。
…まあ、それは今は置いといてだな。
本当にいつもどおりの光景だったんだ。
コムイ室長が突然あんな提案さえしなけりゃな。
「あんな提案?」
あんまり思わせぶりにいうもんだから、思わずありがちな相槌を打ってしまった。
リーバーさんがコクリと頷いた。
「時間がないんで細かい説明は省くけど。まあ、簡単に言や「缶蹴り大会」だ」
「か、缶蹴り…!? 何でそこで缶蹴り?」
「そうですよ、リーバーさん。ワケがわかりません!」
「そうだよな。普通そう思うよな…。室長の話だと、親睦も深まってストレスも発散出来る!ってな名目だったが…。
深夜の科学者ってのはハイにならないとやってられないんだよ」
「はあ、そんなもんですか…」
「まあ、大抵の…俺を含んだ他の連中もバカらしいって断ったんだけどな」
そういって本当に疲れたような顔をするリーバーさん。
正常な判断です、リーバー班長。
ああ、でも確かに科学班の人たちってずっと徹夜で缶詰のイメージがあるし。
たまにはパーッと騒げる機会くらい設けたほうが健康にいいんじゃないか…とは私も思う。
思うだけでやらないけど。
でも、それを思ったら実行しちゃうのがコムイさんの凄いところだ。
…多分、科学班のためっていうか自分が遊びたかったんじゃないか、とかは思っても言わないでおく。
大体、終わらない仕事を遊びで放棄しちゃったら、終わるまで余計時間が掛かるじゃないか。
「それでも、室長に限らず物好きな連中ってのは結構いるからな」
そうか…。
結局やっちゃったんだ、缶蹴り。
「日頃のストレス発散するのに缶を蹴るんだからって、鬼が誰になるかで揉めたりしてな」
いや、揉めるなよ、そんなことで。
みんな、何だかんだでノリノリじゃないですか!
「その問題も、コムイ室長が作った鬼専用ロボット『コムリン・缶蹴り改』のお陰で無事解決した」
ああ、もうどこからどうつっこめばいいのか判らない。
隣のアレンを見ると同じように遠い目をしていた。
判るよ…。私もイチイチつっこんでいたら話が続かないから黙ってるけど、
正直、一言ずつ高らかにツッコミたい気持ちで一杯だよ。
「で、だ。ここからが特に問題なわけだが」
「既にもう問題だらけだったような気もするけど。更に問題ですか…?」
「………休憩時間にリナリーが俺たちにコーヒーを配ってくれたんだ」
「リナリーが? 夜中なのに…大変だなぁ。でも、やっぱり流石、いいお嫁さんになれるね、うん」
前に私も淹れてもらったんだけど、美味しいんだよね、あれ。
今度コツを教えてもらおう。
隣を見ると相変わらず私とはうって変わって顔色が優れない様子のアレンがいた。
いや、心なしかさっきよりも青ざめているような…。
あれ? アレンってコーヒー嫌いなんだっけ?
「コーヒーって…」
さも嫌な予感がすると言わんばかりのアレンに、心得た表情のリーバーさんが神妙に頷く。
「そう。まあ、薄々感づいてるとは思うが…つまり、なんだ」
半目のまま、右手の親指で後ろを指し示しながら言った。
「例によって、そのコムリンがコーヒー飲んで暴走したのが、アレだ」
「またですか!!」
おお、アレン、凄いつっこみ。
またってことは…
「暴走って…前も…?」
「ああ…そのときは教団内が半壊してな…コムイ室長も騒ぎを大きくするしで大変だった」
「本当、ろくなことしませんね。あのシスコン室長」
「アレン…! 黒いよ、ちょっと! 心の声丸聞こえだよ…!」
まあ、気持ちは判るけども…!
そして、リーバーさんが知り得る情報を総合した結果がこれ。
【コムリン・缶蹴り改 最新情報】
・故障により、問答無用で力の加減が出来ない。(建物壊れまくり)
・元はコムリンなので特に「エクソシスト」を執拗に狙う。
・捕まえられた人は缶の近くにある特設の檻に捕虜として捕獲中。
・缶を蹴られたら、50秒間のみ機能が停止する。
・自爆ボタン搭載。
「って、最悪じゃないですか! 特に最後のやつ!!」
「そう…最悪なんだよ…」
「うわ。もう言うのも気が引けるくらい、すっごいゲッソリしてますね、リーバーさん…」
そりゃそうか。
だって、考えてみれば昨晩から缶蹴りしてるわけだしね…。
しかも下手に手を出せば爆撃。どんな罰ゲームだよ。
それにしても、ロボットもののお約束とはいえ、自爆ボタンって。
それじゃ、コムリン自体を下手に攻撃できない。
加減を間違えようもんなら黒の教団ごとジ・エンド。もしくは、全員ドリフの刑。(古)
お、恐ろしい…!
アレンのアフロ姿なんて、私見たくないよ…!?
でも意外に似合ってたらどうしよう。
「気のせいかもしれませんけど。なんか今、すっごく失礼なこと考えませんでした? 」
「いやあ、アレン。気のせい、気のせい」
「で。唯一そのスイッチを無効化する装置を室長が持ってたんだが…」
「「だが?」」
「あの人、そうそうに捕まってリタイヤしやがったんだ」
「コームーイーさーーーーん!!!!?」
ああ、もう、あの人、本当に良い意味でも悪い意味でも期待を裏切らないな!
それじゃ、八方塞がりじゃないですか!
「でも、いくら捕まったって言っても、行動まで拘束されているわけじゃないんじゃないですか? だったら…」
私より若干早く立ち直ったアレンが的確な意見を言う。
あ!なるほど。
「てことは、その装置ってのを檻の中のコムイさんに使って貰えば…」
「いや、それは無理だ」
「どうしてです?」
「捕虜が捕まえられている檻な。一応、ズルなしってことで、電磁波類を全てカットする仕組みになってる」
「あーもう、なんでそこだけ無駄に高性能ーーー!!!!?」
そこまで全力で缶蹴りしようとしなくても…!!
大の大人が揃いも揃って童心に返りすぎだよ!
と、そこでまた重要なことに気がついた。
だって、待ってよ?
さっきのコムリン情報の中にあった項目…
「って、「エクソシスト」を執拗に狙う…って、まさか…」
エクソシストってことは、あれですよ!
私もめっちゃ範囲内!!?
あ、今、リーバーさんに気遣わしげに見られた。
やっぱり…?
しかも、もっと重要なのは…
「り、リナリーは!? 大丈夫なんですか?」
「ああ。今、リナリーは大事をとって別区画に避難してる。
それにコムリンも一応、コムイ室長を元に作られたモンだから、リナリーには甘いんだ」
「よかった…」
だって、朝からここに居たリナリーは真っ先に狙われてるだろうし。
あの綺麗な足に傷でもついた日には、私は毎日泣いて暮らすしかないよ。
「他のエクソシストもみんな出払っている最中だしな。残るは神田だが…まあ、大丈夫だろ」
まあ、神田ならこんな騒動、逆に面倒だ、とか言って関わってこないだろうし。
てかこんな緊急事態なんだから、むしろ出て来いよ。
と私が思っていると隣のアレンも同じ事を思ったのか、ちょっと不機嫌な顔になった、気がした。
下手に刺激するとまた混乱するので、ここはあえてノーコメントでお願いします。
そうすると、今この場で危ないのってアレンと私だけ、か。
はははは。
もう笑うしかない。
そんな私の気持ちが表情に出ていたのか、リーバーさんがこちらを労しげにみた。
「こんな時だから、2人が帰ってくるまでになんとか処理できればよかったんだけどな…悪いな」
そういって疲れたような笑みを見せた。
リーバーさん…良い人だなぁ。
なんで世の中って、こういういい人ばかりが割りを食うように出来てるんだろうか。
「まあ、自分達の不始末くらいは自分達でケリつけなきゃな。この場は俺たちに任せて二人は…」
「って、そんなボロボロの状態で何言ってるんですか!」
「そうですよ! このままじゃ科学班の人みんな鬼にされちゃいますよ!」
「…それはなんか…ちょっと違うんじゃ…」
「そうは言ってもなぁ…」
弱気になるリーバーさんをアレンと2人でなんとか元気づける。
あれ? じゃ、全員捕まっちゃえば簡単に缶蹴り終わるんじゃ?
と思ってそのまま質問してみたら、暴走している所為で、全員が捕まった時点でまたやり直しになるだけなんだそうな。
え、エンドレス、鬼ごっこ…!!
嫌過ぎる…!
「私、全然、運動神経には自信ありませんけど。それでも居ないよりはましだと思うんです。なんて言うんですか?
そう、【赤信号みんなで渡れば怖くない】!」
「気持ちは嬉しいんだけどな。…お前さんは俺を慰めてくれているのか? それとも不安にさせたいのか?」
「ともかく、任せてください!! なんの為のエクソシストだと思ってるんですか!」
「少なくとも缶蹴りをする為ではないのは確かですね」
思わず意気込んでリーバーさんに熱弁を振るっていたら、アレンに真面目に返された。
うん。実は自分でも途中から何言ってるのか判らなくなってた。
「とにかく、コムリンの暴走を止めるにはまず、室長を助け出さないといけないんだが…」
「正直、コムイさんには責任をとって、1週間くらい檻の中にでも居てもらった方がいいんじゃないかと」
「僕もの意見に同感どころか1ヶ月くらいは当然だと思いますけど、今はそれは置いておいて」
同意してくれるのは嬉しいんだけど。
今、さらっと酷いこと言ったな、アレン。
「そうすると、まずは缶を蹴りさえすればいいんですね。缶を蹴った後、コムリンは暫く動けないから…」
「その隙に装置を使えばいい、と」
んで、一斉にとにかく攻撃。
なんとなくやらなきゃいけない事は決まったわけだけど、問題は、誰が缶をけりに行くか、だよね。
話を聞いたら、缶の場所は流石に教団内のそこそこ奥のほうにあるらしい。
そこに辿り着くだけでも大変なのに、途中でコムリンの妨害が入ったら、と思うと…
う〜ん。
「…仕方ないですね。こうなったら最終兵器の出番です」
「お? 、お前さん何か自信がありそうだな」
「そう…ここらで一発隠れた才能を発揮するときですよ」
「隠れた才能…? 意外だなにそんな…」
「アレンが!!」
「僕が!?」
「おい、。言われた本人、思いっきり驚いてるぞ」
「ふふふ。缶蹴りの申し子と言われたこのアレンにかかれば…」
「どの世界で誰が言った二つ名かわかりませんけど、そんな肩書きは正直遠慮したいです」
だって、運動神経で言ったら、私、自信なんてまったくもってないし。
大体、辿り着く前にミンチにされて終わりだと思う。
ていうか、そんな遊びやったのなんて、小学生のとき以来だよ。
そんな風に私が自分に必死に言い訳をしていると、
私の冗談を真に受けたらしいアレンがため息をついた。
「ま、いいですけど。元々自分で行くつもりでしたし」
「え? い、いいの?」
「…? はい。あ、はちゃんと安全な場所に避難していてくださいね」
う。さっきのはちょっと勢いで言ってみただけなのに。
どうしよう。
素で返された。
「…うん。じゃ、じゃあ、行こうか、アレン! 私のエースストライカーぶりをとくとみるがいいわ!」
「。さっきの僕の話聞いてた?」
自分でさっき豪快に頼んじゃった手前、やっぱ私も一緒に行くーとか言い辛くなってしまった…。
自業自得とはいえ、私の馬鹿。
冷や汗をかきながら、さっきのはホンの冗談、やっぱり私も…とかなんとかブツブツ言ってたら、またため息をつかれた。
う、面倒なやつですみません。
「だって危ないんですよ? 判ってます?」
「…それじゃ、アレンだって同じだって。それに今はどこにいたって一緒だし」
「まあ、そうですけど」
「だったらきっとアレンと一緒の方が安全だよ、きっと!」
「…判りました。そこまで言うなら仕方ないですね。ちゃんと守ります。勝手にはぐれたりしないで下さいよ?」
「………」
「? どうしたんですか?」
「あ、ああ、うん。ひとつ宜しく頼むよ」
しまった。
迷子になる確立はどっこいどっこいだよ、とか思ってたら変な間が。
それに意味不明な照れがきた所為で、なんかどっかの会社の部長みたいな受け答えをしてしまった。
アレンも首を捻っているし。
「あ、そうだ。これ渡しとく」
「なんですか…機械?」
リーバーさんに渡された機械は丁度手のひらサイズくらいで、丸いレーダーのようなマス目のついた液晶に、赤い点が1つ点滅している。
なんていうか。ドラゴンレーダー…?
「敵が何処にいるのかさえ判らないんじゃ、作戦の立てようもないからな。こいつを見ればコムリンの現在地点がわかるようになってる」
こいつをつけるためにどれだけの人間が犠牲になったか…。
そう感慨深そうに語るリーバーさんの顔は完全に戦士のそれだった。
う〜ん、つくづく科学班の人たちってデスクワークなのが惜しいくらいだと思うのは私だけだろうか。
結局、リナリーは数少ない戦力になるということで、リーバーさんが迎えに行ってくれることになった。
私とアレンはとりあえず缶を蹴りに行くということで。
そうして。
教団内総出、命がけの缶蹴り大会ファイナルステージの幕が切って落とされたのだった。
……う〜ん。
なんか、格好いいんだか悪いんだか、微妙すぎる。
「こちら。応答願います。どうぞ〜?」
『こちらリーバー。通信感度は良好。どうした、なんかあったか、? どうぞ〜』
「いえ、こっちは何も。そっちの状況はどうですか? どうぞ〜」
アレンとふたり、今は通路を歩きながら別部隊のリーバーさんと情報交換中。
ちなみにさっきから言ってる「どうぞ〜」ってのは、通信が混線しないための掛け声。
まちがっても新しい「語尾」とかじゃない。
『あーこっちも今のトコ何も…って、おい! ちょ…(ザザッ)…(ジッ)……』
「ど、どうしたんですか!? リーバーさ…」
『……(ザッ)…………!? そこにいる? 怪我とかしてない?』
「あ、リナリー!? うん、無事だよ! リナリーは大丈夫?」
突然通信が途切れたから焦ったけど、
リーバーさんを押しのけて聞こえてきた声は間違いようもない、リナリーだ。
後ろからはリーバーさんの抗議の声も途切れ途切れに聞こえてくる。
てか、リナリー…。文字通り押しのけて出てきたんだ…。
普段は大人しげなのに、いったい何処にそんなバイタリティが。
でも、その声を聞いて私も安心したのも事実。
リーバーさんからはリナリーは安全だって聞いてたけど、やっぱり実際に声を聞くのとでは違うもんね。
『うん、私は大丈夫。ごめんね、。兄さんのせいで…』
「いやいや、リナリーも言ってみれば被害者なんだし。謝ることないって!」
沈んだようなリナリーの声に慌てて否定する。
そう、全てはあのメガネ室長の所為なんだから。
って普段お世話になってる人に向かって酷いけどさ。
『ありがとう…。あ、。アレンくんもそこにいる?』
「いるよ〜。変わろうか?」
『うん。お願い』
「判った、ちょっと待ってね。…ほい、アレン。リナリーからのラブラブ通信」
「ラブラブって…あのね………。…もしもし、リナリー?」
『アレンくん? 無事? ごめんね、巻き込んじゃって』
「いえ。リナリーこそ…」
複雑な表情をしたアレンに通信を代わってもらって、私は周りをきょろきょろと眺める。
一応、レーダーで近くには居ないことを確認はしているけど、用心するに越したことはない。
それにしても…ふふふ。
若い二人を眺めてニヤニヤしてしまう私。
って、自分も同じ年頃だろって?
いやいやいや、こういうのは気分ですよ、気分。
…ちょっと置いて行かれたみたいで淋しい気はするけどね。
だってさ。
リナリー…アレンと変わってくれって…
酷いよ、リナリー…私というものがありながら…!
なんて馬鹿なことをブツブツ考えてたら、突然二人の会話の中に自分の名前が出てきて思わず振り返る。
『いい? アレンくん。くれぐれも、を守ってあげてね』
「それは勿論、当然ですよ。リナリーも気をつけて」
何を言うのかと思ったらリナリーったら。
お母さんみたいなことを…。
しかも、アレンも何普通にさらっと答えてるの。
恥ずかしいな…! これ!
あ、アレン、今こっち見て苦笑した。
絶対判っててやってるんだろうな…。
さてはさっきの仕返しか?
「リーバーさん。こっちはまた、ちょっと先まで行ってみようと思うんですが…」
いつからかは判らないけど、どうやら向こうはまたリーバーさんに代わったらしい。
それからアレンは一言二言短い言葉を交わした後通信を切った。
「じゃ、行きましょう、。あちらも別方向から向かうそうです」
「よし! 行くよ、アレン! 『チーム:方向音痴』再始動だ!」
「…やっぱり止めませんか、そのネーミング。不吉すぎますよ」
ピコーン
ピコーン
「わ、わわわあ!!?」
「センサー…!?」
び、ビックリした…!
暫く回りをビクビク見渡しながら進んでいたら、突然の機械音。
慌ててアレンの手元の機械を見れば、レーダーの赤い点が先ほど見たときより明らかに近い位置にあった。
ち、近寄ってきてる…?
どどど、どうしよう!!?
一気に心臓がバクバク言い出したし!!
「気をつけて、。…見つかったら一目散に隠れて下さい。いいですね?」
「う、うん…」
って、もう随分近くに来たはずだけど、何処にもそれらしい影は…
「上です! !」
アレンの叫び声に反応して上を向くと、
「……っ!?」
そこには、結構な高さの天井に逆さまに張り付いたコムリンの姿が。
怖っ…!!!!
え。これなんていう恐怖映画!!?
「うわっ…!!」
「…! 伏せて!!」
慌ててしゃがむと、丁度さっきまで私が立って居た位置にコムリンの右アームがめり込んだ。
「怖っ!! ちょ、シャレになってないよ、これーー!!!?」
あああ、勢いに任せて一緒に行くなんていって失敗だったかも。
なんていってる間に、第二波来たぁぁぁぁーーー!!!!?
「っ…イノセンス、発動!!」
私が反応する隙もなく、同時に焦ったようなアレンの叫び声が聞こえて。
間一髪。
左アームが伸びてくる直前にアレンが発動したイノセンスが盾になってくれた。
みっともなく尻餅をついたような格好の私の上に、パラパラと瓦礫が降り落ちる。
「、大丈夫ですか!?」
「…せ、せんきゅー」
…あまりの事態に変なお礼言っちゃったよ。
わー爆風で髪の毛が凄いことにー!
とか逃避している場合じゃなくて、逆にそんなんで済んでよかったことを喜ぶべきだよ、うん。
コムリンはといえば、イノセンスを発動したからかなんなのか、
完全に標的を私からアレンに変えたみたいだ。
ご、ごめん、アレン!
正直、標的変わって助かったとか思っちゃって本当にごめん!
「先に行ってください、! 僕に構わず…!!」
「…でも!」
「いいから! 後は頼みます」
…このままここに自分がいても、何も役には立たない。
むしろやるべき事は他にある。
そう判っているからこそ、素早く立ち上がった私は
そのままアレンの有無を言わせない口調に押されるようにして駆け出した。
「ありがとう、アレン…! 貴方の犠牲は無駄にしないよ…!!!」
「いや、死んでないし」
ごめん。
ちょっと格好良く言ってみたかっただけ。
「…こちら、! 現在、アレンがコムリンと交戦中。私はそのまま室長達の救出に向かいます」
『了解…! こっちも向かってる。あんまり無茶するなよ、』
「はい、判ってます」
『それから…くれぐれもこの土壇場で迷子とか止めてくれよ…?』
「…え〜っと、善処します」
アレンに託された後、通信でリーバーさん達に現状を伝えながら一直線に廊下を走り抜ける。
途中に貼ってあった「廊下は走らない」の張り紙に多少罪悪感を覚えながら。
ごめんなさい、今はそれどころじゃないんですー!!
早く、早く!
アレンがコムリンをひきつけてくれているうちに、缶を見つけなくちゃ。
倒されるってことは多分無いだろうけど、自爆装置が有効なうちはアレンも下手に手を出せないし。
そうなると、いかにエクソシストでも防戦一方なわけで。
とりあえず缶を蹴りさえすれば、コムリンを暫く止められるはず。
そう思ってさっきから目標に向かって走っているわけなんだけど。
ああ。もう、私の足の遅さが恨めしい…!
こんなことなら、過去に行った時もっと真面目にクロス師匠の修行受けとくんだった…!
まあ、サボってはいなかったけど。何故って勿論、クロスさんが怖いから。
あ、駄目だ。
もうバテて来た。
と。あった…!
大きな部屋の中央に缶が置いてある。
標的を見つけた私はそのままの勢いで走りこんで助走をつける。
せーーっのっ!!
「缶、蹴ーーーーーったっ!!」
って、なんか私も結局ノリノリですみません。
缶を足で蹴る一際甲高い音が響いた後、カラカラと金物が甲高い音を立てて転がった。
ちょっと気持ちいいな、これ…!!
その途端、背後で一斉に檻が開く音がした。
「よくやった! !」
「ありがとう…!」
次々に出てくる科学班…じゃない人も若干混ざってるけど。
本当、コムリン、無差別もいいとこだよ…。
ともかく、コムリンに捉えられていた人が開放されていく。
まあ、これも全てアレンの犠牲があってのことなんですけどね。お礼なら彼に言ってやってください。
きっと凄い戸惑いますから。むしろ、私がそれを見たい。あ、いけない、変な妄想で萌えてる場合じゃなかった。
よし!
後はコムイさんを見つけて…
おかしいな…さっきから全然出てくる様子がない…?
不思議に思って、檻の中をぐるりと見渡すと…
なぜか体育座りで隅っこのほうに座っているコムイさんを見つけた。
なんか…非常に近寄りたくない雰囲気なんだけど…行かないわけにもいかないよなぁ。
意を決して、コムイさんのほうへ駆け寄っていく。
「コムイさん!」
「…ちゃん?」
「早速ですけど、その装置…」
「嫌」
「そう、嫌。って、…………え!? 嫌? 何で!!?」
え? 今の私の聞き間違い?
予想外のコムイさんの答えに思わず耳を疑った。
相変わらず体育座りのまま、拗ねたような表情のコムイさん。
うう、大の大人が…普段の威厳台無しですよ、本当。
「だって、皆、これを渡したら…コムリンを破壊するつもりだろう?」
「当然です」
なにしろみんな、そのために頑張っているんだから。
そう私がきっぱり告げるとコムイさんは突然大声で泣き叫び始めた。
「いやだい! いやだい! ボクの可愛いコムリンを破壊なんてさせるもんかーー!!!」
「駄々っ子ですか、アンタはーー!!!」
なんかもう哀れ通り越して、いっそ愉快だ。
「ともかく、ボクの愛するコムリンを壊すなんて駄目だ!」
「ええと…また同じもの作る…とか駄目です…か?」
「それだって、今いる可愛いコムリンと同じものはもう2度と作れないかもしれないじゃないか…!」
って、号泣しすぎですよ、コムイさん。折角美形なのに…
しかし、言っていることは無茶苦茶だけど。
本当に自分の作ったコムリンに愛情を注いでるんだなあ。
ああ、いかん、いかん。
情に流されちゃ。
私が黙ったのを説得の好機と捉えたのか、コムイさんが更に捲し立てる。
「ちゃん…」
「な、なんですか?」
「今は…コムリンはコーヒーの所為で、ちょっと暴走しているだけなんだ。可愛い子供の悪戯みたいなもんだよ?」
「その子供の悪戯で、今、正にこの教団が壊滅しかかっているわけですが」
てか、さっきから思ってるんだけど、そんなに可愛いんなら「自爆装置」なんてつけなきゃいいのに。
思わずそう言ったら、ソレとコレとは別。ときっぱり言われた。
判らん…!!
天才科学者の考えることはさっぱりわからん…!!
「!」
「リナリー!」
そんなコムイさんの頑な様子に困っていると、扉の方から懐かしい声が聞こえた。
やった! 天の助け!
と思ったのは私だけじゃなかったみたいで。
「リナリィィーー!!!! 聞いてよ! 酷いんだよ、皆してボクを苛めるんだ!!」
「おおおおぉぉ…!!?」
しまった。先越された。
凄い勢いでリナリーに向かって突進していくコムイさん。
そんな人をいじめっ子みたいに言わんでも!
「兄さん…いい加減反省しないと、私も流石に怒るわよ?」
「そんな、リナリーまで!!?」
「室長…もういいでしょう。年貢の納め時ってやつですよ」
「リーバー班長…」
おお、凄い。
まるで、追い詰めた刑事と説得される犯人。
特に今のリーバーさんの登場の仕方なんて、思いっきり刑事そのものだ。
さながら、2時間ドラマの最後のシーンのような光景が展開される。
リナリーとリーバー班長に立て続けに説得されて、コムイさんも落ち着いたのかさっきからじっとして動かない。
流石に観念したとか…?
とか思った私が甘かった。
「こんな…こんなものがあるから…!!」
手の中の装置を見つめながら震えだしたコムイさん。
い、嫌な予感がする…!
「まさか…! ちょ、コムイさ」
慌てて止めようとしたけど、時既に遅く。
って、あああ! やっぱり
投げたァァァァーーーーー!!?
「逃げろぉぉぉぉーーーコムリーーーーーン! 地の果てまでもーーーー!!!!」
「何してんですか、しつちょぉぉぉぉーーーーーー!!!!!」
意味不明の言葉を叫びつつコムイさんが投げた装置は、そのまま綺麗に地下に吸い込まれるようにして消えていった。
まさかの事態に呆気にとられる私、リナリー、リーバー班長、その他諸々。
なんかもう何これ。
何この異様なテンション。
『…!!』
「アレン?」
と、耳元の通信機からアレンの声が聞こえた。
こちらも切羽詰った声。
『ごめん、コムリンを見失いました…! 今何処ですか? 僕も今、そっちに向かい…』
ドォォォーーーーーーーーン
な、何!?
アレンの言葉をかき消すように現れたのは…
ギギギと首を向ける。
「コムリ…ン…?」
何、この最悪のタイミング!
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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
◇あとがき◇
お疲れ様でした…今回長くてすみません!
今サイト内でこっそり実施しているアンケートでギャグが圧倒的に多かったので、
ギャグに走ってみたら、収拾がつかなくなりました…!(限度を考えましょう)
本当、これどうしよう。
そろそろ原作沿いを考えているので、これからはあんまり騒ぐことも出来なくなりそうだし…騒ぎ収めってことでひとつ。
まだ、ちょっとだけ続きますので、今回で見捨てずお付き合いいただければ幸いです。
(H19.11.26)